第568話 嫉妬と羨望

「……勝者! ファティマ・ミーティアム!!」


 危なげなく、キッチリと勝利を収めたファティマ。


「強い! 強過ぎるよ、ファティマちゃぁぁぁぁん!!」

「うぉぉぉぉぉ! ファティマちゃん、最ッ高!!」

「俺……あの扇でぶっ叩かれたら、昇天する自信がある……」

「ハァ? んなもん、当たり前だろ! 特別なことみたくいってんじゃねぇ!!」

「つーか、晩飯のあとアイツらがやってる模擬戦で、対戦相手はだいたいみんな叩かれてるだろ……」


 まあ、ファティマは魔法戦闘だけじゃなく、物理戦闘も高水準でこなすからね。

 それでロイター……は別な要因が絡むので置いておくとして、物理戦闘の得意なサンズなんかも普通に扇による一撃をくらったりしてるぐらいだしさ。


「いやいや、そういうんじゃなくてね……叩き方にもいろいろあってさ……そこに愛が必要っていうか……」

「そういえば、あの魔力操作狂いだけどさ……ちょくちょく模擬戦以外でファティマちゃんに叩いてもらってるらしいよ?」

「いいなぁ……」

「……えぇ……それって、どんな関係だよ……」

「まあ、あの子って……ちょっとサドっ気がありそうだもんな……」

「ああ……俺、その場面を見たことある……あのときは、嫉妬と羨望でアタマがどうにかなっちまいそうだった……」

「魔力操作狂いの野郎……許せねぇよ……」

「……許せないったって……俺たちじゃあ、どう頑張っても奴には勝てないもんな……」

「クソッ! なんで俺には、もっと力がないんだよッ!!」

「そこんところ、どうせあの人のことだから……『魔力操作を頑張れ!』っていうんじゃない?」


 そのとおり、よく分かってんじゃん!

 あと、いっぱい食べておっきくなったら、ファティマは興味を持ってくれるかもしれんよ?


「ファティマ、ファティマって……まったく、あのチンチクリン女のどこがいいのよ……」

「う~ん、男共からしたら……いろいろと『ちっちゃい』ところがイイって感じじゃな~い?」

「でも、態度だけはでっかいわよねぇ?」

「あははっ! そういうこといっちゃカワイソウだよぉ~きっと身体がちっちゃいぶん、必死に大きく見せようとしてるんだからさぁ~」


 おやおや、ファティマのことが気に入らない女子たちが文句を垂れているようだ……


「ちょっと、あなたたち……そういうことをいうのは、やめたほうがいいと思うわ……それに、ファティマさんに聞かれたらどうするつもり?」

「は? 別に構わないけど?」

「そうそう、ホントのことをいってるだけだしぃ~?」

「それに、アンタだってあのチンチクリン女のことは面白く思ってないんでしょ?」

「い、いや、それは……」

「ここは本音ベースでいっとこ?」

「そうそう、無理にいい子ちゃんぶることないんだからさぁ~」

「てか、アンタがロイター様のことを密かに慕ってることぐらい、ウチらはお見通しだからね?」

「なっ!! えっ!?」

「いやいや、分かりやす過ぎでしょ……」

「あははっ! 顔を真っ赤にしちゃって、ホントかわいいんだからぁ~」

「ふふっ……優等生ぶって眠たいこといわなきゃ、よかったわね?」

「う、うぅ……」


 う、う~む、やはりファティマもそれなりに嫉妬されてるみたいだね……

 そう思いつつ、ファティマに視線を向けてみたが……特に気にしたふうでもない。

 普段、俺のことをヒソヒソとウワサしてる男子たちに比べて、あの女子たちの声は割と堂々としてたからね、ファティマも聞こえていないはずはないんだけど……

 やっぱ、ファティマは気が強いってことなんだろうなぁ……

 まあ、だからこそ、そういうところが気に入らないって一部の女子から反感を買うのかもしれないけどさ……


「……あいつら、ファティマちゃんのことを悪くいうとは……けしからんな」

「うん、自分たちの魅力のなさを棚に上げて、よくいえたもんだよ……」

「ハァ……フゥゥゥ……俺も、怒りのあまり……アタマがフット―しそうだぜ……」

「まあまあ、そういきり立つことねぇって……どうせあの子と対戦することになったら、アイツらも格の違いってやつを理解させられることになるんだろうし……今だけ吠えさせといてやればいいんじゃね?」

「ま、まあ、そうかもしれないが……」

「でも、あの女共のことだし……『私は文系だから』とか適当なこと抜かすんじゃない?」

「あり得る……」

「いや、そうはいってもな……きっと心の深いトコで『私はこの人に、どうあがいても勝てない……』って理解させられちまう……そのほうが、強がってるぶんキツイってもんさ……」

「そ、そうか……うむ……」

「とりあえず、僕らは余計なことに惑わされないで、ファティマちゃんのことだけ考えてればいいね……」

「ああ、そうだな……っと、俺の出番がきたみたいだ」

「おう、頑張ってこいよ!」

「ファティマちゃんを想う同志として、応援してやろう」

「ふぁいとっ!」

「みんな、ありがとう……それじゃあ、いってくる!」


 そこに、ファティマのファンクラブ会員たちの結束を見た気がした……なんてね。


「……勝者! テクンド・ダンルンカク!!」


 少しばかりよそ見しているあいだにまた1人、勝者の名前が宣言された。

 う~んと……なんか、聞き覚えのある名前だった気がするが……あ、そうそう、マヌケ族が成りすました先生に操られて、俺に敵意を向けてきた奴だ!

 ふぅん……なかなか頑張ってるみたいだね?

 そのうち俺と当たることもあるかな?

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