第779話 それなりに五感は機能している

 風呂上りは、各自好みの飲み物でリラックスタイム。

 俺はもちろん、アイスミルクコーヒーをチョイス。

 まあ、ポーションを飲んでもよかったんだけど、そうするとせっかくのモミジが消えちゃうからさ……

 そしてこのことから、ポーションさんサイドからすると、背中のモミジはダメージって判定になるようだ。

 とはいえ、既に服を着ているため、紅葉を視覚で楽しむわけではない。

 そこで、俺たちはヒリヒリとかジンジンといった背中のアツさを皮膚感覚として味わっているのさ。


「へへっ……この背中のアツさが、俺に『生きている』って実感を与えてくれるぜ!」

「そりゃあね……生きてなきゃ、痛覚も働いてくれないんじゃない?」

「確かになぁ」

「でもよ、それを言うならアンデッドのモンスターなんかは痛覚とかないのかねぇ?」

「う~ん……あんまなさそうな気はする」

「ああ、そういえば……昔、父上からヴァンパイアを討伐したときの話を聞かせてもらった感じだと、吸血とかそれにより仲間を増やすみたいな特性こそあるものの、戦闘それ自体は俺ら人間族同士のものとあんまり変わらなかったみたいだぞ? だから、斬り付ければ普通にダメージを喰らったみたいな反応をしてたみたいだし、そう考えるとアンデッドにも痛覚があるんじゃないか?」

「ふぅん、なるほどねぇ」

「とりあえず、ヴァンパイアはそうなんだとしても……単にフラフラ歩いてるだけのザコゾンビとかには痛覚なんかなさそうだけどな?」

「うんうん、腕とか斬り飛ばしても、そのまま躊躇なく向かって来るもんね?」

「それもそうだな」

「……まっ! 結局さ、そのモンスターによるってことじゃね?」

「まあ、同じ種族だとしても、進化具合によって違うこともあるだろうしな……」


 アンデッドの痛覚ねぇ……

 最終的には、モンスターによるってことになるんだろうなって俺も思う。

 ちなみに、身体がスケルトンになっているレミリネ師匠はというと……そもそも論として攻撃をヒットさせること自体、不可能と言っても過言ではないレベルだからなぁ……ハッキリ言って、痛覚云々以前の問題だろう。

 ただ、様子を見ていて、それなりに五感は機能しているんじゃないかとは思うんだよね。


「お前ら……アンデッド談義はほどほどにして、もうちょっとサッパリした話をしないか?」

「まだ食事中じゃないだけマシだけど……かといって、アンデッドのことをイメージしながらジュースを飲むのもね……」

「ほぉう……すると何か、俺がこうして赤き血を啜っているのも気に入らないと?」

「オメェ、いつからヴァンパイアになったんだよ? しかもそれ、ストロベリージュースだろ?」

「ひやぁ~っ! 甘酸っぺぇ!!」

「そこはせめてトマトジュースにしとけよ……」


 そんなことをノンビリ話していると……


「あ~っ! あんたたちでしょ~? お風呂場で騒いでたの!!」

「ハァ? 知らねぇなぁ、なんのこと言ってんだ?」

「ごまかそうったって、そうはいかないんだからね! だって、こっちまで声が聞こえてたんだから!!」

「まあ、内容までは分からなかったのだけれど……」

「でも、なんだか楽しそうな声だったよね?」

「ねぇねぇ! 何してたのぉ?」


 女湯から上がって来たのだろう、女子のグループがこちらの男子たちに声をかけてきた。


「アァ? 声が聞こえただぁ? それだけで俺たちだって勝手に濡れ衣を着せるのは心外ってもんだぜ?」

「何言ってんの! ほかの男子の声ならともかく、あんたの声ぐらい幼馴染の私には分かるわよ! もうっ! 恥ずかしいことばっかしないでよね! 領地が隣の私まで同類に思われるじゃない!!」

「やれやれ、カンベンしてくれよ……何が悲しくてお前の指図なんか受けなきゃなんねぇんだ……」

「何が『やれやれ』よ! こっちは、あんたのお母さんに『バカなことをしていたら、注意してあげて』って頼まれてるんだからね!? こっちこそ、やれやれだわ!!」

「……なッ! クッソ! 母さんも余計なことを!!」


 そういえば……前世のアニメとかで、こういうドタバタラブコメみたいなシーンを見たことがある気がするなぁ。

 そして、この男女の微笑ましい言い合いを見ていると、なんとなくモブキャラの気分を味わえるね。

 いや、まあ、この世界においてゴリッゴリのメインキャラであろう俺が何言ってんだって話かもしれないけどさ……

 といいつつ、原作ゲームのシナリオからも、まあまあ外れてきているとは思うんだけどねぇ……


「コイツら……こんなにお似合いのくせして、未だに『単なる幼馴染』とか抜かしてるんだもんなぁ……」

「そうねぇ、親御さんたちも完全にそのつもりでしょうに……」

「こういうのを、世間では往生際が悪いと言うのだろうさ」

「でも、なんだか楽しそうで羨ましくなっちゃうよね?」

「……そ、それならっ! ぼ、ぼ、僕と! お、おしゃべり……し、し、しませんか!?」

「そうだね……とりあえず、そんなガッチガチに緊張してたら話しづらいよね? だからほら、まずは深呼吸してリラックスしよ?」

「あ、あっ! はっ、はい! ハァ―ッ!! フゥーッ!!」

「お前なぁ……そんな力の入った呼吸してたら、余計に心拍数上がるんじゃねぇか?」

「うんうん、今こそアレスさんに教えてもらった魔力操作の出番じゃない?」

「ねぇねぇ! それはそうと、何してたか教えてくれないのぉ!?」

「フッ、悪いな嬢ちゃん……これは俺たち、男の世界のことだからよ……女子供には軽はずみに話せないのさ」

「えぇ……そんなぁ……!」


 う~ん、いちごミルクを飲んでる男がシブく決めようとしてもなぁ……

 なんて、アイスミルクコーヒーを飲んでいる俺が頭の片隅で思っていたのだった。

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