第244話 やってやれだ!

 昼食時、ヴィーンのパーティーと軽く揉めたせいもあってか、一段と周囲から好奇の目を向けられている。

 まあ、そういう視線は俺の日常だからあんまり関係ないんだけどね。

 ただ、ソイルは気にしないわけにもいかないようで、居心地が悪そうである。

 う~ん、慣れるしかないのかな?

 というか、俺がこっちの世界に転生してきたときは好奇の目どころか、もっとあからさまにけなされてたと思う。

 それに対し、前世の俺なら気にしただろうに……そこまで気にはならなかったんだよな。

 あれは慣れどうこうの問題じゃなかったと思うが……あの辺は原作アレス君成分によるものなのだろうか?

 ああ、でも、原作アレス君が持つ膨大な魔力量というスペックを考えたら、周りが木端に見えたっていうのもあるか。


「アレスさん……僕のせいで不快な思いをさせてしまって、申し訳ありません」

「……ん? ああ、いや、学園に入学したての頃は、もっと小動物たちの鳴き声が激しかったような気がするなと思っていただけだ」


 思考を遊ばせていただけなのだが、ソイルは俺が不快感を持ったと思ってしまったようだ。


「確かに、最近はある程度マシになったようだが、あの頃はもっといわれていたな……」

「ロイター様も、『ファティマさんへの態度がけしからん!』といって、アレスさんに突っかかっていきましたものね……そして決闘にまで発展して……あのときも随分ないわれようでしたねぇ」

「そんなこともあったなぁ」

「あのときの私は、お前とこうして仲を深めるとは思ってもみなかったな……」

「だろうなぁ」

「仲……」


 ロイターの発言からソイルは、ヴィーンたちと仲がよかった頃に思いを馳せているようだ。


「そんなわけだから、ソイルが気にするようなことはないぞ」

「はい……」


 う~む、ソイルのこういった何事に対しても「自分が悪い」思考……これもあんまりよくないよな……

 まあ、それだけ大切な人が自分のせいで傷ついたという経験は重いものというべきか……

 だが、どうでもいいことでまで自分を責めてしまうのは辛いものがあるだろう……この辺も改善させてやれたらと思うが……


「アレス、お前もあまり1人で抱え込むなよ?」

「……ああ、そうだったな」


 そうだ……みんなでソイルがポジティブボーイになれるよう導いてやればいいのだったな。

 ……思わず「導いてやれば」とか使ってしまったが……あのうさんくさい導き手とは違う……はずだ……と思いたい。

 なんてことを思いつつ夕食を終え、模擬戦をするために運動場へ向かった。

 そうして運動場でファティマとパルフェナが合流し、メンバーがそろった。


「今日は3対3で模擬戦をやりましょう……さすがに5人がかりで女子1人を袋叩きにするのは周囲の印象が悪いでしょうからね」


 そういって集まってきたギャラリーに視線を一巡させるファティマ。

 うん、順調に今日も人が増えているね。

 なんというか、「お前ら、自分の練習はいいのか?」と問いたいところではあるが……

 まあ、「見て学んでいるのだ」といわれたらそれまでか。

 だが、小僧どもの多くはファティマやパルフェナに視線が集中しているし、小娘はロイターに夢中だ。

 いや、サンズの名誉のためにいっておくと、いくらかはサンズに熱い視線を送っている小娘もちゃんといる……そこは見くびらないであげてほしいところだ。

 あとは……ソイルに対してバカにしたような視線を送っている小僧も多少いるな……そんな視線を送っていられるのも今のうちだ! あとになってソイルの凄さを知っても「もう遅い」だからな!!

 フッ、いい感じで異世界あるあるが構築されつつあるな、楽しみになってきたぞ。


「……アレス、周囲の観察はそろそろいいかしら?」

「あっ、はい」


 おっと、いかんいかん、話に集中しなければな。


「それから、模擬戦中にソイルは阻害魔法に取り組んでみるのはどうかしら?」

「えッ!? そ、阻害魔法……ですか?」

「そう、今まで自分から能動的に阻害魔法を使ったことなんてなかったでしょう?」

「……はい、そうですね……というか、アレスさんにいわれるまで、そんなことになってたなんて気付きませんでしたし……」

「意識せずとも他者の魔法の発動を阻害できる、それだけの才能があるのだから伸ばさないのはもったいないわ……そうは思わない?」

「えっと……そう……かもしれません」

「なるほど、さすがはファティマさんだ、私もソイルが阻害魔法に取り組むのに賛成する」

「そうですね、自分から意識的に阻害魔法を使ってみることで、今まで無意識に放出していた魔法の発動を阻害する魔力について理解する助けとなるかもしれません」

「うん、自分で調節できるようになったら、もう何も心配いらないね!」

「……えっと」


 みんなに阻害魔法に取り組むことを勧められたソイル。

 そこで、ふいに俺に意見を求めるかのような視線を送ってきた。

 もしかしたら、満足に魔法も使えない今の段階では、まだ早いと思っているのかもしれない。

 だが、今なら失敗はいくらしてもいいのだ、だから俺はお前の背中を押すことにしよう。


「ソイルよ、何も恐れることなどない……やってやれだ!」

「……はい! やってみます!!」

「よし! よくいった!!」


 これが「阻害魔法のソイル」という伝説の始まりとなるのだった……って感じになったらカッコいいよなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る