第236話 原因は何かしらね?

「朝の光を受けて、俺の心も輝きだす! おはようキズナ君!!」


 というわけで、今日は風の日。

 一日一日と前期試験の日が近づいてくるねぇ。

 そして試験が終われば、そんなに日数もかからず夏休みに突入する。

 特に理由がなければ学園の生徒たちは実家に帰ることだろう。

 それを考えるとソイルには、前期中に……できれば試験に間に合うように、ある程度の道筋をつけてやりたいところだ。

 なんてことを思いつつ、着替え等の朝練の準備をする。

 また、おそらく今日もファティマとランニングすることになりそうなので、参考書は持って行かない。

 加えていうと、昼もソイルの鍛錬に付きっきりになりそうだったので、勉強は昨日の夜に集中してやった。

 というわけで、試験日までメインの勉強時間は夜になりそうだなぁ……とか思いながら朝練のコースに向かうと、運動着に身を包んだファティマが準備運動をしていた。


「よう、今日もランニング少女か?」

「おはよう、表現のセンスはどうかと思うけれど、そういうことになるわね」


 そんな軽やかな挨拶を交わし、走り始める。

 このとき、気分に任せて適当に会話もしているわけだが……やはりというべきか、今日はソイルの話題がメインとなっている。


「彼の魔法の阻害……保有魔力量が多いか、日頃から魔力操作に熱心に取り組んでいれば、それなりに対応もできたでしょうけれど……そうでなければ、パーティーの運営もままならなかったでしょうね」

「そうだな、魔力のゴリ押しか、技量によって魔法を発動させる……並のパーティーでは無理があったかもしれんな」

「それに、明確に阻害魔法として成立していなかったのも、厄介なところね」

「だろうな……実際アイツの周りの連中も『なんか上手くいかない』としか思っていなかったみたいだし」

「そう、それは残念ね……ところで、彼が魔法の発動を阻害する魔力を放出するようになった原因は何かしらね?」

「原因?」

「ええ、彼は男爵家の出身にしては保有魔力量が多いとは前からいわれていたけれど、そのような能力が先天的に備わっていたとは聞いたことがないもの……そう考えれば、何かしらの原因があると思うわ」


 へぇ、ファティマまで知っていたとは……ソイルの保有魔力量が多めなことは、結構有名だったんだな。

 しっかし、原因か……


「なるほどな……だが、特に何も聞いてないな……というか、そもそもあれはアイツの性格によるものだと思っていたし……」

「そうね、性格というのもあるでしょうけれど……きっとそれだけではないと思うわ」

「ふむ……あとで聞いてみるか」


 もっとも、今のところそこまで関係が深いわけでもないからな、答えたがらないかもしれないが……

 そこで無理に聞き出そうとしても、いい結果にはならないだろうしなぁ。


「……ただ、彼自身にも原因が分からない可能性もあるわね」

「ああ、そうか……そういうこともありうるのか……なかなか難しいものだな」

「でも、彼がそれを克服できれば面白いことになる……そういう期待があるのでしょう?」

「……相変わらず、お前は人の心を読む奴だな」

「ふふっ、あなたが分かりやすいだけよ」

「……認めたくはないがな」


 こんなことを話しながら、ランニングをしているわけだ。


「あの2人、凄いペースで走ってるよなぁ……」

「ホントねぇ……」

「でも、そんなのは関係ない! 俺たちは俺たちのペースでいこうぜ!!」

「ええ、そのとおりね! 私たちは私たちよ!!」


 俺たち以外にも、走っている奴がいたわけだが……なるほど、確かに男女で並んで走っていたら、仲がよさそうには見えるな。

 というか、あのカップル……妙に盛り上がっているというか、2人の世界を作り過ぎているというか……とりあえず、お幸せにって感じだね。

 そんなことを思いつつ、1時間ほどのランニングをして朝練を終えたのだった。

 その後はいつもどおり、自室にてシャワーを浴び、食堂へ移動。


「おい、聞いたか? あの追い出され野郎、早速魔力操作狂いに拾われて調子に乗ってるらしいぞ?」

「聞いた聞いた~パーティーの足を引っ張ってた人が、元のパーティーより上のパーティーに入れてもらうなんて、ズルいよねぇ~」

「栄転……といえるかもしれませんね」

「しっかし……魔力操作狂いもなんのつもりだろうな? あんな追い出され野郎を仲間に入れたところで、なんの役にも立たないだろうに……」

「……なんらかの狙いがあるのかもしれませんが……謎ですね」

「え~? どうせただの気まぐれでしょ~?」


 あちらこちらでソイルトークの花が咲いている。

 そんな食堂の中で独り、肩身が狭そうに食事をしているソイル。

 まったく、もっと堂々とせんかい!


「ソイルよ、昨日はよく眠れたか?」

「あ、アレスさん……おはようございます」

「うむ、今日も午後からガンガン魔法の練習をするからな、覚悟しておけよ」

「は、はい……」

「声が小さい! もっと元気よく!!」

「ひゃいッ!!」

「うむ、それでいい」


 コイツが自信を喪失した原因か……性格以外に、果たしてそんなものがあるのかね?


「でもやっぱ、魔力操作狂いって怖ぇよな……」

「うん、そう思うとやっぱり、あのパーティーには入りたくないかも……」

「彼の魔力圧……ふいにお腹の底にズンときますからね……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る