第243話 えらくゴキゲンみたいだな
魔力操作をメインとした魔法の練習を終えて、魔法練習場に併設されているシャワーを浴びている。
そして今日の練習では、ソイルも多少は気持ちに余裕を持てるようになったのか、昨日よりは陰気な魔力の放出を抑えられていたような気がする。
それから……確かに昨日俺は、魔力操作をする際に花をイメージしろといったが、それをソイルは愚直におこなっていたようで、今日は魔力の花が開いたり閉じたりしていたのがハッキリと分かった。
それをロイターとサンズも気付いたようなので、俺の勘違いではないはずだ。
ちなみに、ソイルのイメージしていたであろう花は、前世の小学校で育てさせられた朝顔っぽいなと思った。
まあ、そんな感じで形状まで理解できるほどの花だったというわけだ。
うん、やっぱりソイルはポテンシャルはいいものを持っているのだ、あとは使い方だけ。
そんなことを思いながらシャワーを終え、食堂へ移動する。
その道すがら、ロイターが口を開いた。
「……アレスと一緒にいると、風呂やシャワーの回数が増えるな」
「そうですね……身嗜みに気を使う方でも、清潔の魔法で済ませてしまうことが多いですからね」
「えっと……たぶん、武系貴族の人だと……女々しいとかいいそうな気がします」
「女々しい? フッ、身嗜みはダンディズムの第一歩だ……それを理解せん奴は男らしさを勘違いしているだけだ、そんな言葉など気にする必要はない」
「……お前はそういう部分だけ、妙に社交界向けの発想になるな」
「ですねぇ」
「えっと……あはは」
「社交界のことなど興味がないからいいとして……サンズはさっき『清潔の魔法』といっていたが、『浄化の魔法』じゃないのか?」
「おいおい、今さらそこに疑問を持つのか?」
「ロイター様……おそらくアレスさんは、ファティマさんやパルフェナさんを基準としているため、このような発言になるのだと思います」
「ああ、そういえばそうか……」
「ん? 女性はみんな、浄化の魔法を使うんじゃないのか? 確かファティマがそんなようなことをいっていたぞ?」
「アレス……ファティマさんは特別だ……あらゆる面においてな」
「貴族家の令嬢でも、清潔の魔法で充分だと思っている方が多いでしょう……本来、浄化の魔法を使うのはアンデッド等を相手にした場合が一般的ですからね」
「えっと……魔法が得意じゃない子だと……外出先では香水とかで対応していた気がします……僕がいえたことじゃないですけど……」
ロイターのファティマ推し発言は適当に流すとして、どうやら俺はファティマのせいで無自覚系ムーブをかましてしまったようだな……やれやれだよ。
「なるほど……体をキレイにするだけなら、浄化の魔法は過剰となるわけか……まあ、そういわれれば、そんな気もしてくるな」
「そういうことだ……よって、不用意に女性に対して『浄化の魔法を使わないのか?』などといわぬよう、心しておけ」
「そもそもとして、ソイルさんの話にもあったように、清潔の魔法の時点で結構な難易度がありますからね……だからこそ『結婚するなら、清潔の魔法を使える女性を選べ』なんて言葉もあるわけですし」
「……僕なんかじゃ、そんなえり好みはできないよなぁ……あいたッ!」
「多少マシになったかと思えば、スグこれだ……」
「えっと……スミマセン……」
「まったく……ロイターとサンズも、ソイルが『僕なんか』みたいなネガティブなことをいいだしたらケツを蹴飛ばしてやってくれ」
「ふむ、仕方ないな」
「はい、仕方ないですね」
「えッ!? いや、ちょっと待って! 待ってくださいよぉ! そのニヤリとした顔をやめてくださいぃ~!!」
「フン、お前がくだらんことをいわねばいいだけだ」
「そんなぁ、僕のお尻が大変なことになっちゃいますよぉ~!」
「安心しろ、そのときは私が回復魔法で治してやる」
「ソイルさん、これまたチャンスですよ! 今ならいくらでも回復魔法の練習ができます! さあ、頑張りましょう!!」
「えぇ……さっきと同じ言い回しだぁ……」
「ほう、その返し……ソイルにはツッコミ能力検定4級ぐらいなら与えてやってもいいかもな」
「4級……あんまりうれしくないです……」
「ははっ、確かにあんまりうれしくないな!」
「ふふっ、ですねぇ」
こんな感じで、4人でアレコレとおしゃべりをしながら食堂へやってきた。
そのとき、俺たちの笑い声を聞いて、食堂の入口付近にいた小僧どもがこちらに意識を向けてくる。
「……ソイルの奴、いつも悲壮感を漂わせた顔をしてたのに……あのパーティーに入って、えらくゴキゲンみたいだな」
「そうみたいっすね」
「だが、これでよかったのであろうよ……あのままヴィーンのパーティーに残っていても辛いだけだったはずだ」
「ねぇねぇ! 僕ちゃんもパーティーを追い出されちゃったら、あのパーティーに拾ってもらえちゃうかな!?」
「……無理だろうなぁ」
「さすがに、いらないっていわれそうっすね」
「あれでソイルは真面目ではあったからな……お前とは違うであろうよ」
「みんな……しどい……」
ほほう、客観的には多少なりともソイルが明るくなったように見えるようだ。
まあ、まだまだ表面的な部分でしかないが、これから徐々にポジティブボーイに変身していくからな、期待して待っててくれよな!
ちなみにだが、僕ちゃんとかいう奴も、しごいて欲しいのなら来るがいい……その勇気があればだがな!
そんな想いを込めて、見つめてみたところ……
「ヒッ! ヒィィィ! あの人が僕ちゃんを睨んじゃってるよぉ!!」
「あ~あ、俺は知らねぇぞ」
「物は試しに、『パーティーに入れてください』って頼んでみたらどうっすか?」
「そうだな、意外と入れてくれるかもしれんぞ?」
「む、むりぃぃぃ!」
うん、そうだろうなぁって思った。
「おい、アレス! 遊んでないでさっさと食事を済ませるぞ! ファティマさんを待たせるわけにはいかんのだからな!!」
おっと、ロイターに急かされてしまった。
また、ロイターに同調するかのように、腹内アレス君からも急げという指示がきた。
はいはい、今行きますからね~
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