第240話 全ては僕の至らなさが原因です
「……」
「さっきもいったが、答えたくなければ別にそれでもいい、無理はするなよ?」
「……いえ、そういうわけでは……でも、そうですね……まとまりがない上、あまり面白い話ではないかもしれませんが……それでも構いませんか?」
「ああ、いいぞ」
「ありがとうございます……では、話させていただきます」
「おう、この際だからな、直接関係ないことでも話したいだけなんでも話すがいい」
「はい……それじゃあ、どこから話そうかな……まずはやっぱり、僕たちの関係からにしようかな……えっと、僕とトーリグとハソッドの3人の実家は、ヴィーン様の実家であるランジグカンザ伯爵家の寄子貴族でして……ヴィーン様と同い年の僕たちは、将来の側近となるべく育てられました……それはちょうど、ロイターさんとサンズさんの関係と同じですね」
「みたいだな」
「……今はこんなふうになってしまいましたが、これでも僕たち3人はとても仲がよくて、『3人で協力して、ヴィーン様をお支えしよう!』なんて誓い合っていたんですよ……信じられないかもしれませんが……ああ、あの頃が懐かしいなぁ」
そういって、在りし日に思いを馳せるソイル。
ただまあ、あの2人のソイルへの態度からすれば、信じ難いものがあるのは確かだな。
だが、それだけの何かがあったということだろうか?
「あっ、すみません……それでですね、言葉数は少ないものの心優しいヴィーン様を中心にして、いつも4人一緒で……それはとても楽しく、幸せな日々でした……」
「そうか、なんで黙ったままなのかと思っていたが……ヴィーンとやらはあれで普通だったのか……」
ふむ、単なるシャイボーイ説が一歩リードといったところか。
「……そうですね、ヴィーン様はあまり多くを語らない方です……だからこそ、時折見せる優しさに心が強く惹きつけられるわけですが……」
「へぇ、そうなのか」
あっ! もしかしてヴィーンの奴もクール道に身を置く男なのかもしれないぞ!?
俺としたことが、その可能性を失念していた……
しかし、なるほどな……アイツの態度もそれで説明がつくというものだ。
おっ! ということは、アイツも俺と同じ道を志す同志というわけか……
なんだろう、急に親近感が湧いてきたぞ。
いや、ちょっと待て……心優しい奴が仲間を追放するっていうのはどうなんだ?
ああ、でも……そういう行動も、冷ややかという意味合いにおいては、クールともいえるか……?
むむっ……図らずもクール道の在り方を問う、難しい問題が浮上してしまったな。
おっと、このことを思案するのはまたの機会にするべきだな……今はソイルの話に集中しよう。
「そうして、しばらくの年月を過ごしていたのですが……魔法を学び始めるような時期になってから、関係が変化していきました……」
「ほう」
なるほど、ここで魔法が関係してくるのか。
それまでは仲良しグループだったのに、新しい要素が加わって関係に変化が訪れる……
まあ、ありそうな展開といえば、そうだろうな。
「たぶん、アレスさんもそうだったと思いますが……年齢を重ねるにつれ、僕の保有魔力量は増大していき……それが周囲の環境に影響しました」
えっと……原作アレス君の記憶を辿ってみると、どうやら似たような感じっぽい。
いやまあ、生まれた瞬間からスゲェ保有魔力量っていうのも、それはそれで恐ろしいかもしれないしな。
というか、そうなると魔力の負荷に体が耐え切れず自壊してただろうし。
とりあえず、身体の成長と同じように、魔臓も成長していったって感じだろう。
「僕の保有魔力量の多さが目立つようになってきた頃から、ヴィーン様を支える僕たち3人に対する周囲の扱いが変わっていって……それまでは3人とも同列だったのが、次第に僕を筆頭として扱うようになっていったのです……」
「ああ、そういうことか……それを面白く思わなかった2人は、今のような態度になっていったというわけだな?」
「いえ、そうではありません……2人は『序列なんか関係なく、3人でヴィーン様を支えられたら、それでいい』といっていました」
「ん? 違うのか? じゃあ、どうしてこうなったんだ?」
「……たぶん、変わってしまったのは僕のほうだったんだと思います……そんなつもりはなかったのですが……周囲の大人たちの僕に対する接し方によって、知らず知らずのうちに、3人のうちで僕が一番優れていると、傲慢になっていたのだと思います」
「……それは保有魔力量の多い奴にありがちなことみたいだな」
現に、原作アレス君がそういう感じで増長していって、破滅を迎えたわけだし。
さらにいえば、エリナ先生からもそういう感じで駄目になっていった奴の話を聞いた記憶がある。
「たぶん、僕は調子に乗っていたのでしょう……あるとき僕は、とんでもない失敗をしでかしました……しでかしてしまいました……」
「……ソイル、無理はしなくていい」
ここで、今日一番の重苦しい陰気な魔力がソイルから放出される。
正直、魔纏を展開していなかったら、もしくは並の奴なら気絶してたんじゃないかと思わされるぐらいだ。
「……」
「そうだ、落ち着け……それは過去のことだ、今のことじゃない……だが、そこまで辛いことなら、もう話さなくていい」
「……いえ、大丈夫です……すみません……えっと、それで……あるとき4人でモンスター狩りに行ったとき……」
「行ったとき?」
「……そのとき、あろうことか僕は……魔法を暴発させてしまい……ヴィーン様に怪我を……負わせてしまいました……」
「……!! そうか……そんなことがあったのか……」
魔法の暴発、原作アレス君も頻繁にしていたよな……
どっちかというとゲームではギャグ要素のような扱いで派手に大爆発をしていたが……それが現実ともなれば、結構な大惨事になっていたのかもしれん。
「……幸い、そこまで大きな怪我でもなく、ポーションで治りましたが……」
「まあ、それだけでは終わらんか……」
「はい……そんな失敗をしてしまって僕は、ヴィーン様の側近を辞退しようかと思ったのですが……ヴィーン様は僕に、そのまま側近として傍にいるよういってくれたのです」
「なんと! だが、そんなことがあっては、ヴィーンの実家が黙ってないだろう?」
「それは……そのとき僕たち4人しかいなかったこともあって、ヴィーン様が4人だけの秘密ということにしたのです」
「なるほど、大人たちは知らないということか」
「はい」
まあ、本当に知らないかどうかは微妙なところではあるだろうが……そのままということになったわけだな。
「そして、それからです……僕が魔法を上手く使えなくなったのは……また暴発してしまうのではないか……またヴィーン様に怪我を……いや、怪我だけでは済まなくなったら……そう思うと、怖くなってしまって……」
「そうか、それで暴発に備えて魔法を使うときは低威力のストーンバレットに限定していたが……それでもやはり、そのときの記憶が頭をよぎると、途中で魔法が消えてしまうといったところか」
「はい、おっしゃるとおりです……そして、トーリグとハソッドとの関係も、それから変わっていきました……」
「ヴィーンにケガを負わせた奴がお咎めもなく残っているのが気にくわない、加えて魔法も上手く使えないんじゃなおさら……それが積もり積もって今に至ったという感じか」
「……たぶん、そうだと思います……だから、あの2人の僕に対する態度も当然のことなんです……全ては僕の至らなさが原因です」
なるほどなぁ、ヴィーンに魔法の暴発で怪我を負わせたこと、それがソイルに失敗を恐れさせ、自信を喪失させた原因となるわけか。
「話しづらいことであっただろうに、聞かせてくれてありがとう」
「……いえ」
さて、原因が分かったところで、それをどう克服するかって話だな……
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