第778話 理屈が付いている様子
「お前たち、お遊びはそれぐらいにして、しっかりと風呂に浸かれ……体が冷えても知らんぞ?」
「まあ、楽しさのあまり羽目を外してしまう気持ちも分かりますけどね……」
「確かに……そして、今日初めてモミジ祭りに参加したのであれば、なおのこと仕方ないかもしれませんねぇ……」
「まっ! 新参のヒヨッコ共がピーピー鳴くのは、どこの界隈でも一緒ってこったな!!」
「なんだろう、この……みんなのベテラン風の吹かせ具合は……」
「……今宵のモミジも、実に風流」
ロイターにたしなめられてしまったし、そろそろ静かに風呂に浸かるとしますかね。
それに、あまり騒ぎ過ぎると先輩たちにキレられるかもしれないしさ。
なんて思いつつ周囲を見渡してみたところ……先輩らしき男性たちと目が合いそうになるたび、次々にサッと目を逸らされてしまう。
そしてもちろん、同学年らしき男子たちからも同じ反応が多数。
まあね、モミジ祭りは実際に参加してこそ、その良さが分かるってタイプの催しだろうからなぁ……
とりあえず、モミジ祭りについても徐々に楽しさを伝えていきたいものだ。
そうしていつしかモミジ祭りが、カイラスエント王国の伝統行事として根付いていってくれればと思う次第である。
「……お前が本気でそうしようと思えば、本当に根付いていきそうだと思わされる辺り、まったくもって恐ろしいものだ」
「そうですね……アレスさんならやりかねないと僕も思ってしまいますよ」
またコイツらは、ナチュラルに人の心を読みよってからに!
俺の心のプライバシーはどうなっているんだ、まったく!!
「目線……ですかねぇ?」
「……目は口ほどに物を言う」
「あ、それ! 確か、アレスさんが親しみを持っている焔の国で使われている言い回しでしたよね?」
「まっ! とりあえずロイターさんがよく言う、アレスさんの顔がうるさいってのは、そういうことなのかもしれねぇなぁ?」
……ハァ!? 俺は王国一のクールフェイスの持ち主なんだぞ!!
「アレスの顔のうるささはともかくとして……モミジ祭りは流行るよ! そういう確信が僕にはある!!」
ともかくとするのか……セテルタよ……
でもまあ、同志セテルタの確信とあらば心強いものだ。
「なぁ、俺たちもロイターさんたちみたいに、いつかはアレスさんの表情を読むことができるようになるのかな?」
「さぁ、どうだろうなぁ……」
「今日で多少慣れたとはいえ……正直、まだちょっと心の奥底ではおっかないって思ってる気持ちもあるんだよなぁ……」
「うんうん、その気持ち……分かるよ」
「少なくとも、恐れを抱いているうちは難しいだろうな……」
「へへっ……この背中のアツさが、アレスさんの真心を教えてくれている気がするぜ!」
「う、う~ん……それって、どうなんだろ……」
「まあ、本人が満足しているのなら、それでよかろう……たぶん」
「僕は武闘大会の予選で剣を交えたとき、アレスさんと心を通わすことができた……そう思ってる」
「ああ、アレスさんは、ガッツにはガッツで応えてくれる人だ! それが分かればじゅうぶん!!」
「無理に読もうとしなくていい、自然と心で受け止めているから……これ、男の常識ね!」
うむ……俺もビムたち予選で対戦した男たちと、剣を通して心の会話ができたと思っているよ。
「それにしても、本当にモミジ祭りがこの王国に根付いたとしたら……他国からはどう思われるんだろうなぁ……?」
「冷静になって考えてみると……奇祭って呼ばれそうだね……」
「いやいや、世の中にはもっともっとワケ分かんねぇ祭りが山ほどあんだろ? そういうのに比べたら、こっちは理解可能なほうだと思うぜ?」
「理解可能って……どの辺が? ただ背中を叩き合って遊んでるだけで、それ以外の特別な意味なんてないのに?」
「いいや、あるじゃないか……男同士の結束を高めるっていう意味がな!」
「後付けぇ! それ、めっちゃ後付けじゃ~ん!!」
「後付け……そうだな、おそらく後世のシュウやスタンみたいな奴らが、もっともらしい理由を捻り出してくっつけてくれているだろうさ」
「おお、視える視える……『背中を叩くことで、体に入り込んだ邪気を祓っている』みたいな理屈が付いている様子が、ありありとな!」
「うわぁ、ありそう! なんか、頭にスッと入って来たもん!!」
「あのですね……君たちのその言い方、シュウ君やスタン君が聞いたら気分を悪くするかもしれませんよ?」
「おっと、ワリィワリィ! でも、きっとそんな感じだろ?」
「とかく人という生き物は理由を求めたがるものだろうからな……その欲求には抗えまい」
「まあまあ、そんな距離的にも時間的にも遠い人たちのことは気にしないでさ、僕らは僕らなりに今を楽しもうよ!」
「今を楽しむ……そうだな! 俺たちが集中すべきは今を置いてほかにないもんな!!」
奇祭ねぇ……まあ、俺もモミジ祭りは比較的マイルドな部類に属するとは思うけどね。
そして、今に集中か……うむ、これは大事な考え方だろうな、俺もそういう姿勢を忘れないようにしたいものだ。
「さて、体もしっかり温まったところで……そろそろ上がるとするか」
こうしてロイターの号令の下、俺たちは風呂から上がることにしたのだった。
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