第775話 お目覚めになられましたかな?
「うむ、今日のところはこれぐらいでいいだろう……皆、目を開け魔力との戯れから戻ってきていいぞ」
この魔力操作は、もちろん魔法技能の養成を意図したものであったが、それにプラスして運動後のクールダウン的な意味も込めておこなっていた。
また、それだけではなく一生懸命頑張った心と体を労わる癒しの時間にもしようと思い、回復効果のある光属性の魔力もほのかに放出しておいた。
これに気付くことができた子は、日頃から魔力操作を頑張っているということができるだろう。
こうして本日の練習が終わったところで、参加者の1人が立ち上がり……
「みなさ~ん、練習を頑張ったあとのクッキーはいかがですか~?」
なんと、クッキー作りのスペシャリストたるメノ・ルクストリーツ嬢から、クッキーの差し入れ!
そして、もっといえば……そう! あの腹内アレス君お気に入りの!!
『……うるさい』
『おやおや、クッキーの匂いにつられてお目覚めになられましたかな?』
『……だから、うるさいといっている』
『はいはい、分かりましたよぉ』
まったく……腹内アレス君ったら、照れ照れボーイなんだからっ!
『……黙って、クッキーを食え』
『はぁ~い』
そんなことを腹内アレス君と話しているうちに、周囲のみんなもメノのクッキーを食べている。
まあ、しっかり体を動かしたからね、ちょっとぐらいの甘味も問題ないのさ!
「美味い……こんなクッキーを食べたの初めてだ……」
「これ……手作りだよな?」
「ああ、そうだろうな……」
「ということは……ひょっとして、メノ嬢が?」
「まっさかぁ!」
「いや……確かクッキー作りに力を入れていると聞いたことがあった気がするぞ?」
「うっひょ~っ! 手作り万歳!!」
「フフッ……このクッキーから、メノさんの愛を感じるよ」
「まあ、愛情がこもっていたとしても、それはお前だけに向けたものじゃないだろうけどな?」
「おいおい、それはいってやるなよ……」
「うぅ……」
男子たちの絶賛の嵐。
ふむ、メノも順調に腕を上げているようだ。
というわけで、腹内アレス君の感想をメノにお届け。
すると、メノの表情がパァ~ッと明るくなった。
うんうん、こりゃさらにモチベーションが上がったようだね?
「やられた! お菓子の差し入れという手があったか!!」
「うふふ……メノさんに一歩リードされてしまいましたわね……」
「メノ・ルクストリーツ……侮れない子……」
「なるほど、受け身の姿勢だけではいけないということですか……勉強になりました」
「負けてられない……」
なんか、メノ以外の女子たちのハートにも火が付いたっぽい?
そしてクッキーの感想だけではなく……
「……ふぅ~っ……あちし、こんなに真剣に魔力操作をやったのって、初めてかも!」
「確かにそうかもしれない……」
「うんうん、家でやらされてたときとか、もっとテキトーにやっててもオッケーだったもんね?」
「そうだねぇ……家庭教師の先生とかも、最初のうちはまあまあうるさくいってきてたけど、それもしばらくするうちにあんまりいわなくなってったしなぁ」
おいおい、その家庭教師とやら……もっとしっかりせんかい!
「でもなんていうのかな……今日の魔力操作は、いつもとは違ったっていうか……う~ん、上手く言葉にできないけど……でも、なんかよかったって思う!」
「そう! ウチもそれがいいたかった!!」
「私……知らなかった……魔力操作がこんなに心地いいものだったなんて……」
「ええ、わたくしも同感だわ」
ほう? 魔力操作の素晴らしさに目覚め始めている子もいるようだね。
実に良い傾向だ。
「……そっか! これがアレス様のおっしゃっている、魔力との戯れってことなんだ!!」
「なるほど、これが……」
「とはいえ、私はまだ戯れているって思えるほどの域に達していないけれど……でもいつか、そこに辿り着きたいって思うわ」
「私も私も~っ! アレス様の見ている光景を、自分でも見たいなっ!!」
フフッ、見れるさ……魔力は常に我々と共に在るのだから。
「……魔力操作をしているとき、アレス様のほうからうっすらと光属性の魔力が感じられた……たぶん、あの安らぎはそれによるものだと思われ……」
「えっ、光属性……? うわぁ……アタシ、全然気づかなかった! めっちゃショック!!」
「う、う~ん……なんとなく、あったかい感じはした気がするけど……それだったのかなぁ?」
「そう! それだよ、きっと!!」
「我はアレス様の光に包まれし者……この輝きは、永遠に……」
「……ん? アンタ……何いってんの?」
「しーっ! この子は、突発的にこんな感じで浸っちゃう子だから、こういうときはそっとしておくのよ……」
「ふ、ふぅ~ん? そうなんだ……じゃあ、そっとしておこうかな」
「うん、それがいいよ」
「アレス様に導かれし光の軍勢が……いつしか、この王国の苦難を救うであろう……」
「ね、ねぇ……本当にこの子、大丈夫なの?」
「う、うん……たぶん?」
「えぇ……」
なんというか……「導く」って言葉を耳にすると、あのうさんくさい導き手のことを思い出しちゃうんだよなぁ……
ここんところ姿を見ていなかったけど……今頃、またどこぞで誰かにくだらんことを吹き込んでいるのだろうか?
まあ、奴のことだから上手い具合に誰にも見破られず武闘大会の会場に潜り込んでいて、しれっと観戦を楽しんでいたのかもしれないけどさ。
というか、次のターゲットでも物色していたりして……ああ、嫌だ嫌だ……
まあ、導く云々は置いておくとしても、原作ゲームのように魔王が復活した場合、みんなが最低でも自分の身ぐらいは守れるよう今からレベルアップさせておいてやりたいね。
「剣術の稽古だけでも凄く学びの多い時間だったのに……こんなにレベルの高い魔力操作まで経験させてもらえるなんて……まさに最高」
「そうだね! 私たち、この幸運に感謝しなくっちゃ!!」
「今日誘う暇がなかった子たちにも、明日声をかけてあげよ~っと!」
「ええ、そうね……ステキな時間はみんなで共有すべきだわ」
「賛成! 賛成~っ!!」
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