第242話 ちょうどいい

「なるほど、魔法の暴発か……」

「様々な要素が考えられると思いますが、やはり保有魔力量に対して、身体の成長が追いついていない……そして何より、魔力操作の習熟度が低い場合に魔法の暴発は起こりやすいみたいですね」

「まあ、若いうちは調子に乗って制御できないほどの魔力を込めてしまう……なんてこともあるだろうしな」


 それで原作アレス君は頻繁に魔法の暴発を起こしていたわけだし。


「……そういった心構えによる部分は大いにあるだろう」

「僕たちも、気を付けたいところですね」

「……反省してます」


 そういって、全身から申し訳ないという雰囲気……というか魔力を放つソイル。

 おそらく魔法を暴発させてしまった当時のソイルは、ヴィーンや仲間たちに「いいところを見せたい」みたいな気持ちが前に出過ぎていたのだろうことが想像できる。


「ソイルさん、そう気を落とさず、これから頑張っていきましょう!」

「そうだな……そこで思ったのだが、今のソイルなら魔法の暴発を気にする必要がないのではないか?」

「……気にする必要が……ない?」

「ほう、ロイターよ、何か案があるのだな?」

「いや、案というほどのことでもないが……結局のところソイルが恐れているのは、魔法の暴発によって仲間を傷つけてしまうことだろう?」

「はい、そうです……」

「ならば、問題ないだろう……なぜなら傷つかないのだから」

「えっと……どうして、傷つかない……のですか?」

「特にアレスは、密度の濃い魔纏を常時展開しているのだから、ソイルがいくら魔法を暴発させたところで、なんの影響もあるまい」

「……なッ!?」

「そしてアレスだけでなく私たちも、その程度のことならキッチリと防御しきる自信がある……まあ、もし仮に防御しきれなかったとしても、回復魔法でどうとでもなる……それぐらいの鍛錬は積んである」

「え……えっと……」

「そういうわけだから、失敗を恐れずガンガン魔法を撃っていけばいい……いや、むしろ何度でも魔法を暴発させるぐらいでちょうどいいのかもしれないな……そうして数をこなしていけば、そのうち感覚をつかめるだろう」

「……ロイター様……おっしゃっていることが凄く……師匠っぽいです」


 ふむ、ロイターたちの師匠がいいそうなことというわけか。

 なんというか……発想が脳筋。

 だが、俺もそういうのが好きだ!


「さすがはロイター! 見事な解決案だ!!」

「えぇ……」

「ソイル! お前がなんで引いてるんだ!?」

「いや……その……何度でも魔法を暴発させろといわれましても……」

「何をいうか! それがいいんじゃないか! 途中で魔法が消えてしまうぐらいなら暴発させちまえってことだ!!」

「そ、そんな極端な……」

「極端で結構!」

「まあ、自分でいっておいてなんだが……今のソイルには、それぐらいの強引さが必要だと思うぞ?」

「ちなみにですけど、試験中に魔法を暴発させても、先生たちがしっかりフォローしてくださるでしょうから、その心配も必要とせず、思いっきりいけますよ!」

「あぁ……サンズさんまで……」


 ふむ、だいぶ方向性が見えてきたな。

 あとは、試験対策も兼ねた一石二鳥的な訓練方法を考えたいところだが……

 あ、そういえば、数日前に森を走ったよな……あれがちょうどいいんじゃないか?

 ランニングをしながら、動き回るモンスター相手に的当ての練習。

 そして実戦ともなれば、ゴチャゴチャいう余裕もなく、魔法を使わざるを得ないだろう。

 そして、魔法が暴発してしまった場合も、俺たちが周囲への被害を抑えられるように障壁魔法かなんかで対応すれば問題あるまい。

 よし、これでいこう!


「ソイルよ、これからの訓練方法が決まった」

「そ、そうなのですか?」

「ああ、森の中を走るぞ!」

「……森の中を走るのですか? でも、どうして……?」

「それはな……」


 ソイルの疑問に答えるため、俺の意図を説明してやった。


「な、なるほど……で、いいの……かな?」

「まあ、アレスらしいといえば、アレスらしいな」

「でもロイター様、僕らも昔、似たようなことを師匠にやらされたことがありましたよね?」

「ああ……『自然は全てを教えてくれる』とか適当なことをいって、森に放り込まれたときだな……あの頃はまだ、練度不足ですぐ魔力を使い果たしていたからな……どちらかというとモンスターどもに追いかけ回されてばかりいたような記憶がある……」

「はい、そのとおりですね……ただ、そのおかげで足腰は鍛えられましたよね?」

「だな」


 ときどき出てくるヤベェ師匠の思い出話を聞くと、ロイターが公爵家の子息だということを忘れそうになるよ。

 なんというか、そういう高貴な身分の子女ってもっと大切に扱われるんじゃないの?

 ……アレス君が侯爵家の子息であることには目を逸らしながら、そんなことを思った。

 いやまぁ、アレス君の場合は当主に愛されていないからって部分が大きいけどさ。


「まあ、とりあえず今日のところは、だいぶ昼も過ぎてしまったので、森の中を走るのは明日からにしよう」

「そうだな……じゃあ、今日のところは、明日に向けて魔力操作等の基礎訓練に集中といったところか?」

「そうですね……あとは、魔法の暴発に備えて、魔纏の練習も並行しておこないたいところですね……僕たちの展開する魔纏はまだ、アレスさんほど密度が濃くないですから」

「うぅ、僕の魔法が暴発することを前提に話が進んじゃってるよぉ……」

「フッ、だから安心して盛大に暴発させるがいい!」

「ああ、私たちが万全のフォローをしてやるからな、余計なことは考えず全力でいくといい」

「ソイルさん、これはチャンスですよ! 今ならいくらでも失敗ができます! さあ、頑張りましょう!!」

「……はい」


 こうして今後の予定も決まり、あとは夕食の時間まで心置きなく魔法の練習に取り組んだのであった。

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