第235話 相応しい言葉かもしれないわね

 模擬戦を終え、談話室にて反省会。


「ソイルよ、模擬戦に参加してみてどうだった?」

「……はい、みなさんとっても強くて……特に何度倒されても立ち上がるサンズさんの根性には、驚かされっぱなしでした」

「いえいえ、むしろそれだけでしたので、もっと鍛錬を積んで実力を付けなければと再認識させられましたよ……そして、ソイルさんの魔法の発動を阻害する魔力、あれにはかなり苦戦させられました……あれを自分の意思で自由自在に扱えれば、凄い武器になるのではないでしょうか?」

「そうだな、落ち着いて魔法に専念できるときなら、じゅうぶん対処もできるだろうが、戦闘に集中しているときに阻害を受けたら厄介なことこの上ないだろうな」


 うん、サンズとロイターのいうとおりだと思う。


「その場合、剣術を学び始める前のアレスにとって天敵のような存在になっていたかもしれないわね……まぁ、アレスの魔纏を破るのは難しいでしょうけれど」

「確かにな、魔法の発動を封じられれば手も足も出なくなっていただろう……まぁ、だからこそレミリネ流剣術を学び始めたわけなんだがな」

「……レミリネ流……剣術?」

「おっと、そういえば、お前は知らなかったか……」


 この際だから、ソイルにレミリネ師匠のことをかいつまんで説明しておいた。


「……そんなことがあったんですね……ああ、そうか、アレスさんが執着していたとうわさのスケルトンナイトはその方のことだったわけですか……」

「ああ、そのとおりだ」


 どうやら、ソイルもレミリネ師匠の話を信じてくれたようで、嬉しい限りだ。


「なんというか、納得しました……少し前までは、魔法さえなければアレスさんに勝てるといっていた人たちが、最近ではアレスさんのことを話さなくなっていましたし……」

「ああ、そんなことをいっている輩もいたな」

「はい、僕も何度か耳にしたことがありますね」

「まぁ、事実だったものね」

「ファティマちゃん、いい方!」

「フッ……『男子、三日会わざれば刮目して見よ』というわけだ」

「……珍しいな、お前が焔の国が由来ではない慣用句をあえて使うとは」

「ええ、まったくです……とはいえ、焔の国でも好んで使われている言い回しみたいですけどね」


 あるだろうなぁ、とは思っていたけど、やっぱりあるんだね。


「……それ、これからのソイルに相応しい言葉かもしれないわね」

「いわれてみればそうだね、ソイル君! しっかり魔法を使いこなせるようになって、ヴィーン君たちを驚かせてあげようね!!」

「は、はい……頑張り……ます」


 赤面しつつ、返事をするソイル。

 だが、それと同時に汗もかき始める。

 ファティマやパルフェナから注目を受けて、照れながらプレッシャーも感じているようだ。

 う~む、女子への対応力も課題といったところか……

 まぁ、その辺については俺もイマイチだから、あまり人のことをいえないかもしれないね。

 ただ、お姉さんの素晴らしさなら語ってやることができるだろう。

 ソイルよ、追々と話していってやるからな!

 そうすればお前も、お姉さんとおしゃべりしたくて仕方なくなることだろう! 期待しているがいい!!


「……アレス、また変なことを考えているわね?」

「あはは、そうみたいだね~」

「え? 変なこと……ですか?」

「ソイルもそのうち分かるようになるだろうが……アレスはいろいろうるさいからな」

「……えっと、アレスさんは今、何もいってませんでしたよね?」

「そうですね……ですが、ソイルさんにも感覚として理解できる日がくるでしょうから、そのときをお楽しみに」

「……感覚として……理解できる……?」

「ソイルよ、今のはあまり真に受ける必要はない」

「え、そうなんですか? だけど……えっと……?」


 顔にはてなマークを浮かべながら周囲を見回すソイル。

 まったく……ファティマたちがおかしなことをいうから、ソイルが混乱しているではないか。

 それはそれとして、こんな感じで反省会の時間が過ぎていった。

 加えて、さほどの問題もなくソイルは、うちのパーティーメンバーと打ち解けられたのではないかと思う。

 そして解散後、そのままいつもの流れで大浴場へ向かう。

 もちろんソイルも一緒に。


「模擬戦後の風呂は最高だな! ソイルよ、そうは思わんか?」

「はい、そうですね」


 さすがにソイルも、風呂ではリラックスできているようだ。

 まぁ、風呂の入り方でミスったらどうしようとか思われても困るが……

 しかしながら、それとなくソイルの体つきを観察してみた感じ、なかなか鍛えているように見える。

 また、模擬戦中の動きを思い出してみても、ロイターやサンズほどの技量はないが、それでも努力をしているだろうことは身のこなしから、じゅうぶん理解できた。

 決して、怠け者ではないのだ。

 ポテンシャルだっていいものを持っている。

 鍛錬次第では、恐るべき魔法士キラーにだってなれるだろう。

 ただ、自信が持てないだけ。

 いや、その自信を持つことこそが、一番難しいことかもしれないが……

 う~ん、どうしたもんかなぁ。

 そんなことを思いつつ、風呂に浸かっていたのだった。

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