第776話 もう少し情報感度を高めておいたほうがいい
「それじゃあ、また明日」
「おう、またな!」
夕食後の練習会が終わり、男女で分かれて大浴場へ向かう。
そして自然の成り行きとでもいえばいいのだろうか、女子の一団はファティマが率いる形となっている。
まあ、そもそもとしてファティマは俺たちパーティのリーダーだもんね。
それに、1年女子の中だと王女殿下を除けば、ファティマとパルフェナの存在感がかなり強めである。
そこに、今回の武闘大会を経てノアキアやゼネットナット、ドーズといった実力派異種族ガールたちまでファティマとパルフェナにくっついているのだ、どうしたってリーダー感が増してくるだろうさ。
そんなことを思いつつ、女子の一団を見送るのだった。
「さて、我々も大浴場に向かうとするか」
「ええ、そうですね」
「フフッ、今日初めて一緒に入る者たちがいる……ということは、アレス?」
「ハハッ! セテルタよ……今日もやるか!?」
「よしきた! そうこなくっちゃ!!」
「この人らも、飽きねぇなぁ……」
「でもまあ、なんだかんだいって結局は僕らも楽しんでしまいますからねぇ……」
「あはは……そだね……」
「……男たちの背中は、今日もモミジの葉が鮮やかに……」
トーリグやハソッド、ソイルが若干呆れた物言いをしている中で、ヴィーンの呟きがステキな響きを放っている。
「ほう、ヴィーンよ……その言葉、なかなかに風流じゃないか!」
「……そうか、それはよかった……風流……うむ」
「う、う~ん……また少しヴィーン様がアレスさん色に染まってしまった……」
「ま、まあ、こんだけ日常的につるんでりゃ、多少はなぁ……」
「ええ、仕方のないことかもしれませんねぇ……」
俺とヴィーンのやりとりに対し、やっぱりソイルたちは呆れた物言いをしている。
とはいえ、これはヴィーンが俺色に染まってきているわけではなく、もとからあった地の色が出てきているといえるのかもしれない。
「な、なんだこの雰囲気……いったい何が起ころうとしているんだ?」
「まさか、お前……知らないのか?」
「おいおい、マジかよ……それでもこの学園の生徒なのか?」
「まったく、不見識極まりないな……」
「まあ、ワイも話で聞いたことがあるだけで、実際に経験したことはないんだが……それにしたって、今まで知らなかったっていうのはなぁ……」
「ああ、ここまでってなると……どんだけ世間に興味がないのかって、人間性を疑うレベルだぜ……」
「えぇと、失礼なことをいうようですが、君……もう少し情報感度を高めておいたほうがいいと思いますよ?」
「……えっ? え? なんで俺、こんなボロクソにいわれてんの……? ていうか、誰も教えてくれないの?」
これからモミジ祭りに初参加となる男子たちの会話が聞こえてくる。
そうか、何も知らない奴がいるのか……これはより楽しめそうだ。
そして同じように会話が聞こえてきていたのであろう、セテルタが俺の隣でニヤリとしている。
フフッ……お前もなかなかのワルだねぇ?
すると、セテルタが「アレスこそ」ってアイコンタクトを返してくる。
「そっか……何も知らないんだね……それならそれで、これから起こることに自然体で身を任せたらいいんじゃないかな?」
「そうかもしれないな……大丈夫、何も恐れることはないさ」
「何事も経験第一! 男なら、ドンとぶつかって行くしかねぇって!!」
「左様、男という生き物はな……叩かれて叩かれて、何度も叩かれて……それでも挫けずに立ち向かって行くものなのだ……分かるな?」
「そうだとも! ガッツだ、ガッツ!!」
「勇気を持ちし者には、扉が開かれる……これ、男の常識ね!」
また、何も知らない奴に対し、既にモミジ祭りを経験しているビムたちがアドバイスを送っているようだ。
その中には「もう、答え言っちゃってんじゃん!」っていうものもあったが……どうやら気付かれていない様子。
おそらく勘のいい奴なら、このアドバイスでピーンと来ちゃうんだろうなって思うところだが……もしかすると、これこそが情報感度というべきものかもしれない。
ふむ……俺も決して勘のいいほうじゃないからな……気を付けたいところだ。
「なんていうか、勇気付けようとしてくれてるのは分かる……ただ、それより何が起こるか教えてほしいんだが……」
「甘ったれんな!!」
「そうさな……では、お前のような甘えん坊さんに一つ尋ねるとするが……例えば森に入ったとして、モンスターが『私はこれから、この手であなたに一発かまします』などと教えてくれると思うか?」
「い、いや、それはまあ……教えてくれないと思う……」
「……だろう? そういうことだ」
「といいつつ、僕たちがモンスターたちの言葉を理解できていないだけで、実は教えてくれている可能性もありますけどね……まあ、ないとは思いますが……」
「とにかく常在戦場……これも男の常識ね!」
「な、なるほど………………ただ、結局答えは分からないままだったなぁ……」
やっぱり! 思いっきり答え言っちゃってるよね!?
しかしながら、彼はなおも気付いていない様子で無防備な背中を晒しているようだ。
ふむ……そんな君には、アツい一発をお見舞いしてあげるべきだろうな!
そんなこんなで大浴場にて……モミジ祭り、開催!!
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