第659話 もっと何考えてるか分かんなかったし……

「戻ったぞ」

「ふむ……だいぶ楽しんできたようだな?」

「ええ、とても充実した表情をしていらっしゃる」

「そして、ラクルスもなかなかの使い手なんだろうとは思っていたけど……まさかここまでだったとはね……」

「あんにゃろう、まだあんな力を出せたなんて……ちきしょう! 俺ももっと頑張んねぇとな!!」

「とはいえ、それも対戦相手がアレスさんだったからであって、ラクルス自身もあれだけの力を出せたことに驚いているんじゃないですかねぇ?」

「そうだね……アレスさんは、本人ですら気付いていない力を引き出させるのが得意だから……」

「……確かに」

「そういえば、ラクルスを最初に見出したのが王女殿下って話だったわね……さすがの慧眼といったところかしら?」

「そこまで見抜いてたなんて……やっぱり王女殿下は凄いなぁ」


 まあ、王女殿下が最初からラクルスの実力そのものを見抜いていたかってことは……出会いの場面を見ているだけに、若干微妙なところがあるけどね……

 そんなことを思いつつ、夕食後の模擬戦メンバーたちに迎えられたわけだ。


「……ヴィーン・ランジグカンザさん、セテルタ・モッツケラスさん、2回戦第2試合の準備をお願いします」


 俺が戻り、少ししたところで呼び出し係の人がヴィーンとセテルタを呼びに来た。


「おっ! 僕らの出番が来たみたいだね?」

「……そのようだ」

「ヴィーン様! 頑張ってください!! そして、セテルタさんも!!」

「ヴィーン様とセテルタさんの試合であれば、きっと素晴らしいものになりますねぇ!」

「ヴィーン様……セテルタさん……ご武運を!!」

「2人とも、期待しているぞ」

「試合を存分にお楽しみください」

「悔いの残らない試合をして来てね!」

「さて……2人のうちどちらが3回戦に進み、アレスと勝負できるのかしらね?」

「フッ……俺に挑戦する権利を賭けて! 2人とも精いっぱい闘って来るがいい!!」

「アハハッ! そういわれちゃうと、負けてられないね!!」

「……同じく」

「ま! そんなわけで、行ってくるよ!!」

「……では」


 こうして、ヴィーンとセテルタが舞台に向かうのだった。

 また、このときセテルタが学園の2年生に割り当てられた席に視線を向けた。

 そう……エトアラ嬢に向けてだ!

 そして2人は、軽く笑みを浮かべつつ頷き合っていた。

 くぅ~っ! これだよ、これっ!!

 なんてステキな光景なんだ! 本当に!!

 このシーン……保存できないかな?


「また……お前という奴は……」

「相変わらずですね……」


 お姉さん大好き民として姉弟的カップリングに興奮を抑え切れない俺を見て、ロイターとサンズがあきれているようだった。


「アレスさん……」

「よく飽きねぇよな……」

「ですねぇ……」

「まったく……」

「あはは……」


 いや、ロイターとサンズだけでなく、みんな苦笑いだった……

 でも、いいもんね!

 それこそが、俺の楽しみなのだから!!

 とかなんとかやっているうちに、舞台の整備は終わっていたようだ。

 まあ、俺とラクルスの試合は打ち合いこそ激しかったけど、舞台自体はそこまでボッコボコに破壊したわけじゃなかったからね。

 そうしてヴィーンとセテルタは、2人ともオーソドックスとでもいえるようなロングソードを選び、装備チェックも受け終えたようだ。


『さぁて、装備チェックを終えた2人が舞台中央にそろい、王女殿下から胸ポケットに最上級ポーションが挿入されます』

「チッ……また淡泊な野郎どもが出て来やがったもんだぜ……」

「あいつら……マジで反応が薄過ぎだろ……」

「まあ、セテルタ君はしょうがないよ……」

「ああ、アイツはエトアラ先輩しか見てねぇもんな……」

「ヴィーンの野郎はヴィーンの野郎で、誰に対してもあんな感じだしなぁ……」

「とはいえ、あれでもマシになってきてるほうなんだろうけどな……ちょっと前までなら、もっと何考えてるか分かんなかったし……」

「そういや……魔力操作狂いが先頭になって、それにロイターたちが続く形でヴィーンの背中をビタンビタン叩いてたよな……あれが効いてるのか、ヴィーンも多少は表情を出すようになってきた気がするぜ」

「う~ん、それはあるかもな……」

「嗚呼、その光景……実際にこの眼で観ることができたらいいのに……」

「ええ! ええ!!」

「男子たちが羨ましい……」


 今回も、王女殿下への対応チェックがしっかりとなされていたようだ。

 そして、最近のヴィーンの様子についても語られていた。

 どうやら、ほかの生徒たちもヴィーンの変化を感じ取っているようだね。

 まあ、俺自身も多少ウザいぐらいヴィーンにスキンシップをかましている自覚はあるからねぇ……それぐらいの変化はあって当然かもしれない。

 そんなことを思っているうちに、王女殿下はポーションを挿し終えて舞台を降りた。

 となれば、あとは審判の先生が試合開始の掛け声を待つだけ……


「……それでは、両者構えて!」


 そういって審判の先生が右手を天に掲げ、振り下ろすと同時に……


「始め!!」


 さて、ヴィーンにセテルタよ……お前たちの闘い、見せてもらおうじゃないか!

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