第564話 強者の証
「決着がついたけど、何があるわけでもなく……だた稽古をつけただけって感じ?」
「ああ、この上なく……稽古だった」
「結局のところ、見ててそうとしか思えない程度に、実力差があったってことだな……」
「でもよ……それなら、もっと早く倒してやればよかったんじゃないか?」
「確かになぁ、今回魔力操作狂いと対戦したアイツ……たぶん、この一戦で全部出し切っちまったぞ?」
「気の毒だけど、あれだけ見せてもらえば……技の組み立て方とか、だいたい分かった」
「だな……これ以降アイツは、勝率を稼ぐカモにされてしまうだろうよ」
「こうなると彼……下手したら全敗確定だね? かわいそう~」
「だから棄権しとけばよかったのに……」
「でもま! あのときのロイターみたいにグチャグチャにされなかっただけマシだったんじゃないか?」
「それはそうだが、魔力操作狂いの奴……なかなかに陰湿」
「ああいう嫌がらせの仕方っていうのも……あるんだねぇ~?」
「……果たして、そうだろうか?」
「え? どゆこと?」
「あの者……この一戦を経て、一皮むけたかもしれん」
「はぁ? んなバカな……」
「かの御仁のいうとおり、あの者の最後の一撃は、それまでの限界を超えた見事なものだった……そうは思わないか?」
「……そうかぁ?」
「う~ん、どうかな……? たまたまじゃないの?」
「仮にそうだったとしても……再現性はあるのか?」
「そうそう、あれはほとんど無意識だっただろうし……」
「まあ、とにかく……この一戦であの者の全てを理解して攻略できる気になっているのなら、それは改めたほうがよかろう……痛い目にあいたくなければな……」
「それって……警戒し過ぎじゃない?」
「というより、ビビり過ぎ?」
出番を終えて、待機場に戻ってくるあいだ、俺たちの対戦についての感想を聞いていた。
当たり前のことながら、人によって受け取り方はそれぞれ。
その中に、俺の対戦者君がこれから伸びるのではないかと予想する奴がいたが……同意見である。
「さすがアレス様ね……また1人、成長の機会をお与えになられた……」
「ええ、彼にも良き種を植えられた……あとは彼次第……」
「正直なところ、今まで眼中にない男子でしたが……今後の成長ぶりを見守るといたしましょう……」
「ふふっ……楽しみだわぁ……」
「美しく咲いてくれることを願うばかり……」
「まずは、新しい組み合わせ候補の誕生に祝福を……」
う~ん、あの女子たちの表現は独特だけど……
とりあえず、これからの彼に期待できるという点においては、俺と同じ発想だと思う……表現は独特だけど……
そんなことを思いつつ、時間はお昼を迎える。
それはつまり、ランチタイムである。
また、今回も女子にお誘いを受けているので、ご一緒することになる。
ハァ……何度も思うことだけど……これが前世だったらなぁ……女の子にランチに誘われるっていう状況に狂喜乱舞してただろうに……
そうして中央棟の待ち合わせ場に移動。
「こ、こんにちは! ほ、本日は昼食をご一緒できること……こ、光栄にございます!!」
「ああ、こちらこそだ……」
今回は、震えがちな子と一緒……たぶん、思いっきり勇気を振り絞ってきたんだね……ご苦労さん。
それはそれとして、食堂で昼食を開始。
「ま、まずは一勝……お、おめでとうございます!」
「ありがとう……君は既に今日の出番を終えたのだろうか? それとも午後から?」
「あ、はい! ご、午後からになります!!」
「そうか……ならば、君の戦いぶりを見させてもらうとしよう」
「そ、そんな! 私など……全然……ですので……」
ふむ、緊張しているのもあるだろうが……あまり自分に自信がないタイプかもしれないな?
だが、こうして周囲から恐れられている俺を食事に誘うだけの勇気を持った子なのだ……ちょっとしたきっかけでドン! と行けるはず!!
そんな感じで、お相手の様子を観察しながら、食事を進めていく。
そして腹内アレス君が満足してくれたところで……本格的なお話がスタート。
……というわけで、時間の許す限りアレコレ語った。
もちろん、そのメインは魔力操作についてだ。
「そうなんですね! はい! 私も魔力操作を頑張ります!!」
「重ねて何度もいうが、魔力操作はそこまで即効性のあるものではなく、地道な努力を要求される……だが、その確実な一歩一歩が、いつか君を高みへと連れて行ってくれるはずだ」
「はい! もちろん心得ております!!」
「そして途中で挫けそうになったら、いつでも来るといい……相談に乗る」
「アレス様……なんとお優しいお言葉…………ありがとう……ございます」
そういいながら、涙ぐむ女子。
感激屋さんなんだね……でも、悪い気はしない。
「それから、魔力操作に慣れて物足りなくなってきたらいってくれ、平静シリーズをプレゼントしよう」
「えっ!? あ、あの……王女殿下もご利用なされているという『強者の証』を……私に?」
「うん? 強者の証?」
「あっ! いえ……私たち一部の女子が勝手にそういってるだけで……えっと……」
「ああ、そういうことか……まあ、俺も勝手に平静シリーズといってるだけで、正式名称というわけではないからな……好きに呼んだらいいだろう」
う~ん、もしかしたら一部の男子たちは「狂者の証」とかって呼んでそう……デザインとしては、お世辞にもイケてるとはいえないし……
そんなこんなで、お相手の女子に午後からの出番を頑張るよう激励しつつ、昼食を終えた。
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