第81話 どこまで行くんだろう

 ゼスたちと約束していた時間まで解体作業に熱中し、今はソーセージの美味い店「ソートルの酒場」に移動中。

 なんとなく、あそこはゼスたちと行く店みたいな感覚になっていたので、地味に久しぶりな気がしてくるね。

 そんなことを考えているうちに、店に到着。


「いらっしゃーいアレスさん、ゼスさんたちならもう来てるよー」

「おおそうか、じゃあさっそく案内してくれ」

「はーい」


 そうして案内されたテーブルには看板娘のティリスの言う通りゼスとグベル、そしてエメちゃんが既にいた。

 それと、改めて注文を取りに来てもらうのもなんなので、ソーセージ全種類とパインジュースを頼んでおいた。


「旦那、待ってましたぜ!」

「どうも、アレスさん」

「アレスお兄ちゃん!」

「待たせてしまったか、そしてみんな元気そうだな」

「もちろんです! それで聞きましたよ、最近はギルドで解体に力を入れているみたいじゃないですか」

「そうだな、今日も今までギルドの解体場でオークの解体をしてきたところだ」

「へぇ、俺が出会った冒険者の先輩たちは面倒だって言ってみんなやりたがらなかったのに……やっぱりアレスさんは凄いですね! 俺もちょっとやってみようかな……」

「いいと思うぞ、モンスターの体の構造とかも地味に勉強になるしな」

「なるほどぉ」

「旦那の言う通りだ。それに普段から役に立つことは当然として、冒険者の引退後も見据えると学んでおいて損はないぞ? しかも今なら講習費用が旦那のおかげでタダだしな!」

「それなんだが、おそらくもうしばらくしたら有料に戻るだろう。最近どうもゴブリンに嫌われてしまってな……俺の魔力を感じた瞬間逃げ出すから、通りがかりで討伐する十数体ぐらいしか回収出来ていないんだ」

「そんなことが? あっしも冒険者関係の仕事をして長いですが、ゴブリンがそんな行動を取るなんて初めて聞きやしたね」

「俺もそうですね、あいつら人間の姿を見たとたん殴りかかってきますから、逃げるなんて……」

「やはりそうか……おっと、ごめんよエメちゃん、冒険者の話ばかりでつまらなかったね?」

「大丈夫、お兄ちゃんが家でいっつもそんな話ばっかりするから慣れちゃった」

「そうか……」

「グベル、もう少し女の子が興味を持てる話題も話せるようになっとけよ? じゃねぇと将来、冒険者の女ぐらいしか選択肢がなくなるぞ? まぁ、あいつらだっておしゃれがどうとかって言ってるから、やっぱそういう話題が必要になってくるけどな!」

「俺は付き合うとか、ましてや結婚なんて、そういうのはまだいいですよ! 少なくともエメが立派な大人になるまでは!!」

「お兄ちゃん、気持ちは嬉しいけど、そんなこと言ってると婚期逃しちゃうよ? だから自分のことももっと考えてね」

「エメちゃんの言う通りだ! 旦那からも言ってやってくだせぇ」

「……俺は、まぁ……本当に好きな人が出来るまで焦らなくていい気もするがな……」

「そりゃぁ、旦那は超一流なんだから、ほっといても女の方から来るでしょうよ!」

「ほっといても女の方から……」


 そこでふと、きゅるんとした小娘の不服そうな顔が思い浮かんだ……


「どうしやした旦那? 妙に歯切れが悪いですねぇ」

「いや、そんなことはないはず……」

「ソーセージ全種類とパインジュース、おまちどーさまー」

「おお! 待ってたぞ!!」


 そこでティリスがグッドタイミングでソーセージを運んできた。

 この話題は正直、今の俺には難易度が高すぎる。

 俺自身、どうしたいかまだ決まっていないし……

 そもそもエリナ先生と俺は教師と生徒の関係だ、そういうのは卒業まで待つべきだろうし……ってオッケー貰う前提で考えるとか俺って自惚れすぎだな!


「わぁ! ソーセージがたくさん!」

「エメちゃんもどんどん食べてくれ、足りなかったらまた注文するし」

「ありがとう、アレスお兄ちゃん!」


 そのとき、近くのテーブルに新しい客が座ったのが見えたが、なんと解体講習2日目で一緒だった神経質そうな男がそこに!!

