第777話 雅

「なんだよ……なんだよあれ! メチャクチャ楽しいイベントだったじゃないか!!」

「お、おう……そうか……」

「いやぁ、お前らがやたらとヤバそうな雰囲気を出すからさぁ、俺も無駄にビビっちまってたけど全ッ然! あの瞬間は、最ッ高にソウルフルでエキサイティングなステキ空間だった!!」

「ま、まあ……お前がそう思えたのなら、よかったんじゃないか? うん」


 さっきまでモミジ祭りを知らなかった男のテンションが、これでもかってぐらい上がっている。

 それに対し、周囲は引き気味だ。


「まったくよぉ! あんな楽しいイベントがあったのなら、もっと早く教えてくれればよかったのに!!」

「え、えぇ……そこまでなの?」

「まあ、盛り上がったのは確かではあるけどね……」

「いやいや、そうはいってもハマり過ぎでしょ……」

「つーか、『早く教えてくれればよかったのに』とか言ってっけど、それは情報収集を怠ったオメェの責任じゃね?」

「ふむ……その甘えん坊さんマインドを叩き直すのが、お前の今後の課題といったところかな?」

「おっ、そっか! ならもっと叩いてくれ! ほら、背中のこの辺! まだまだ赤みが足りないだろ? 思いっきりキツいのをくれよ! おっと、だからといって簡単に叩けると思っちゃいけない! 俺の俊敏な身のこなしを見事に捉えてからだからな!! 順番を間違うなよ!? フハハハハ!!」

「うぇぇ……マジかよ、コイツ……」

「ウゼェ……ひたすらにウゼェ……」

「あの、アレスさん、セテルタさん……調子に乗ってるコイツに、スンゴイのを入れてやっちゃくれませんかね?」


 当然の流れというべきか、そんな依頼がきた。

 あと、ここで俺とセテルタを選ぶ辺り、なかなかセンスがいいじゃないか。


「セテルタよ、本日のモミジ祭りは無事終了したと思っていたが……どうやら後夜祭をご希望らしいぞ?」

「どうやらそうみたいだね……フフッ、とんだ欲しがりさんもいたものだよ」

「まあ、そんな希望に応えてやるのが、男というものだろう?」

「そうだね、アレスの意見……僕も全面的に賛成しちゃうよ」

「よし……ならば奴の背中に、最高に鮮やかなモミジの葉を刻んでやるとしよう!」

「フフッ、フフフフフ……しばらく残るぐらいの、アッツ~いのを贈ってあげようね!」


 こうして俺とセテルタの意見が一致。


「な、なんと! あのミスターモミジ祭りの称号を争う2人が、今回ばかりは協力し……再び動き出した……!!」

「ゴクリ……」

「おい、誰かナウルン読んで来いよ! この場面、絶対実況映えすっぞ!?」

「チッ! あの野郎、なんで今いねぇんだよ、タイミング悪ぃな!!」

「ついでだから、スタン君の解説もあったらよかったのにねぇ?」

「まっ、いない奴のことを求めて嘆いていても始まらん! ここはワイらで雰囲気をアゲて行くしかだろ!?」

「アレスさん! セテルタさん! 目の覚めるような一発を頼んますよ!!」

「舐めたことを抜かす背中に……鮮烈な一発を期待」

「ハハッ! いいねぇ、この雰囲気……こっちまでヒリヒリしてくるじゃねぇか……」

「まあ、さっき叩かれたところが本当にヒリヒリしてるんだけどね……」

「そんなことより! 俺たちもアレスさんとセテルタさんを応援しようぜ!!」

「よっしゃ!!」

「アーレース!! セーテルタ!!」

「「「アーレース!! セーテルタ!!」」」


 おお、武闘大会の熱気を思い出すねぇ……

 といいつつ、「それは風呂場の熱気だろ!」ってツッコミも聞こえてきそうだが、それはそれ。


「へへっ……いくら学園トップクラスの実力を持つ2人だからって、それがどうした!? 俺の背中は安くねぇぞ!!」

「ほぉぅ? なかなかよく吠えるじゃないか……その意気やよし」

「フフッ、これは滾るねぇ……いいよ、凄くいい」

「アーレース!! セーテルタ!!」

「「「アーレース!! セーテルタ!!」」」


 そうして俺とセテルタは、ゆっくりと距離を詰めていく。


「セテルタ、右側よろしく! 俺は左側から攻める!!」

「合点だ!!」

「おうおう! この俺に2人がかりだなんて、豪華なことこの上ナシ! アハハハハ、最ッ高の気分だぜッ!!」

「アーレース!! セーテルタ!!」

「「「アーレース!! セーテルタ!!」」」


 ふむふむ、確か「俺の背中は安くない」だったか……言うだけあって、意外と身のこなしは悪くないようだ。

 だが……


「今はまだ、悪くない……というレベルだな?」

「そういうこと!」

「……ッ!? しまっ……!!」

「遅い!!」

「ギィヤァァァッァァァァァッ!!」

「さらにもう一発!!」

「アッ! ギヒッヤァァァァァァァァァァッ!!」

「「「おぉっ! 決まった!!」」」

「……ハァーッ……フゥ―ッ……!!」

「うわぁ……真っ赤っか……」

「シンプルに言って、痛そう……」

「ああ、芯にまで達する痛みだろうな」

「それはそうと……実に雅な背中だ」

「これぞまさしく、芸術の秋!」

「うむ、秋の紅葉を今年一番満喫しているのは我々だといっても過言ではあるまい」


 そうだね、あの背中を眺める瞬間こそ、モミジ祭りの真骨頂だろう。

 さて……彼も多少は息が整ってきたかな?


「……どうだ? お望みどおり、渾身の一発をくれてやったぞ?」

「僕も、今宵最高の一発をお見舞いできたと自負しているぐらいさ」

「……ハァ……フゥ……アァッ、スゲェよ! 俺が欲しかったのはこれだよ! これェッ!! ハァーッ、ハハハハハ!!」


 ふむ……「ミスターモミジ祭り」の称号は、彼にこそふさわしいのかもしれないな……

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