第245話 ひっそりと

 今回の模擬戦は、ソイル・サンズ・パルフェナの3人と、俺・ロイター・ファティマの3人というチーム分けになった。

 これは、ソイルが阻害魔法を使う関係上、どちらかというと物理戦闘のほうが得意なサンズとパルフェナをソイルと組ませ、それに対して、どちらかというと魔法戦闘のほうが得意な俺たち3人が挑むという形にするためである。

 そのため、魔法に関しても今回は、回復系統に加えてストーンバレットの使用も可能とした。

 というのも、ソイルが阻害魔法を意識して使うのは今回が初めてになるわけなので、目に見える魔法で日頃から使い慣れているストーンバレットのほうが何かとイメージをしやすいだろうという配慮からである。

 ちなみに、今回も特に勝敗は決めず、時間いっぱいまでとにかく模擬戦を継続する……まあ、途中で仕切り直すことはあるかもしれないけどさ。

 というわけで、そんな感じで模擬戦をするわけだ。


「……準備はいいわね? それじゃあ、始めます」


 こうしてファティマの開始宣言とともに、模擬戦が始まる。

 そこでまずは、サンズたちの様子をうかがってみる。

 すると、サンズとパルフェナが前衛でソイルが後衛といった陣形を組んだようだ。

 ……というか、見方によってはソイルを護衛しているともいえそうな感じだね。

 それに対し、俺たち3人は特にこれといった陣形を組んでおらず、適度に散らばっているだけ。

 そして各自、ストーンバレットを撃ち始める。

 別に話し合って決めたわけでもないが、どうやら俺たち3人の考えることは同じだったみたいで、ひたすらストーンバレットを撃ち込みまくり、ソイルの阻害魔法を鍛えさせようとしている。

 また、まだ始まったばかりということもあって、ストーンバレットを視認しやすい大きめサイズでゆっくりめに射出している。

 これをソイルが上手く消せるようになったら、徐々にサイズを小さく速度を上げていくつもりだ。


「まずはキッズコースからといこうか!」


 ……ああ、ロイターとの決闘が懐かしいなぁ。

 あのときも、こんな感じでスタートしたような気がするよ。


「えっと……」

「ソイルさん、落ち着いて一つ一つ確実にいきましょう」

「そうだよ! 消しきれなかったストーンバレットは私とサンズ君で対応するから、ソイル君は安心して阻害魔法に集中してね!!」

「は、はいっ!」


 殺到するストーンバレットをサンズとパルフェナが大剣と薙刀を振るって打ち落としていく。

 なんというか、2人ともあんなデカい武器でよくもまあ、あそこまで小回りを利かせられるものだと感心するばかりである。

 俺が同じ立場ならおそらく、ミキジ君とミキゾウ君のトレントのマラカスを装備することを想定して、手数の増やせるナイフかなんかで模擬戦に臨んでいただろうなって思う。

 とかなんとか思っているうちに、ゆっくりではあるが一つ、二つとストーンバレットが打ち消されていく。

 ほほう、ソイルめ……阻害魔法を成功させ始めたな、やるじゃないか!


「見ろよソイルの奴、なんにもしてねぇのに、冷や汗ダラダラだぜ?」

「うわ、ホントだ……ただ立ってるだけなのに、あんなマジな顔しちゃって……やってる感だけは凄いね」

「っていうかさ、サンズはどうでもいいとして、パルフェナちゃんに守られてて恥ずかしいとかないのかな?」

「ちょっとアンタ! 私のサンズきゅんが『どうでもいい』とか何いってんのよ!! 潰すわよ!?」

「ヒッ! ゴメンなさい……」

「そうよそうよ! パルフェナこそどうでもいいわ!!」

「はぁ!? パルフェナちゃんのことバカにしたら、こっちも黙ってねぇぞコラ!!」

「何よ、なんか文句でもあるわけ?」

「ああ、あるね!」

「面白いじゃない! 聞いてあげるからいってみなさいよ!!」

「おう、いわせてもらおうじゃねぇか!!」


 なんかあっちでも、サンズ推しの小娘とパルフェナ推しの小僧でヒートアップし始めたみたいだね。

 2人とも木剣を持っていることだし、そのまま模擬戦に発展したりするかもね。

 それはともかくとして……俺たちの模擬戦前の会話が聞こえていなかったにしても、ソイルの阻害魔法に気付いていないっていうのはどうなんだ?

 今もこうして、俺たちのストーンバレットがちょっとずつ消されていっているというのに……

 まあ、現段階ではそこまで効率がいいとはいえないが……それでも、初めてなのにこれだけ魔法を打ち消せたのなら、上出来だと思うんだがな。


「それにしても、今日の魔力操作狂いたち……なんか変じゃないか?」

「変? そうかなぁ……」

「う~ん……いわれてみれば、全体的に魔法がもったりしているような?」

「確かに……それになんか、何発か失敗してるのもあるし」

「あれじゃねぇの? お荷物ソイルがザコ過ぎるから、手加減してやってんだろ」

「でも、魔力操作狂いがそんな甘いかな?」

「君たち、忘れたのかい? 彼はさっき『キッズコース』といっていたじゃないか」

「あ、そっか!」

「それだ!」

「なるほど、魔法に迫力が欠けているように見えたのはそのせいか」


 あぁ、そっちのほうで解釈しちゃうのね……

 いやまあ、あからさまに「私が魔法を打ち消しました!」みたいな感じになると、それはそれで阻害魔法としてどうなんだっていうことにもなってしまうか……

 たぶん、「なんでだ! どうして俺の魔法が上手くいかねぇ!?」みたいな感じになるのが理想だろうしなぁ。

 とまあ、こんな感じで本日の模擬戦はキッズコースのまま時間が過ぎていき、終了時刻が迫ってくる。


「だから! サンズなんかより! 俺のことを見てくれ!!」

「あなたこそ! パルフェナなんかより! 私のことを見なさいよ!!」

「お、お前、それって……」

「……何よ、なんか文句でもあるわけ?」

「ないよ……俺、これからはずっとお前だけを見てる」

「……仕方ないから、私もあなただけを見ていてあげるわ」


 えぇ……なんか、木剣で模擬戦を始めていたサンズ推しの小娘とパルフェナ推しの小僧だったが……いつのまにか愛の告白タイムになっちゃってたよ……

 そして、カップル成立にたまたま居合わせた周囲の奴らから祝福の言葉が飛んでいた。

 そんな中で、集まったギャラリーの注目をほとんど奪われた形で、俺たちの模擬戦はひっそりと終わりを告げた。

 ……なんだろう、この敗北感は。

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