第660話 油断ならない

『さぁて、審判の掛け声により2回戦第2試合! ヴィーン・ランジグカンザ対セテルタ・モッツケラスの試合が始まりました!! そこでスタンさん……両者の1回戦の内容としては、ピンポイントで技ありのウォーターバレットを決めたヴィーン選手、そして多彩な魔法を駆使し最後は大技アシッドレインで決めたセテルタ選手といった感じだったと思いますが……この試合の見どころはどういったところになるでしょうか?』

『この試合は……魔法戦闘でも物理戦闘でも基本的な技量は高い2人ですので、とっさの判断によって明暗が分かれることになる気がしますね……そしてやはり1回戦同様、ヴィーンさんによる盲点を突いた攻撃は要警戒でしょうし、対して多属性の魔法を自在に操るセテルタさんの攻撃をどう掻い潜って攻撃を入れるか……そうした一つ一つの攻防を注意深く見ていく必要がありそうです』

『なるほど、一瞬たりとも見逃せない……まさに手に汗握る攻防が期待できそうですね!』

『そうですね……また、その瞬間をぜひとも見逃したくないということであれば、2人のポーション瓶に注目しながら観戦してみるのも手かもしれません』

『ポーション瓶に注目しながら……確かにヴィーン選手の1回戦の勝ち方を考えれば、その観戦の仕方もよさそうですね! といったところで序盤の攻防としては、セテルタ選手が次々に放つ魔法をヴィーン選手が丁寧に捌いていくといった形で進んでいます!』


 ふむ……まずは魔法による攻防からスタートといったところか。


「1回戦のことが頭に残ってるせいか、淡々と魔法を捌き続けるヴィーンがおっかなく見えてくるぜ……」

「そうだね……どの瞬間にウォーターバレットで狙ってくるかって考えると……気が気じゃないもんね……」

「まあ、セテルタだってその辺は抜かりなく防御を固めてるんだろうけどな」

「しっかし……セテルタさんの魔法は相変わらず種類が豊富だねぇ……」

「ああ、さっすが『多属性の天才』といったところか?」

「それに対するヴィーンはっていうと……水属性の魔法ばっか使ってるところを見ると、アイツの適性としては水属性なんだろうな……」

「たぶん、そうなんだろうね……」

「ま! 多属性がどうのこうのっていうけどよ……やっぱりどれか一つの属性に特化して極めたほうが強いんじゃねぇの?」

「その辺はどうなんだろうね……人によるとしかいえない気が……」


 まあ、器用貧乏って言葉もあるぐらいだからねぇ……

 とはいえ、複数の属性の魔法を使うこと自体は誰にも可能だろうけど、セテルタの運用レベルまで持ってくことができる奴なんてホント一握りだろう。

 そう考えると、なんだかんだいって結局のところ、多くの奴は特化せざるを得ないって感じに落ち着く気がする。

 ただね、それでもコツコツと魔力操作を続けていけば、道は開けると俺は思っているんだ……

 だからみんな! 魔力操作をやろうぜ!!

 なんてことを思いつつ……やはりヴィーンは、ソイルの仲間だけあるなって感じがしてくる。

 それについては……ヴィーンに注目していると見えてくるだろう。


「それにしても……この攻防、いつまで続くんだろうな?」

「つーか、セテルタの魔法だけどよ……1回戦のときより、なんだかおとなしくねぇか?」

「う~む……いわれてみれば、そんなような気もしてくるな……」

「ああ、確かにそうだ! 派手さが足りない!!」

「それって……1回戦の対戦相手だったトイがちょこまかしてて、ヒットさせるには必然的に派手な魔法にならざるを得なかっただけなんじゃないのか?」

「もしくは、緩急を付けるためにあえておとなしい魔法を使ってるとか?」

「それにさ、ヴィーン君がどさくさに紛れてどんな攻撃をしてくるか分かんないから、エクスプロージョンとかそういう視界を遮るような魔法を多用するわけにはいかないって感じなんじゃないの?」

「……もしかして……ヴィーン側がなんかやってるんじゃないか?」

「「「……!?」」」


 ほう……どうやら気付いた奴がいるみたいだな。

 気付いた君! センスいいよ!!


「なるほど……ソイルが得意としている阻害魔法をヴィーンもキッチリ身に付けていたってことね……?」

「……いや、ソイルほど上手くはない」

「フフッ……僕の魔法をここまで阻害しておいて、よくいうよ……」

「……もう少し上手く運用して反撃にも活かしたかったのだが、残念ながら思ったよりできなかった」

「何をいっているんだい、ちょくちょく認識するのが難しい特製ウォーターバレットを飛ばしてきたくせに……まったく、ヴィーンは油断ならないんだからさぁ!」

「……その全てに対応したセテルタこそ油断ならない」

「アハハッ! ……やっぱり、ヴィーンは簡単に勝たせてはくれないね!!」

「……その言葉、そのまま返させてもらう」


 まあ、俺だってソイルリスペクトで阻害魔法をマネさせてもらっているぐらいなのだから、ヴィーンが同じことをしたって不思議じゃないだろう。

 とはいえ、今までヴィーンは夕食後の模擬戦でもそんな動き見せてこなかったからな……

 この武闘大会に向けて使えることを秘密にしていたのだとすれば、なかなかやるなって感じだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る