第567話 順調そのもの
今日は水の日、そして武闘大会の予選を兼ねた模擬戦が続いている。
また、不戦勝続きで日中の模擬戦に物足りなさを感じているが、そのぶんを夕食後のロイターたちとの模擬戦で補っている格好だ。
う~ん、今日の対戦者はどうだろうなぁ~?
棄権せずに、俺と対戦してくれるかなぁ~?
「……次! ソイル・マグナグリンド!! そして……」
おっ! ソイルの出番か……これは見といてやれねば。
そうして、ソイルと対戦相手が所定の位置につく。
それで対戦相手のほうはよく知らん奴だが……身体から発散されている魔力の感じ的に男爵家レベルといったところ。
そのため、魔法的スペックはソイルのほうが上といえるだろう。
では、物理戦闘がどの程度できるかってところだけど、ソイルだってそれなりに鍛錬を積んでるからな……
そう考えると、ソイルの勝利は堅いだろう……あとは内容をどれだけ充実させられるかってところだな。
「……チッ、ソイルの野郎……ちょっと前までは、単なるザコだったはずなのによ……」
「今のところ全勝……まったく、悔しい限りだ……」
「なんていうか……自分より下だと思ってた人が上に行くっていうのはキツイもんだね……」
「しっかし……アイツと対戦する奴の全てが魔法が使えなくなるとか……どうなってんだよ……」
「お前、知らないのか? 奴は阻害魔法の名手らしいぞ?」
「らしいね……だから今日も、相手は一切魔法を使わせてもらえずに終わるんじゃない?」
「……チッ、卑怯くせぇ」
「いや、卑怯も何も、それが奴の戦闘スタイルなのだから、文句はいえんよ」
「そして、その戦闘スタイルを確立させたのが……あの人って話は、割と有名だよね?」
「あの人って、また魔力操作狂いかよ……チッ、余計なことを……」
……なんて会話も周囲から聞こえてくる中、審判の先生がソイルたちの模擬戦開始を宣言した。
その宣言とほとんど同時に、ソイルの対戦相手が魔法を発射した。
「喰らえッ! 阻害魔法の発動前に、ぶっ倒れちまいなァ!!」
「……いえ、もう準備は整っています」
ソイルがそう発言するや否や、対戦相手が放ったファイヤーボールは瞬く間に消失してしまった。
「……なッ!? ……クソッ!!」
……対戦相手よ、取り乱している暇はないぞ?
ほら、ソイルのストーンバレットが飛んできた。
「……クッ……こんなものォ!」
「まだまだいきます」
そしてソイルは、次々とストーンバレットを繰り出していく。
だが、単純に数を増やしているだけではなく、的確に対戦相手の死角を狙ってもいるのだ、あれはなかなかにえげつない。
そもそも保有魔力量の多いソイルが、消費魔力の比較的少ないストーンバレットをひたすら撃つ。
しかも魔力操作で空気中の魔素も取り込みながらなので、残弾はほぼ無限。
俺も便利だから、つららで同じような戦闘方法を組み立てているから分かる……よほどの力量がないと、あれの対処は難しい。
……まあ、俺の場合、ソイルの阻害魔法をものともしないレベルの魔纏で全身を覆っているから、同じことをされても完全防御できるけどね。
「……ガッ……グゥッ! ……チッ……ギショウ……!!」
何度も何度も飛んでくるストーンバレット、その対処が徐々に追い付かなくなり被弾箇所が増えていく対戦相手。
「あ~あ、今日もソイルの野郎の一方的な展開で終わりか……つまんね」
「まあ、できた攻撃って、最初に放ったファイヤーボールだけだもんね……それも結局かき消されちゃったし……」
「あのストーンバレットを魔法で相殺しようにも、阻害魔法で邪魔されるからな……どうしたって剣で打ち払うしかないが、その全てに対処など……少なくとも俺には無理だ」
「……ソイルの卑怯者! 男だったら、正々堂々ガチンコでやってみやがれぇ!!」
「あっ、ちょっと! そういうヤジはよくないよ!!」
「とはいえ……似たようなことを思っている奴も少なくはないだろうな……」
……まあね、単純に観戦しているだけの身としては、面白みに欠ける対戦かもしれない。
でも、ソイルが巧みにストーンバレットを操ってるところとか、そういう技術的な側面に注目してみると、一気に面白くなると思うんだけどなぁ……
とかなんとか思っていると……ソイルはストーンバレットの射出をやめ、突如として剣で対戦相手に斬りかかった。
う~ん、ヤジを飛ばされたからというわけでもないんだろうが……
「……ッ! ……何のつもりだ!?」
「僕もいろいろと模索中ですから……」
「……俺が実験台だとォ!? 舐めたマネしやがって!!」
「そんなつもりではないんですけどね……」
「うるせェェェェェ!!」
激昂しながらも冷静な部分がきちんと残っているのだろう、対戦相手は崩れ過ぎない程度にしっかりとした剣技を放っている。
それにきちんと対応して剣を合わせているソイル。
……ヴィーンたちって、ソイルの無意識による阻害魔法によって魔法をあまり上手く使えなかったぶん、剣術を磨くことで活路を見出していたみたいなところがあるからね……何気に剣術の腕前も悪くないんだよね。
まあ、ソイルは自信喪失していたこともあって、出会ったばかりの頃はそれもあまり上手く発揮できていなかったけどさ……
「……ま、参った……降参だ」
そうして、しばらくの打ち合いの末、剣を弾き飛ばされ首筋に剣を当てられたところで、対戦相手は降参を宣言。
「……勝者! ソイル・マグナグリンド!!」
そして審判の先生の宣言によって、ソイルの勝利が確定。
……うんうん、ソイルも順調そのものだね!
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