第237話 二君に仕えているってこと

 先ほど、エリナ先生の魅力がいっぱい詰まった授業が終わった。

 そのため、お昼を食べに食堂へ移動するわけだが、その前にロイターと軽く午後の予定を確認する。

 というのも、今日からロイターとサンズも午後の魔法練習に参加することになっているからである。

 ちなみに、ファティマとパルフェナは参加しない。

 女子は女子で付き合いがあるみたいだからさ。


「あとから合流するが……おそらく遅くなるだろうから、先に魔法の練習を始めておいてくれ」

「ああ、分かった……だが、こうも頻繁に小娘どもの相手をせねばならんとは、実にご苦労なことだな」

「それだけ恵まれた立場にいるわけだから、これぐらいどうってことはない」

「まあ、ほかの小僧どもからすれば、うらやましいことなんだろうけどな」

「本来なら、お前も私と似たような状況だったろうに……」

「フッ、お前も『奇行子』と呼ばれるぐらい、奇行に走ってみてはどうだ? そうすれば、すぐにでもつまらん小娘どもが寄ってこなくなるだろうよ」

「そういえば、お前はそんなあだ名でも呼ばれているみたいだな……それはともかく、家に迷惑がかかるだろうから、それはさすがに無理だ……お前こそ、実家から何かいわれないのか?」

「いいや、まったく、音沙汰なし」

「まったくだと? 手紙の一通もないのか?」

「ああ、ないな」

「それは……大丈夫なのか……?」

「さあな? だが、後継者は既に兄上と決まっているようだし、卒業後は関係もなくなるだろうからな、問題なかろう」

「……そうか、まあ、何かあれば必ず私たちに相談しろ」

「おお! ロイター様が私の後ろ盾となってくださるとは、頼もしいことですな!!」

「ちゃかすな、まったく、お前という奴は……」

「……お前の気持ちはありがたく受け取っておくよ」

「……急に真面目に答えられても反応に困るのだがな」

「フフッ……さて、ソイルの奴が食堂で独り寂しそうにしているかもしれんからな、そろそろ行くよ、またな」

「ああ、そうしてやれ、それじゃあな」


 最初はちょろっと挨拶だけのつもりだったが、思ったより話し込んでしまったね。

 しかしながら、家の関係上仕方ないとはいえ、好きでもない相手と食事をともにするのは面倒だろうなぁって思っちゃう。

 この辺については、原作アレス君が上手い具合に嫌われておいてくれたおかげで助かったって感じだ。

 ま、俺もそれなりに努力はしたけどさ!

 とはいえ、これが小娘じゃなくお姉さんだったなら、超ウェルカムなんだけどなぁ。

 その場合、一日十食ぐらい食べちゃうんじゃない?

 とか思った瞬間、腹内アレス君が「おっ! そいつはいいな!!」みたいな反応を示しだした。

 ……期待させてゴメンだけど、さすがにそれはないからね?

 それから、ロイターとの会話により、改めてソエラルタウト家の家庭事情がアカンということが浮き彫りになった気がする。

 確かになぁ、俺から連絡を取っていないのもあるが、向こうからも何もないっていうのは、やっぱおかしいんだろうねぇ。

 ……そんなんだから、原作アレス君が破滅するようなことになったんだ!

 原作アレス君が家で孤立するように仕向けたあの父親は、本当にクソ野郎だな!!

 マヌケ族の暗躍とか、王女殿下を巡る主人公君への嫉妬とかいろいろあるけど、結局のところ全ての原因はあのクソ親父にあると俺は思うね!!

 あの男にほんの少しでも原作アレス君への愛情があれば……もう少し違う未来もあったのではないだろうか、そう思わずにはいられないよ。

 ……なんというか、ファティマが朝練のときソイルがああなった原因を気にしだしたことが影響しているのか、原作アレス君が破滅した原因についてまで思考が及んでしまった。

 そんなことを考えながら、食堂へ移動したのだった。

 そして何やら、食堂内がざわついている。


「お前……早速ソエラルタウト侯爵家の子息にしっぽを振っているようだな?」

「ほんとにねぇ、ヴィーン様のパーティーから離れて、そんなに経っていないというのに……節操のないことだねぇ」

「……いや、僕は……そんなつもりは……」

「お前たち、やめろ……」

「いくらヴィーン様の言葉でも、それは聞けません! あんなに忠義面していたコイツが、こんなにアッサリ主君を乗り換えて調子付いているなど、我慢なりません!!」

「でも、こうしてコイツが不忠者だと分かったのだから、むしろよかったのかなぁ?」

「そんな! 僕のヴィーン様への想いは、今も変わっていません!!」

「ソイル……」

「なおのこと悪い! それなら、侯爵家に媚を売らず、独りでいればいいんだ!!」

「そうだねぇ……結局それって、二君に仕えているってことじゃないのぉ?」

「……ッ!! でも……アレスさんは……僕に魔法を教えてくれているだけで……」

「はぁ!? そんな言い訳、通用するわけねぇだろうが!!」

「あ~あ、せっかくあの人が拾ってくれたっていうのに、酷いなぁ……そんなんじゃ、また駄目になるんじゃない?」


 追い出したんだったら、あとはもうそれで放っときゃいいのに、わざわざ文句をいいに来るとは……暇な奴らだな。

 というか、そもそも俺はソイルを家来にしたつもりもないしな。

 とりあえず、俺も話題の人物ではあるみたいだし、お話に参加しましょうかね?

 はぁ、やれやれだな。

 ……あ、なんか今の、異世界あるあるっぽかったね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る