第80話 軽く嫉妬した

 一晩経って、少しは気持ちも復活してきたかなって感じ。

 沈んでばかりもいられない、さっそく朝練に行こう。

 きゅるんとした小娘の嫌そうな顔改め不服そうな顔スタンプも押してもらわないとならないからね!

 そんな感じで朝練をこなしているとき、きゅるんとした小娘に声をかけられた。


「おはよう。今日は少し元気がないみたいだけど……まさか昨日、食事を抜いたなんてことしてないでしょうね?」

「おう、そんなこと(腹内アレス君が許さないから)するわけなかろう?」

「そう……それならいいのだけれど……今日のあなたは少しやつれて見えるから、しっかり朝食をとることね」

「もちろんだ」

「よろしい、それじゃあね」

「ああ、じゃあな」


 そうしてきゅるんとした小娘は去って行った。

 なんだろうあの感じ……お母さんかな?

 正直、そんなことを思ってしまった。

 しかし、自分ではだいぶ持ち直したつもりではいたのだが、他人からはまだ引きずっているように見えるってことだね、これはいかん、元気出せ俺!

 たかが2日間のモンスターガチャでオーガが出なかっただけじゃないか!

 この世界からオーガが絶滅したわけじゃないんだ、そのうち引けるさ!

 ま、野営研修まで粘り強く探そう、それがいい!!

 そうして決意を新たにしながらシャワーで汗を流し、朝食をいただき、気持ちを切り替えてエリナ先生の授業を受ける。


「いやぁ、やっぱりエリナ先生は最高だねぇ」


 授業が終わり自室に戻ってくると、自然とそんな呟きが漏れる。

 エリナ先生の顔を見てたら、オーガが当たらなかったことなんか別に大した問題じゃなかったなって気がしてきた。

 というか、結局のところ、はぐれオーガに対処するのは主人公君だし。

 俺は一応なにかあったときの保険としてオーガがどの程度の強さでどんな戦い方をするのかを確認するだけのつもりだったことを忘れてた。

 そしてノーマルオーガよりは上位ランクであろうオークジェネラルとかと戦って余裕勝ちしてるんだ、おそらく魔力にものを言わせればはぐれオーガごとき、主人公君たちを守りながらでも対処可能だろう。

 どうも俺には視野が狭くなりがちという欠点があるな……もっと広く視野を保たねば。

 一応音読ウォーキング中の八方目も継続して鍛えてはいるんだけどね……ってそれは視野違いか!

 さて、今日はゼスたちと夕方会う約束をしているし、その前に解体仲間たちの合格祝いもプレゼントしたいから、かなり早いけどもう街に出ちゃおう。

 解体仲間にプレゼントをした後はそのまま解体場で時間まで解体練習に打ち込んでもいいし。

 そんなわけで、ささっと街中スタイルに着替えて学園から出た。

 ちなみに、昼食も街で食べる。

 あの屋台のオッサンのオークボーンラーメンが忘れられないからね、今日も食べちゃう!

 そうして、屋台で昼食を済ませて、ギルドの解体場へ向かった。


「おうアレス! 今日は買取か? それとも解体練習か?」

「昨日と一昨日の2日間、ギルドの解体士採用試験があったと思うが、あの2人は無事合格出来たか?」

「ああ、そりゃもちろん! 講習中に既にうちの最低限のレベルに達してたからな、正直あの2人に関しては試験の必要もなかったが、一応決まりでな」

「まぁ、そんなところだろうとは思っていた」

「しっかしあの2人、この1週間でさらに腕を上げたぜ? クブンの方はお前も知っての通りもともと才能に溢れた奴だったから当然としても、カセカの方もスゲェ伸びた。たぶん間近でクブンの手際をよく見ていたのがよかったんだろうな、つられるようにしてグングン上達して行った」

「ほう、それは凄いな」

「ははは、オメェ今、軽く嫉妬したな? その向上心は大事にしとけよ!」

「ああ、そうだな。それで、あの2人は今ギルドにいるか? 合格祝いに魔鉄のナイフを渡そうと思ってな」

「おお、気前がいいじゃねぇか、きっとあいつらも喜ぶぜ! そんで、今は奥で休憩してるから行ってみろ」

「わかった、それじゃあまたな」

「おうよ!」


 あの2人、そんなにスゲェことになってたとはな……俺もこうしちゃおれん!

 ナイフを渡したら、さっそく俺も解体練習だ!!


「聞いたぞ2人とも、無事合格できたらしいな」

「アレス久しぶり。うん、受かった」

「おお、アレスさん! 俺もバッチリだったぜ!」

「そんな2人に合格祝いだ、受け取ってくれ」

「これって……」

「アレスさん……こんな高価なもん貰っちまっていいのか?」

「もちろんだ。これで、魔力の扱いにも慣れて、さらに上のレベルの解体士を目指してくれ」

「わかった」

「よし、アレスさんがびっくりするぐらいの解体士になってやるぜ! そしてこの魔鉄のナイフでガンガン解体の経験を積んで、いつかクブンも追い抜かしてやるからな、覚悟しとけよ?」

「オレも負けるつもりはない」

「いいライバル関係みたいだな」

「うん、いいライバル」

「まぁ、今はクブンが俺のお手本って感じになっちゃってるけどな、ははは」

「いや、カセカは人の技術をモノにするのが上手いから、いつも驚かされる」

「へぇ、そんな風に思われてたのか、ちょっと自信になるな!」

「ザムトルも感心していたぞ?」

「そうか、嬉しいな! 俺、冒険者から解体士の道に変えて正解だった!!」

「オレも解体士を選んでよかった」

「2人からいい刺激をもらえたし、俺も解体の技術を磨いていこうと思う」

「アレスもライバル」

「そうだな、俺たちは解体一本に絞ってる分、より一層負けるわけには行かないよな!」


 こうして、お互いのアツい気持ちを確認しあって、それぞれ解体作業に打ち込んだ。

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