第569話 最初に目をかけた男
「士爵家の分際で……調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
「別に、俺は調子になんか乗ってない」
「うるせぇ! テメェなんか! テメェなんかにィィィィィ!!」
「させるか!」
もしかしたら原作ゲームの強制力で当たるかもしれないという思いから、念のため主人公君の闘いぶりを観察している。
その感想としては……まずまずといったところ。
ウワサによると夏休み中に覚醒イベントをこなしたらしく、確かに主人公君の身体から発せられている魔力の感じが夏休み前より濃度が濃いというか、強くなっているように思う。
そして、もともと設定的に剣術などの物理戦闘が得意ということもあって、現在対戦している相手に対しても剣の打ち合いで優位をキープしている。
「クソッ! クソッ! なんで当たらねぇッ!!」
「お前の剣は見切った」
「そんなわけッ! なら、これでどうだァ!!」
主人公君の対戦相手が右手で袈裟懸けに剣を振り抜いた直後に、左手で魔法を放つ。
まあ、剣の打ち合い中に魔法を絡めちゃいけないなんていうルールはないからね。
ただし、剣と魔法を同時に扱うのは魔力操作をよく練習しておかないと、難易度が上がる。
そのため練度不足だと、どうしてもタイムラグが発生してしまう……
「……おっと!」
そうして主人公君は剣を捌き、すかさず魔法にも対処をしてみせる。
ふむ、あれぐらいの練度では、主人公君にダメージを負わせるのは難しいか……
「チックショウ! まだだ! まだまだまだァァァァァ!!」
ここで対戦相手は頭に血が上ったのだろう、魔法の乱れ撃ちを敢行。
だが、なんの意図もなくやみくもに撃つ魔法は、魔力の浪費でしかない気がするのだが……
まあ、あれはなんらかの目くらましで、奥の手がある……っていう展開を期待したいところだ。
そう思いつつ、主人公君が飛んでくる魔法を障壁魔法で防いでいる姿を眺める。
ふむふむ、主人公君は防御能力もそれなりに磨いているようだね……いい感じだよ。
「……ハァ……ハァ……クソォ…………」
「……もう終わりか?」
「うっる、せぇ……まだ、俺はやれる……やれるんだァァァァァァ!!」
ほとんど魔力を使い切り、最後のあがきといったところか……主人公君の足下を基点として爆発が起こった。
「ハァ……ハァ……ハハッ……どう……だ! ざまぁ……見やがれ! ……ハハッ! ハァ―ッ……ハッハッハッ!!」
爆発によって煙が立ち込める中、対戦相手のほうは己の勝利を確信したのだろう……
「……何がおかしいんだ?」
「ハッハッ……ハ?」
……煙が晴れると、無傷の主人公君が立っていた。
まあ、あの程度の爆発だったらねぇ……それこそ、うちのサナが放つギガ・エクスプロージョンみたいな大技でもない限り、威張るには値しないでしょ。
なんて、心の中で身内自慢をしてみる……まあ、サナはアレス付きの使用人で血縁関係はないけどね。
「……な、なんでだ……俺のとっておきだったのに………………」
「ああ、悪くはなかったと思う……俺も障壁魔法の展開が遅れていたらヤバかっただろうし……」
「…………チィッ……クソが………………はぁ、負けだ……俺の負けだ」
対戦相手が諦めの言葉を発する。
「……それは降参宣言と受け取っていいか?」
それに対し、審判の先生が確認の問いを投げかける。
「…………はい……降参です」
「そうか……勝者! ラクルス・ヴェルサレッド!!」
こうして審判の先生が宣言することで、主人公君の勝利が確定した。
「つ、強い……あの野郎、やはり実力は本物か……」
「そうだな、あれだけの攻撃を無傷で防ぎ切ったんだ……半端な強さではない……」
「確かにねぇ、王女殿下の周りにいる人たちの中でも、ラクルス君が一番強いってウワサもあるぐらいだし?」
「まあ、王女殿下が最初に目をかけた男なんだ……当然といえば、当然か……」
ほうほう、おそらく原作ゲームでもこんな感じで、主人公は認められていったんだろうなって感じがする。
「そういえばあのとき……魔力操作狂いもアイツのことを庇ってたよな?」
「えぇと……ああ! みんなでラクルスの野郎を糾弾したときか?」
「そう、そのとき! きっと、あの時点で魔力操作狂いもアイツの強さを見抜いてたんだろうなぁ……」
「うっそだぁ! あのときのアイツって、ちょっと剣術ができる程度だっただろ!? 少なくとも、魔法ではたいしたことなかったはず!!」
「う~ん……だからこそって部分もあんじゃね? 魔力操作狂いは逆に最初は剣のほうがイマイチだったって話だろ? だから、自分にないものを求めるっつーか、そんな感じでさ……」
「だからって、わざわざ士爵家みたいな格下の剣に興味を持つか?」
「それはまあ……魔力操作狂いだから……」
「ああ、そうか……そうだったな……」
フフッ……この「魔力操作狂いだから……」というフレーズ……まさしく異世界転生者らしいレッテル!
やっぱりね、異世界転生者の異質な凄さとヤバさを端的に表現した「〇〇だから……」という表現は、必須だからね!
いやぁ、こうして俺も異世界転生の先輩諸兄に少しずつ並んで行けていることを実感できて、嬉しい限りだよ!!
「……ふむ、ラクルスか……本戦で当たるかもしれんな」
「ええ、あの様子ですと、少なくとも本戦まで駒を進めるでしょうからね……可能性はありそうです」
「僕らのうち、誰がその機会を得られるか……ってところかな?」
どうやらロイターとサンズ、それからセテルタも主人公君をライバルと認識し、対戦を楽しみにしているようだ。
「フッ……誰が当たっても、恨みっこなしだぞ?」
「ああ、分かっている」
「もちろんですよ」
「ワクワクだね!」
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