第565話 単に勝敗だけではない

「それでは、アレス様……とても素晴らしい時間を過ごさせていただき、ありがとうございます!」

「こちらこそだ、そして君の午後の一戦を楽しみにしている!」

「はい! アレス様に恥ずかしい姿を見せぬよう私、頑張ります!!」

「一生懸命頑張る姿が恥ずかしいなんてことはないが……その意気だ! ではな!!」

「はい! ありがとうございます!!」


 食堂から出てしばらく進んだ分かれ道で挨拶を交わして、本日の女子との昼食は終了って感じ。

 あの子……最初は震えがちだったが、話しているうちに落ち着いていき、最終的には元気いっぱいになった。

 うん、なかなかイイ感じだったと思う!

 案外、ああいう子が魔力操作に目覚めると早いかもしれない……そして、平静シリーズ……ああ、彼女たちの中では強者の証と呼ばれてるんだったか……とにかく、あのステキアイテムを使用して魔力操作を練習したいと思える段階に少しでも早く到達できるよう祈っておこう。

 フフッ……これからそういう子がどんどん増えていって、俺の手持ちの平静シリーズが在庫切れになる……そんなときがきたら最高だね!

 とはいえ、ギドなどアレス付きの使用人たちに、義母上や兄上の手紙を持ってきてもらうとき一緒に平静シリーズを集めて持ってきてもらうことにしているので、ほぼ在庫切れになるなんてことはないと思うけどね……それこそノーグデンド領のスライムダンジョンが消滅でもしない限りは。

 それに、王女殿下がご使用になられている……この情報一つでお取り寄せすることを決めた貴族家もそれなりにあるだろうから、わざわざ俺からもらおうなんて思う人は少ないかもしれない。

 う~ん……どうせなら、これから俺がプレゼントする平静シリーズには、前世の有名人ぶってサインでもしてみるか?

 まあ、勘違いし過ぎといえなくもないが……企画としては面白いかもしれない……

 なんて思いながら歩いていると……

 前方に先ほど俺と対戦した男子がいた……おお! 無事目が覚めたんだな!?

 といいつつ、模擬戦で深刻なダメージを負ったわけではなく、単に頑張り過ぎて気を失ったってだけだからね……

 そして、俺が気付いたタイミングとほぼ同時に向こうも気付いたようだ。


「あっ! えっと……先ほどは、お世話になりました」

「いや、俺のほうこそ学ばせてもらった、ありがとう」

「そんな! お礼をいっていただけるようなことは何も……ただ気力の限り剣を振っていただけで……」

「そう卑下したものじゃない……実際最後の一撃は魂のこもったいい一撃だったしな……あのレベルの一撃を当然のように繰り出せるようになれば……さぞかし凄い剣士になっていることだろう……お前にはその片鱗があるということだ」

「そ、そこまでいってもらえるなんて……」

「これはお世辞でもなんでもない……純粋に俺が肌で感じたことをそのままいっている」

「……ッ! ありがとう、ございます!! ……僕、もっともっと精進して、アレスさんの期待に応えられる剣を身に付けてみせます!!」

「そうか! それは楽しみだ!!」

「はい! それでは……失礼します!!」

「おう、またな!」


 そうして先ほどの対戦相手、名前は確か……ビム・インファウとかって周りに呼ばれてたっけ……

 今の時点では、まだそれほどでもないが……もしかすると、これから面白い存在になっていくかもしれん……期待しておこう。

 そして、フフッ……ビビりばっかりじゃなく、男子の中にもちゃ~んと、ああいうナイスガッツを持った奴がいるんだな!

 そうだよな! 当たり前だよな!!

 ……なんてことを再認識した瞬間だった。


「……魔力操作狂いの奴……またニヤニヤしてる……」

「でも、ビムの奴も……あれだけ惨めに完封負けしといて、よく魔力操作狂いに話しかけようと思ったよな……?」

「ああ……アイツもどっかネジが飛んでんじゃね?」

「いわゆる、似た者同士ってやつ?」

「……かもなぁ?」

「あ~あ……今日はセーフだったけど、明日以降魔力操作狂いと当たりたくねぇなぁ……」

「ホントそう……手の内をぜ~んぶさらすことになっちゃうからね……」

「もし俺が当たることになったら……絶対棄権する!」

「いやいや、そんな力強くいうことじゃないでしょ……」

「ははっ! かっちょわりぃ~」

「でもまあ……実際それがカシコイ選択だろうな……」

「どうかなぁ……先生たちはあんまりいい顔しないんじゃないか?」

「いや、『勇気』と『無謀』は違うって考えの先生だと、逆に評価が高くなる可能性もあるぞ?」

「ああ、引き際が肝心ともいうしな……」

「……むしろ、撤退するほうが勇気がいるって聞いたこともあるもんね?」

「なるほどな……それらも含めて、俺たちは試されているってことかもしれないな!」

「ふむ……単に勝敗だけではないということか……」

「なんだかんだいってるけど、負け方を議論する俺たちって……ダサくね?」

「ま、まあ……それは……うん……」


 ……そしてやっぱり、ビビり男子たちも健在。

 ま、彼らもそのうち魔力操作に目覚めることがあるかもしれないし……

 なんて思いつつ、運動場へ向かう。

 まあ、午後から俺の出番はないので、ここからは見学モードとさせてもらおうかね……

 というわけで……面白い闘いを見せてくれる奴はいるかなぁ?

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