第238話 お前も何かいったらどうなんだ?

「やけに小動物の鳴き声がすると思ったら、お前たちだったのか……食事は静かにするものだと教育されなかったのか?」

「し、小動物……だと?」

「クッ……間の悪い……」

「……アレスさん」

「……」


 血の気の多そうな小僧は、小動物といわれて不愉快そうにしている。

 一方、嫌味っぽい小僧は、俺の登場に若干の焦りを見せる。

 そこに、まさしく小動物っぽいソイルと無言のヴィーンという構図。


「ソイルよ、午後からの予定が詰まっているんだ、食事を済ませるためさっさと席に着け」

「は、はい……」


 そうはいうものの、ヴィーンたちのことが気になるのか、チラリとそちらに目を向けるソイル。


「待て! まだ話は終わっていない!!」

「トーリグ、ここであの人と揉めるのはマズい」

「ん? まだいたのか……大型肉食獣に食べられてしまう前に、早くここから去ったほうがいいんじゃないか?」


 なんとなく、煽ってみた。

 食堂にいるオーディエンスたちへのサービス精神が、俺にそうさせたのだ。


「……プッ」

「まだ、小動物ネタで引っ張るんだ……」

「いやいや、あの人からすれば、あいつらなんかその程度の存在なんでしょ」

「というか……俺らのこともそういう認識なんじゃないか……?」

「あっ、そっか!」

「おいっ! 『あっ、そっか!』じゃねぇだろ!! オメェにはプライドがねぇのか!?」

「……もしかして、オイラたちもそのうち……あの人に丸かじりされちゃうのかな?」

「えぇっ!? いや、でも……それはさすがに……」

「ぼ、僕は食べても美味しくないですよぉ~」


 俺の小僧どもへの煽りを聞いて、周囲のオーディエンスが噴き出したり、怖がりだしたり……

 安心しろ、人間は食わん……腹内アレス君も反応していないしな。

 そして、周囲の嘲笑のせいもあってか、ワナワナと怒りに震える血の気の多そうな小僧にも、ついに我慢の限界がきたようで……


「……いわせておけば、この野郎!!」

「よせって! トーリグ!!」

「放せ! ハソッド!!」

「駄目だ! お前じゃあの人に勝てないッ!!」

「ほう、そっちの奴は小動物なりに実力の差を理解しているようだな?」

「ぐぬぬ!」

「だから、駄目だって!」

「そして、勘違いしているようなので教えておいてやるが……お前らが勝手に見下しているソイルだが、実力はお前らよりも上だぞ?」

「えッ!? 何をいってるんですか、アレスさん! そんなわけないですよぉ!!」

「……何をいいだすかと思えば……そんなわけねぇだろ! ソイツは人の足を引っ張ることしかできねぇ、役立たずの能無しだ!!」

「……ははっ! それはさすがに、ユーモアが過ぎるというものですねぇ」

「……」


 なんというか、ソイルの自信のなさも問題だが……

 ソイルの魔法の阻害に負けている奴らがそれを理解できていないのは、もっと深刻だな。

 そしてそれは、周囲のオーディエンスも同じようで……


「……ソイルのほうが上っていうのは、さすがに吹かし過ぎだよなぁ」

「だねぇ……だってソイルって、めちゃめちゃ魔法がヘタクソなんでしょ?」

「そうだぜ? オレ、前に見たことあるけど……アイツの魔法って目標に当たる前に途中で消えちまうんだ……それでどうやって戦えるんだって話だよ」

「うわぁ……それは使えない……」

「それに、剣の腕だって……別に悪くはないけど、そこまで突出しているわけでもないし……」

「そうですよね……う~ん、彼の言葉の意図が分かりませんね」


 ここにいる連中の誰一人としてソイルの真価をつかみ切れないとは、なんだかなぁ……

 魔法の阻害を認識できていないというのなら、ソイルは自信を付けさえすれば、こいつら全員を完封できそうだぞ?

 それでいいのかお前たち……って感じだ。


「まったく……相手の真の実力も理解できんとは、情けない連中だ! お前らは本当に魔力操作の鍛錬を積んでいるのか!? この程度のことも分からんのなら、全員これからの前期試験、クラス落ちだな!!」

「え!?」

「なんで……?」

「そんなバカな……」


 こいつらにソイルのどこが凄いかまでは教えてやる必要もないからな、魔法の阻害については黙っておこう。

 ただ、魔力操作に真剣に取り組めば正解に辿り着けるだろうというヒントだけは出しておいた。

 まあ、試験も近いわけだし、頑張ってくれたまえ。


「そしてお前らは、ソイルと今までパーティーを組んでいながら、ソイルの活かし方をまるで理解していなかった……そんなお前たちのほうが、役立たずの能無しだといわざるを得んな!!」

「なんだと! この野郎!!」

「……その言葉、取り消してもらいたいものですね」

「アレスさん……」

「……」

「おい、ヴィーンといったか……さっきから黙っているが、お前も何かいったらどうなんだ?」

「ヴィーン様! ガツンといってやってください!!」

「そうですよ! ここまで侮辱されたのですから、相手が侯爵家の子息だからといって遠慮する必要はありません!!」

「ヴィーン様……」


 そうしてパーティーメンバーや、周囲のオーディエンスの注目がヴィーンに集まるが……


「……何もいうことはない……お前たち、もう行くぞ」

「そんな、ヴィーン様! 待ってください!!」

「どうして! どうして、何もおっしゃられないのですか!!」

「……」


 そうして、ヴィーン一行は食堂から去っていった。

 う~ん、ヴィーンとやらが何を考えているのか、イマイチようわからんね。

 単なるシャイボーイなのか……それとも理由があるのか……


「ヴィーン様……」


 奴らが去って一時的な静寂の中、ソイルの呟きだけが食堂内に響き渡るのだった。

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