第239話 どうしてここまでしてくれるんですか?

「ヴィーンの奴も、何を考えているんだかって感じだよな?」

「う~ん、『男は黙って……』みたいな? そういうのに憧れてるんだよ、きっと」

「なるほど、『男は背中で語る』ってやつですね? 確かにそういうのって、カッコいいですからねぇ」

「そうそう、そんな感じ」

「……それがカッコいいのかは知らんけど、ここまで揉めてんだったら、背中なんかで語ってねぇで、言葉にしろって俺なんかは思っちまうな」

「あ~あ、分かってないなぁ」

「ですねぇ、それが男のロマンというものですのに……残念なお人だ」

「何いってやがる!? 俺は残念なんかじゃねぇって!!」


 ヴィーン一行が去ってしばらくすると、食堂内はガヤガヤとした喧噪を取り戻した。

 その中で、やはりというべきか、先ほどの出来事が話題の中心となっている。

 そしてソイルは、ヴィーンの去っていった方向を今も見つめたまま。

 ……お前の想いは、奴に届いているのだろうか?

 まあ、それは本人たちにしか分からないことか……

 それはそれとして、お昼ご飯を食べよう……腹内アレス君が待ちくたびれているからね。


「ソイルよ、すっかり遅くなってしまったが、早く食事を済ませるぞ」

「あ、はい……」


 ソイルは若干、心ここに非ずというふうではあったが、とりあえず昼食を済ませた。

 また、小僧どもの話では「男は黙って……」というのがカッコいいらしいので、俺も黙って食事をしてみたのだった。

 ……なんというか、おひとりさまモードのときと、ほとんど変わらんかったね。


「よし、魔法練習場に行くぞ」

「はい……」


 食事を終えて、魔法練習場へ移動。

 移動中もソイルは、何かを考えていたようで、ずっと黙ったままだった。


「今日は52号室だね……それじゃあ、頑張っといで!」

「はい、ありがとうございます!」

「そっちのボウヤも、魔法は気分の影響も大きいんだから、元気を出すんだよ!」

「は、はいっ!」


 こうして受付のお姉さんの激励を受け、52号室に入る。

 そこで、今まで返事ぐらいしかしてこなかったソイルが、ようやくといった感じで口を開く。


「アレスさん……アレスさんは僕に、どうしてここまでしてくれるんですか? さっきだって、本当は放っておけばよかったのに……みんなの前で、あんなふうに僕のことをいってくれて……僕のことを評価してくれる人なんて、誰もいないのに……」


 それはね……イマジナリーエリナ先生にお願いされちゃったからだよ……

 まあ、きっかけとしては、そういうことになるだろうけど、それだけじゃない。

 俺がお前に関わろうとした理由……


「それは、お前が俺と似たような才能の持ち主だったからな、親近感が湧いたっていうのはあるだろう」

「えっ! 似たような才能!?」

「ああ、お前の保有魔力量が多いってことは、なかなかに有名だろ? 俺も『魔力の化け物』なんて呼ばれていた程度には、保有魔力量が多かったからな……お前の苦労も少しは理解できるつもりだ」

「そんな! アレスさんに比べたら、僕の保有魔力量なんて……あいたッ!!」

「また、『僕なんて』といったな?」

「うぅ……すみません……」


 多少は見逃してやっていたが、このままだとソイルは際限なく自分のことを卑下しまくりそうだったので、ここらでひと蹴り入れといた。


「まあ、それでな……俺も最初のうちは魔力の扱いに苦労したんだ……魔力操作をするときも、なんというか、こう……魔力経を流れる魔力が妙に重たくてな……でも、それを乗り越えた先……魔力の扱いに慣れてきてから見える景色は素晴らしいものだった」

「乗り越えた先……ですか……?」

「そう、あれは……『俺の想いが魔力に届いたんだ! 魔力は俺の想いに応えてくれたんだ!』そんな感覚だったな……それをお前にも感じさせてやれればと思ったんだ……親近感を持っただけにな」

「そうだったん……ですね……」

「あとはそうだな……お前が真の実力を発揮することで、お前を追放した連中が悔しがるところを見るのも面白いかと思った、というのもあるかな?」

「それは……えっと……どうなんでしょうか……」


 やっぱり「追放」からの「ざまぁ」は、異世界あるあるだからね!

 そしてそれを、異世界転生の先輩諸兄のように自分で体験するのではなく、他人に体験させるのもイケてるんじゃないかと思ったんだ。

 フッ、「演出家アレス」ここに誕生す……って感じさ。

 ま、そんなことをいっても通じないだろうから黙っとくけどね。

 というか、「なんだそりゃ!? ふざけんな!!」って怒られるかもしれないし……

 というのはまあ、冗談として……


「結局のところ、俺はお前の才能を見込んだってだけの話だ。それに、思ってもみなかったことだが、お前には阻害系魔法への適性もあったみたいだしな!」

「えっと……そんなふうに改めていわれると……その……照れてしまいますが……でも、そうだったんですね……分かりました……アレスさんの期待に応えられるよう、僕も頑張ってみたいと思います」

「よし! その意気だ!!」

「はいっ!!」


 ふむ、少しは元気が出たようだな。

 あ、そうだ、ファティマが気にしていた、ソイルがこうなった原因について聞いてみるか。

 なんとなく、この流れなら聞けそうな気もするしな。


「それと、この際だから聞いておくか……」

「……なんでしょう?」

「これは答えたくなければ、無理に答えなくてもいいが……お前が失敗を恐れるようになった……もっといえば、自信を喪失するようになった原因に何か心当たりはあるか?」

「……ッ!! えっと、それは……」


 この反応、どうやらあるみたいだね……

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