第246話 大事に育てていきたいものだ

「お前、どさくさに紛れて愛の告白とは、やりやがったなコノヤロウ!」

「ホント、ちゃっかりしてるよねぇ~」

「だが、やっと素直になれたといったところかな?」

「そうですねぇ、パルフェナさんに熱心な視線を向けつつ、ときおり彼女のこともそれとなく見てましたものねぇ」

「え! バレてた!?」

「「「「もちろん」」」」


 愛の告白を成功させた彼氏君に対し、先を越された男子たちの若干手荒な祝福……いやまあ、たまにビタビタ叩かれたりしてるからね。

 そしてそれは、彼女さんのほうでも……


「でもさぁ、本当にいいわけぇ? アイツってサンズと全然タイプが違うでしょぉ?」

「そうそう、かわいいサンズくんを差し置いて、あんな平凡男を選ぶなんて、信じらんない」

「いやぁ、私もそう思ってたんだけどね……でも、彼が私のことをチラチラ見てたのには気付いててさ、それで私に気があるのかなって思えば、パルフェナのことばっか見てて……それがだんだん気になっちゃってねぇ……たぶん、パルフェナに対抗心を持ったときから、この恋は始まってたたんだろうなぁ」

「あらぁ、惚気だしちゃったぁ」

「うっざ!」

「ふふん、結局のところアンタは、サンズきゅんへの想いを貫き通せなかった敗北者だったというだけの話ね!」

「……そうかもしれないわね……でも、追いかけるだけの片想いも辛いものよ? 女は愛されてこそ、今の私にはそれがハッキリと分かるわ」

「まあねぇ、適当なところで妥協するっていうのも必要なことかしらぁ」

「ふん! そんな志の低いことなど、私にはできないわ! 私はサンズきゅんへの想いを貫く! たとえそれで生涯独身になったとしても!!」

「そういえばぁ、この前もせっかくの告白を断ってたわよねぇ……結構イケてる男子だったのにぃ」

「えぇ!? それはもったいない!!」

「今はそれでいいよ……でも、きっとあなたにも愛される喜びを知る日がくる、そう祈っておくわ」

「ふん! 余計なお世話よ!!」


 ほう、あの女……片思いの美学を知る者か。

 面白い! 実に面白いぞ!!

 俺も同志として、その想いを貫き通せることを祈っておいてやろう。

 頑張れよ!!


「……アレスさん、行かないんですか? もうみなさん、談話室に移動しちゃいましたよ?」

「お、おお、そうだったな……」


 片想いの美学を知る同志を見つけて、個人的にテンションが上がっていた。

 そのため、ソイルに声をかけられるまで意識があちらに向いており、しばしボーッとしてしまっていたようだ。

 そんな感じで、遅ればせながら俺も談話室へ移動を開始した。

 また、正直なところサンズに「ファンが1人減ったな!」ってイジりたいところではある。

 だが、その場合パルフェナにも流れ弾が飛んでいきそうだからな……それはちょっとマズい気がする。

 うむ、ここは自重しておくべきだろう。

 そんなことを思いつつ、談話室に着いた。


「やっと来たか」

「ああ、すまんね」

「す、すみません」


 別にロイターも怒っているわけではないが、俺に合わせて遅くなってしまったソイルには悪いことをしたかもしれんね。

 そうして席に着く。


「さて、反省会を始めましょうか」


 ファティマの号令の下、反省会が始まる。


「まず、今日初めて阻害魔法に挑戦したソイルはどうだったかしら?」

「え、えっと……普段から魔法を失敗してしまうイメージはあったので、それを意識的に飛んでくる魔法に向けてみたら、多少は上手くいった気がします」

「そうだな、全体の1割程度は消せていたと思うから、初めてにしては上出来だったのではないか?」

「まあ、今のままだと適当な魔法をぶつけて相殺したほうが早いでしょうけれど……これから練習を重ねて上達していけば、実戦にも役立てられそうね」

「ああ、とりあえずはキッズコースの卒業が第一目標といったところかな?」

「は、はい! 頑張ります!!」


 そう返事したソイルの表情には、希望の光が宿っていた。

 その光はまだまだ小さいが、これから大きな光となるよう、大事に育てていきたいものだ。


「あとは……やはりまだ、魔法の発動を阻害する魔力も漏れていましたから、それも追々と改善していきたいところですね」

「そうだねぇ、私たちもさっきの模擬戦では、回復にちょっぴり苦労しちゃったからね」

「うぅ、すみません……」

「いえいえ、昨日よりはよくなっていましたから、そう気を落とさずに」

「そうだよ! ちゃんとよくなってるんだから、自信を持っていいんだからね!!」

「ふむ……ある程度距離が離れていたせいか、こちらまでは魔法を阻害する魔力が漂っていなかったからな、だいぶ抑えられていたほうではないか?」

「そうね……とはいえ、むしろ敵に対しては魔法の阻害ができたほうがいいのでしょうけれど……それは、自分の意思で調節できるようになってからといったところかしら」

「だな! まずはピンポイントで確実に魔法を消していく……そして、敵味方の区別を付けて阻害魔法を戦闘フィールド全体にかけられたら、最高だ!!」

「えぇ! そ、そんなことまで!? そんなこと……僕にでき、あいたッ!!」


 小石サイズの手加減したストーンバレットが3発、ソイルのデコにヒットした。

 それはもちろん、俺とロイターとサンズの3人からだ。


「自信を持て、お前にならできる」

「私もアレスに同意だ、そして何事もできるという意思がお前に力を貸してくれるだろう」

「そのとおりです、それにソイルさんには阻害魔法の才能があるのですから」

「は、はいっ!」

「……なるほど、ソイルが弱気な発言をしたらペナルティを課すことになっているのね? それなら、私も協力してあげようかしら」

「ファティマちゃんったら、もう……」

「……で、できれば遠慮したいです」

「ふふっ、それはソイル次第ね」

「ヒィッ!」

「ファティマちゃんっ! イジワルしないのっ!!」


 そういえば俺も、何度かファティマには引っ叩かれたことがあったよなぁ。

 しかも、制御が甘くなっていたとはいえ、魔纏も割られてしまったし。

 ……あれは地味にショックだったよなぁ。

 こうして本日の反省会は、ソイルについての話題がメインとなって過ぎていったのだった。

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