第241話 それはめんどくさいだけです

 ソイルの話をひととおり聞いたところで、俺たちがいる魔法練習場のドアから呼び出し音が鳴る。


「開いてるぞ」


 そうドアに向かって返事をすると、ロイターとサンズが入ってきた。


「……まだ魔法の練習を始めていなかったのか?」

「ああ、今後の方向性を考える上で、大事な話をしていた」

「ほう、それで結論は出たのか?」

「……それはこれからだ」

「これから?」

「いえ、あの、そういうことではなくて……どうして僕の魔法が上手くいかないのか、その原因はなんなのかということを、アレスさんに聞いてもらっていたのです」

「ああ、そういうことか……相変わらずアレスは回りくどい言い方をするものだな」

「フッ、婉曲表現の巧みさで俺の右に出るものはいないという自負があるからな」

「また適当なことを……」

「……アレスさん、それはめんどくさいだけです」


 ロイターとサンズの呆れ顔いただきました!


「ははっ……いつもみなさん、楽しそうですよね…………僕たちにも、そんな頃があったのになぁ……」


 俺たちのやり取りがソイルには面白く感じたようだ。

 そしてそれは、ソイルの切なさスイッチを押してしまったようで、ヴィーンたちへの想いが小さな呟きとなって漏れたのだった……陰気な魔力とともに。


「楽しそう? そう思うなら、ソイルもアレスにツッコミを入れまくればよかろう」

「そうですね、アレスさんはツッコミどころだらけの人ですからね……それに、アレスさんもそれを求めている節がありますし」

「はぁ? ツッコミを求めている節だと!? それはツッコミ能力検定2級の俺に向かってなんたる言い草だ!!」

「そんな検定など知らんぞ?」

「……ちなみに、1級は誰がお持ちなのでしょう?」

「それはもちろん、ファティマに決まっている!」

「なるほど! ファティマさんか!!」

「いやいや、ロイター様もそこで納得しないでくださいよ……」

「あはっ、あはははは……ホント、楽しいです」


 そういうソイルであったが……その体から放出される魔力には、確かに明るく陽気な魔力もあったが、それに対抗するかのように、暗く陰気な魔力がない交ぜとなっていたのだった。

 ……揺れ動いているのだろうな。

 それにしても、こんなふうに感情がモロに出る魔力……分かりやす過ぎるにも程がある。


「……ふむ、ソイルは隠し事のできない男というわけだな」

「え?」

「そうだな、感情が魔力に乗り過ぎだ」

「はい、魔力の扱いが上手とはいえない僕にも分かりましたし」


 そんな感じで謙遜気味にいうサンズだが、コイツも普通に上位層ではある。

 ただ、ロイターに比べると多少劣るといった程度だ。


「それから、昼食時にも思ったのだが……学園の小僧どものうちほとんどは、ソイルの魔法の阻害を理解していないようだな?」

「ああ、していないだろうな」

「だと思います」

「俺にはそれが理解し難いところだ……魔力操作をしっかりこなしてさえいれば、多少なりとも分かったであろうに……なぜ、アイツらは魔力操作をやらんのだ?」

「お前も想像はできているだろうが……優先順位が低いのだ」

「そうですね、貴族家に生まれた方であれば、魔法を発動させるのに充分な魔力を基本的に保有していますからね……魔法を発動させるための必要最低限の魔力操作を学んだら、あとは魔法自体の練習に集中するといったところでしょうか……それに何より、魔力操作は飽きやすいので、苦痛に感じる方が多いというのが実際のところだとは思いますが……」

「……えっと、学園に入学する前に習っていた家庭教師の先生からは、『魔法の練習をしていれば、自然と魔力操作の練習にもなっている』と教えられました」

「ああ、ソイルのいうように、そういう教え方をする教師もいるみたいだな……おそらく、自分が面倒でやってこなかっただけだと思うが」


 やっぱり、そんな感じなんだなぁ……

 しかし、魔力操作不要論を唱えている教師は、俺の感覚からしたらハズレって感じがしてしまうよ。


「……懐かしいですね、僕たちもそんなふうに魔力操作より魔法の練習をしたらどうかと師匠にいったら、思いっきり引っ叩かれましたものね?」

「そういえば、そんなこともあったな……」


 そう返事をしながら、ロイターは自分の頬をさすっていた。

 ……よっぽど痛かったんだろうなぁ。

 しかしながら、さすがはロイターたちのヤベェ師匠といった感じだ。

 あなたがしっかりと教育したおかげで、ロイターとサンズはこれだけの実力を身に付けられたのだから。


「……かなり話がズレてしまったが、それでソイルの魔法が上手いかない原因とはなんだ?」


 ロイターの問いかけ、そこで俺はソイルへ視線を送る。


「アレスさん、大丈夫です……みなさんにも大変お世話になっているので、話をすることに戸惑いはありません」

「そうか」


 そうしてロイターとサンズにも、ソイルとヴィーンたちに起きた出来事について話をしたのだった。

 この2人はヤベェ師匠にいろいろ教わっていただろうからな、何気にナイスな克服法を提案してくれるかもしれん。

 そんな期待を込めた眼差しを、ソイルの話を聞いているロイターとサンズに向けていた。


「……アレス、眼差しがうるさい」

「え? 眼差しが……うるさい?」

「ソイルさん、今のです……今のを感覚として理解できれば、アレスさん検定に合格します……まあ、3級ぐらいですけど」

「え? えぇ?」


 早速、サンズが検定ネタで俺をイジりだした。

 まったく、かわいそうに……ソイルが混乱しているじゃないか。

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