第566話 棄権します

「き、棄権します!」

「……勝率を含めた今後の評価に影響が出ることを覚悟しているか?」

「……ッ! ……は、はい!」

「そうか、仕方ない……勝者、アレス・ソエラルタウト!!」


 というわけで、本日も不戦勝を勝ち取りました……つまんねぇ!

 ちなみに、武闘大会の予選を兼ねた模擬戦が始まって1週間が過ぎ、今日は地の日。

 この間、まともに対戦できたといえば……う~ん、初日のビムぐらいだろうか?

 それ以外はほとんど棄権による不戦勝。

 ああ、中には勇気を振り絞って俺と対戦しようとしていた奴もいたけど……緊張が高まり過ぎたのか、審判が「始め!」と声を張り上げた瞬間、フラフラ~っと気を失ってしまう……なんてこともあった。

 なんというか、それが俺の二戦目だったんだけど……それでさらにビビる奴が増えたのか、以降は棄権者が続出って感じで今に至る。

 いや、俺は別に威圧とかなんもしてないんだけどね……

 そしてもちろん「棄権せよ」って感じで、政治的圧力なんかもかけていない。

 というか、俺としてはむしろ「棄権するなよ!」と圧力をかけたいぐらいだし!!

 まあ、それをいうと余計に怯える奴がいそうなので、黙ってるんだけどね……

 そういえば……原作ゲームにおいても、こうやって対戦相手の棄権が続出して原作アレス君は本戦に進出してたんだっけ……この点については、ある意味原作ゲームのシナリオを踏襲しているといえるかもしれない。

 ただし、原作アレス君の場合は、バリバリに圧力をかけてだったけど……

 いや、原作アレス君は保有魔力量というスペック面だけでいうと、物凄く優秀なんだ。

 だけど……その、戦い方がね……1ターン目にありったけの魔力をガンガン注ぎ込んだドデカいのをドーン!! ってして、あとはガス欠って感じだから……避けられたら終わりなんだ。

 そんなわけで原作ゲームだと、装備に制限がない場合は回避力を上げる装備なんかをしておき、あとは1ターン目で防御をしっかり固めれば対策としては終了……原作アレス君は体型的に敏捷も低いので、絶対主人公側が先に行動できるし。

 そしてまあ……こういった安全策を取らずに原作アレス君と戦闘を始めるプレイヤーも少なくない。

 なぜなら、原作アレス君は命中率もメチャクチャ低いからね……当たるほうがまれって感じなんだ。

 でも、だからこそ、なんの対策もせず運悪く命中してしまったら、即ゲームオーバーでやり直す羽目になるんだけどね……全力魔力で威力だけは高いからさ……

 とまあ、そんなことを考えながら、待機場に戻る。


「ハァ……怖かったぁ……!」

「お疲れ……よく頑張ったな!」

「オイオイ、『棄権します』っていっただけだろ……」

「ハァ? じゃあ、お前はいえるのか? 魔力操作狂いだけじゃなく、メッチャ不服そうな顔をしてくる先生もいるんだぞ? その精神的圧力に耐えられるのか?」

「いやいや、そこまでメンタルを削られるぐらいだったら、おとなしく奴と対戦するよ……」

「おっ! いったな!? それじゃあ、お前がこれから魔力操作狂いと当たったら、絶対に棄権すんなよ!! そんで、ボコボコにされて来い!!」

「う、うぅ……や、やってやらぁ!! 俺の生き様! その目をシッカリ見開いて、見てやがれ!!」

「おっしゃ! 見ててやろうじゃん!!」

「ち、ちょっと……何もそんなムキにならなくても……」

「うるさい! 棄権野郎は黙ってろ!!」

「なッ! そんな言い方ってなくない!?」

「そうだそうだ! 人の心の分からん奴め! お前みたいな奴はやっぱり、魔力操作狂いに徹底的にグッチャグチャにされちまえばいいんだ!!」

「ハン! 俺にだって意地がある! そんな簡単にやられるもんか!!」


 へぇ、いうじゃないか……面白そうだ、どれ……どんな顔をした奴か見てみようじゃないか……

 そう思いつつ、顔を向けてみると……


「……アッ!」

「ククッ……お前、目を付けられたな? いい気味だ!」

「あ~あ、これで逃げられなくなっちゃったねぇ?」

「うっ……クッ! い、いいぜ……やる、やってやるんだ!!」


 ほほう、頼もしい奴だ……ぜひとも対戦を組まれたいものだ……

 そんな気持ちから、ニコリと微笑みを贈ってみた。


「……ヒ……ッ…………」

「あっ! おい、どうした!? しっかりしろ!!」

「ダメだ……気を失ってる……」

「えっと……ちょっと……追い詰め過ぎたか……?」

「うん、そうだね……でも、変な意地を張るから……」

「だ、だよな……」


 あれ……あれれ~?

 さっきまでの威勢はどうしたんだ!?


「アレス……今の顔は捕食者の笑みそのものだったぞ?」

「はい、ロイター様のおっしゃるとおりですね……お腹を空かせた猛獣が獲物を発見したときの顔でした」

「フフッ……ここのところ不戦勝続きで実際に満たされてなかったんだもん……それも当然だよね?」


 そういってロイターにサンズ、それからセテルタが声をかけてきた。


「ま、まあな……というわけで、今日の夕食後の模擬戦もよろしく」

「ああ、承知している」

「はい、望むところです!」

「任せてよ、きっとアレスを満腹にさせてあげようじゃないか!」


 まったくもって、友とはありがたい限りだね。

 そんなことを思いつつ、出番の終わった俺は見学モードに移行するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る