第562話 棄権したほうがいいんじゃない?
予選を兼ねた模擬戦が開始された。
そこで、まだ自分は呼ばれていないので、ほかの生徒の模擬戦を見学してるって感じ。
また、運動場の広さとかの関係上、3つ同時に対戦がおこなわれている。
それから、何時間もって感じでよっぽど長引かない限り基本的に時間制限なしなので、実力が拮抗した奴らだと、割と決着まで時間がかかる。
反対に、実力差があるとすぐ終わるってこともある。
とまあ、そんな感じで眺めているわけだが……なんというか、正直こんなもんか……って感じがしないでもない。
とはいったものの、俺が普段から模擬戦をしている相手は、学年でも最上位レベルであろうロイターたちだからね……
たぶん、良くも悪くもロイターたちの動きに感覚が慣れ過ぎているのだろうと思う。
ただ、だからといってほかの生徒の戦いぶりが全くダメというわけでもない。
注意深く見ていると「今の一撃、実にお見事!」と思わず唸らされるような動きをたまに見せてくれる奴がいるからね、地味に侮れない。
そう考えると、ふ~む……今回の予選、俺と対戦する相手には、なるべく実力を出し切ってもらうとするか?
別に舐めプをしたいというわけではないが、序盤は受けに徹して、相手の動きをよく見てみようかなって感じ。
そうすることで、思いもよらない戦闘経験が得られるかもしれないし……
「……次! アレス・ソエラルタウト!! それから……」
……おっ! 名前が呼ばれたか。
ちょうど今回のプランが固まったところだからね、ナイスタイミングといえるだろう。
そして、フフッ……今回の対戦相手には、ありがたく学ばせてもらうとしよう。
「うわぁ、初っ端から魔力操作狂いと対戦なんて、かわいそうな奴……」
「彼……心が折れて、次回以降に響かないといいけどねぇ~?」
「いやいや、心が折れるぐらいならたいしたことないだろ……下手したら、グッチャグチャにされてその後の人生再起不能ってこともあり得るんだぞ?」
「確かに『そんなことない』って断言できないところが恐ろしい……」
「ま、まあ……これは誇りをかけた決闘じゃないし……さすがにヤバくなったら先生たちが止めてくれるんじゃね?」
「だといいけど……」
「というかさ……ぶっちゃけ、棄権したほうがいいんじゃない?」
「だよな……ダセェけど、そのほうが身のためだよ……」
……なんて、周囲が俺の対戦相手を憐れんでいる。
そうして、指示された地点に足を進める。
「ひゃぁ~! アイツ……よっぽどの命知らずなのか、棄権しないみたいだぞ?」
「その勇気は凄いと思うけど……生き方としてはバカなんじゃない?」
「……でも、あの野郎……微妙に足が震えてねぇか?」
「あっ、ホントだ!」
模擬戦の開始地点に立ち、相手の男子を見据える。
顔は青ざめており、頬には冷や汗が伝っているのが見える。
そして指摘されていたように、身体も小刻みに震えている。
「おい! お前の根性は分かったから、その辺でやめとけ!!」
「そうだよ、そこに立っただけでじゅうぶんだよ! 棄権しても恥ずかしくないよ!!」
「……弱き男たちは黙ってなさい!!」
「そうよ! アレス様は気概ある者を愛するお方!!」
「ええ! 決して悪いようにはしないはず!!」
「な、なんだよ……お前ら……俺たちは、ただ……」
「……あなたたちも男でしょう? そうであるなら、男と男の言葉によらない純粋な語らいを、ただ黙って見ていればいいの……」
「そうよ! 余計なことは考えず、思いっきりぶつかって行けばいい!!」
「ええ、そうすればきっと、アレス様は愛をもって受け止めてくださる!!」
「……は、はぁ? お前ら……何いってんだ?」
「あっ! この人たち……例の魔力操作かぶれの人たちだよ……」
「な、なるほど……ヤベェから、関わんないほうがよさそうだな……」
おいおい「魔力操作かぶれ」って……
とか思っていたら……おや? 相手の男子の震えが止まった?
顔色もマシになってきたし……これは期待できそうな気がする。
「……2人とも、準備はいいか?」
そこに、審判の男性教師が確認の声をかけてきた。
もちろん、こちらは既に準備万端整っている。
「はい、いつでも行けます」
「は、はい! 僕も大丈夫です!!」
「分かった……では、両者構えて……」
そういって審判の男性教師が右手を天に掲げ、振り下ろすと同時に……
「始め!!」
……さて、この男子はどんな動きを見せてくれるのか、お手並み拝見。
そう思いつつ構えているが、相手も構えたまま動かない。
ふむ……防御タイプといったところか?
ならば、こちらから少し誘いをかけてみるか……
そうして一振り、二振り……何度か攻撃を仕掛けてみる。
「……シッ!!」
「甘い!」
「……クッ!」
おそらく狙っていたのであろう……鋭いカウンターの一突きが向かってきたが、難なく捌いた。
そして相手の男子は追撃に備えるためか、すかさず下がった。
俺はそれを追わず、仕切り直す。
「お前はカウンターの専門家か? そちらから攻めて来ても良いのだぞ?」
「……別にそういうわけでは!」
そういいつつ、斬りかかってくる。
そして勢いに任せ、連続斬りを敢行してくる。
「ほう……それなりに悪くはないぞ? だが、まだまだだ……お前の力をもっと見せてくれ」
「……クゥッ!」
ここからこの男子の力をどこまで引き出せるか……それが俺の勝負だ!!
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