 まぁ、同じ街にいるんだから、そりゃ目にすることもあるよね。


「話があるからと来てみれば、飲みに来ただけか……これなら素振りでもしていた方がマシだったな」

「おいおい、そんな寂しいこと言うなっての! 王国騎士団入団試験の告示も出たことだし、それに向けての決起集会なんだからよ!!」

「そうそう、試験日までの約1カ月間、明日からまた頑張るぞって感じでね!」

「フン、お前らはただ飲む口実が欲しいだけだろうに」

「そんなことねぇって、俺も今回の試験で準騎士に採用されて、ゆくゆくは立派な騎士になって、女の子にキャーキャー言われてぇし!」

「僕は、安定! 高収入!!」

「……チッ、くだらん理由ばかりだな」

「平民上がりの騎士を目指す奴なんて、みんなそんなもんだろ?」

「そうだそうだ! 冒険者は怪我して休んでたらその間収入ゼロだけど、騎士や準騎士なら手当がつくし!」

「……お前らと一緒にするな」

「もぉ、つれないなぁ」


 なるほど、神経質そうな男……長いな神経質君でいいや、彼は王国騎士になるのが夢のようだね。

 でも、なんていうか、意識高い系なのかな? 周りとの温度差が地味に凄いね。

 まぁ、解体講習のときもそんな感じだったけど……


「ああ、そういや、もうそんな季節か……」

「ん? ゼスも王国騎士に興味があるのか?」

「いえね、あっしも若い頃に何度か受験したことがあったんですよ……まぁ、もちろん不採用でしたがね」

「そうだったのか……」

「たぶんですけど、平民出身の冒険者なら受けたことがある人、多いと思いますよ?」

「へぇ、じゃあグベルも受けたことが?」

「いえ、俺は受けてないですね。採用が決まるとしばらく寮暮らしの訓練漬けになって家に帰れなくなってしまいますから……」

「なるほど、それじゃ無理だな」

「そうなんです。でもまぁ、俺はそこまで騎士に憧れているわけでもないんで、たぶんこれからも受験することはない気がしますけど」

「そうだな、俺もあまり騎士とかに興味がないからわかるような気がするな」

「ははっ、アレスさんと同じ気持ちなのはちょっと嬉しいです」

「まっ、あれは騎士がどうとかってより自分の実力を試したい奴とか……中には記念に受けてみるって奴もいやすからね」


 ちなみにだが、この王国騎士団採用試験だが、名前の通り王国に仕える騎士だ。

 ほかにも各領地貴族に仕える騎士なんかも別にいる。

 格的にはやっぱ王国騎士の方が上になっちゃうから、みんなそっちに憧れるんだろうね。

 あと、俺たちみたいな学園の生徒の場合は卒業出来れば書類を提出するだけで、ほぼ王国騎士として採用が決まる。

 まぁ、学園というふるいに既にかかっているとも言えるからね。

 そして、学園を卒業していない人の場合はこの試験を受けて、採用が決まれば準騎士からスタートって感じがほとんど。

 一応冒険者ランクなんかも考慮されるみたいだし、能力によってはいきなり騎士スタートもないわけじゃないみたいだけど、それはよっぽどじゃないと無理らしい。

 ……騎士に興味がないのに詳しいのは学園の社会科みたいな授業で習ったからね……たぶんこれ、学期末試験に出るよ?

 そんな感じで会話を楽しみつつ、ついでだからオーガと会えない悲しみをゼスやグベルに話してみた。


「旦那……日帰りでオーガの領域は無理ってもんです」

「そうですよ……俺も先輩に聞いただけですけど、その領域はかなりの準備をして何日もかけて慎重に行くのが普通みたいですよ? しかも運悪くオークジェネラルが出たときなんかはパーティーの状況次第では即撤退しろって言われてるのに……」

「それと、これは学園都市だからっていうのもありやすね。ここは貴族のご子息様たちが多くいらっしゃる街なんで、王国騎士や魔法士が定期的に周辺の上位種を間引いてやすからね……これがほかの街ならもっと簡単に出くわすでしょう」

「まぁ、そのおかげで学園都市周辺は駆け出しの冒険者にはありがたい狩場とも言えますけどね」

「確かに、言われてみればそうだな……」


 なるほど、俺が引いていたガチャにはオーガが入っていなかったって感じだね……

 とりあえず、今後は泊りがけも考慮してモンスター狩りをして行こうかな。

 そうして、この前の人形師の屋敷で回収した物品の売却代金を分配した。

 なかなかの金額で売却出来たようで、これによって無茶なお金の使い方をしない限り、グベルも長期間家を空けずに済むだろう。

 とはいえ、エメちゃんはあれから日々魔力操作を続けていたみたいで、さらに魔力量も増えていて正直なところ、魔纏をしっかり展開していれば、そう簡単に誘拐なんかもされないような気がする。

 しかも魔力操作を行っている間、エメちゃんの言う天使様とも頻繁に遊んでいるらしく、それだけ自動的に長時間練習しささっているので、練度も結構上がっているから凄い。

 ……この子、どこまで行くんだろう。

 こうして、メインの目的だった代金の分配も終わり、その後も楽しいおしゃべりと飲み食いを経て、この日はお開きとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る