第563話 打ち合いながら

「どうした? お前はそこまでなのか? 最初のカウンターが一番鋭いぐらいだったぞ?」

「……クゥッ! ……ソォ!!」

「ふむ、今の一撃……重くはなったが、そのぶん肩に力が入り過ぎたな? ……ほら、体幹が崩れているぞ?」

「……ッ!!」


 対戦相手の実力、その全てを引き出すというのはいうほど簡単なことではないのだろう。

 それに、俺自身の技術レベルだって、そこまで偉そうにいえるものでもないからね……

 まあ、だからこそ、こうして学ばせてもらっているというわけだが……


「……ハァ……ハァ……」

「息が上がってきているな……そうならないよう日頃から魔力操作を同時におこなって、いつでも体力回復をできるようにしておくのがお勧めだ……ほら、やってみろ」

「……ハァ…………フゥ…………」


 俺の言葉を受け、素直に魔力操作を始めた対戦相手の男子。

 それができるのは、その隙に俺が攻撃を仕掛けてこないだろうことを確信したからというのもあるかもしれない。

 まあ、魔力操作は慣れてないと同時並行的におこなうことが難しくて、それだけに集中しなきゃって感じになるからね……

 そうして、徐々に呼吸が落ち着いてくる。


「……そうだ、少しは楽になってきただろう?」

「……」


 小さく頷く対戦相手の男子。


「……魔力操作狂いの奴……あれはどういうつもりなんだ?」

「ひたすら攻撃を受け続けて、相手の息が上がったら回復させる……」

「……弄んでいる……ってわけでもないのだろうが……」

「う~ん、なんていうか……稽古って感じ?」

「それだッ!」

「いやいや、なんでこんなところで稽古をつける必要があるんだよ? しかも、弟子でも派閥の仲間でもなんでもない奴を相手によ?」

「それはその……魔力操作狂いのすることだから……」


 稽古……まあ、会話ができなかったこともあって、レミリネ師匠からこんな感じで打ち合いながら稽古をつけてもらっていたなぁ……

 どうやら自分でも意図せず、そういう感じになっていたのかもしれないね。


「でもよ……あそこまで完封されてたら……精神的にキツくね?」

「ああ、それに魔力操作狂いの奴……まだ一度も魔法らしい魔法を使ってないぞ?」

「うん、剣……っていうか木刀一本で捌いてるだけ……」

「とはいえ、単なる木刀が剣を相手にあそこまで打ち合えるわけないから、全く魔法を使ってないってわけでもないんだろうけど……」

「うむ、おそらく全身とともに木刀を魔力の膜で覆っているのだろう」

「そっか……だから、いまだに折れずに剣と打ち合ってられるのか……」


 まあね、トレントブラザーズをメインウェポンとしている関係上、金属製の剣とかよりも、木刀のほうが手に馴染むんだよね……たとえ魔法的な効果がなくてもね。

 そして、この木刀自体に魔力を流そうとすれば、キャパオーバーでバキイッ! ってなる可能性もあるけど、魔纏で覆うぶんには問題ないからね、それでオッケーなのさ。


「そういえば……魔力操作狂いって魔法以外はたいしたことないって話じゃなかったっけ? なんであんなに剣を扱えてるんだ?」

「お前……情報が古いぞ?」

「ええと……入学時はそうでもなかったみたいだけど……いつだったかな……そうそう! ロイター君たちと夕食後に模擬戦をするようになってから剣の腕をメキメキと上げてったんだよ!!」

「それもあるだろうが……どちらかというと、彼がスケルトンダンジョンに通い始めた辺りから急激に技が磨かれていったと記憶している」

「スケルトンダンジョン? なんでまた……」

「もう出現しなくなってしまったらしいが……そのとき、とてつもなく強いユニークがいたらしい」

「あっ、それ知ってる! 毎日そのユニークのスケルトンナイトに挑戦して、あの人は剣術を身に付けたって話でしょ?」

「えぇ……なんだよそりゃ……剣術なら、普通に家庭教師でも雇って教えてもらえばいいだろうに……」

「いや、王国式剣術が主流だからこそ、あえて彼は違う流派を身に付けたかったのかもしれん……」

「だからって、スケルトンから学ぶなんて……やっぱ、魔力操作狂いは変わってんな……」

「うん、それはそうだね……」


 ……レミリネ流剣術の素晴らしさ……今の俺程度では、まだまだその一部を表現するぐらいに留まるだろうが、見せてやる。


「お前の全力は出し切れたか? そうであるなら、そろそろ俺も本格的に攻撃を始めるが?」

「……ま、まだまだァ!!」

「ふむ……これがラストスパートといったところか……よかろう、受けて立つ!」

「うぉぉぉぉぉ!!」


 一振り一振りに力が乗っている、粗削りなところもないではないが、いい感じだ。

 そして、その全てをキッチリと捌いて受け流していく。

 ……だが、全力の連続斬りが永遠に続くことはなく、次第に威力と速度が落ちていく。


「……まだだ! まだ行ける! 限界を超えてみろッ!!」

「うぅっ! うぉりやぁぁぁぁぁ!!」

「……ッ! いいぞ、今の一撃! 手にズンと響いた!!」

「……ハァ…………ハァ………………アリ……ガト…………ハァ………………ザイ…………マス…………」

「なんのなんの! いい一撃を、こちらこそありがとうだ!!」

「……もう……これで……ハァ……いっぱい……です……ハァ…………降参……します……」

「そうか……さらに精進してまた来い! いつでもお相手しよう!!」


 そう俺が応えたところで、対戦相手の男子は気を失った。


「勝者……アレス・ソエラルタウト!!」


 そして、審判の声が上がった。

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