第234話 周りの足を引っ張るんじゃないの?
「そう、構わないわ」
「ソイル君! 一緒に模擬戦、頑張ろうね!!」
「あっ、はい……よろしくお願い……します」
顔を真っ赤にしながらソイルがパルフェナに返事をしている。
それはともかく、こうしてソイルの模擬戦参加についてファティマとパルフェナの了解を得られたわけだ。
といいつつ、この程度のことで2人がわざわざ反対をするとも思っていなかったけどさ。
「僕のほうは準備ができていますので、いつでもどうぞ!」
そういいながら、サンズが木製大剣を構えて臨戦態勢を整えている。
俺が1人のときはナイフの二刀流で対処することにしたが、サンズはいつもどおりの大剣スタイルでいくようだ。
まぁ、サンズは普通の剣を使うみたいに大剣をビュンビュン振り回すからね、あんまり関係ないのかもしれない。
そんなことを思っていると、俺たちの模擬戦を観戦するため小僧や小娘どもが各自の鍛錬を中断して集まって来た。
この観戦者たちだが、前期試験が近づいているのもあってか、日に日に人数が増えていっている。
「へぇ、今日はサンズがボコられ役なのか」
「どうやら、そのようだな」
「あらぁ、それは見ものね!」
「え~なんでさ?」
「だって、せっかくロイター様が私とのランチに応じてくれたと思ったら、あのチビがくっ付いて来てさぁ、めっちゃウザかったんだもん!」
「え? ロイターとメシ!? 俺は聞いてないぞ!!」
「うん、話してないからね」
「そ、そんな……ウソだろ……俺というものがありながら……」
「……そう気を落とすこともなかろう、ただ食事をともにしただけなのだから」
「そうかもしれないけどよ……」
「でもさ、サンズ君だって背は低いけど顔はイケてるじゃん? ということは、ロイター様をゲットできたらオマケでタイプの違うイケメンも付いてくるってことになるわけだからさ、それってむしろオイシイじゃない!?」
「う~ん……そうかなぁ? 私はロイター様だけでいいなぁ」
「アンタって微妙に欲がないのね~アタシはあの2人とご飯を食べたとき、すっごい幸せを感じたわ~」
「おい! お前もなのか!? いつだ!? なぜだ!?」
「そりゃ~イケてる男子とステキな時間を過ごすのは乙女の夢ってもんでしょ~?」
「……こんなこと……何かの悪い夢であってくれ……」
「……さっきの言葉……そっくりそのままお前に返すよ」
ロイターファンクラブの小娘って……なんというか……その……うん。
とりあえず小僧どもよ……気を強く持つんだぞ!
そんな感じで、サンズが1人なことに注目する奴もいれば、ソイルがいることに注目する奴もいるようで……
「おい、見てみろよ! ソイルの奴が紛れ込んでるぞ、どうなってるんだ?」
「あ、ホントだ……でもどうせ、ヴィーンのパーティーにいたときみたいに周りの足を引っ張るんじゃないの?」
「ははははは! だな!!」
ふむ、ソイルがヴィーンのパーティーを追放されたってことは、そこそこ知れ渡っているようだな。
「……みんなに見られてる……頑張んなきゃ……失敗できないぞ……」
「ソイルよ、そう肩肘を張るな」
「……アレスさん」
「これは模擬戦なのだから、いくら失敗してもいい……それよりもお前の全力を出し切れ! いいな?」
「……はい、頑張ります!」
好奇の目にさらされたことで、緊張感に押しつぶされそうになっていたソイル。
気休めにしかならないであろうが、一応声をかけておいた。
「それじゃあ、始めるわよ」
こうしてファティマの号令により、1対5の模擬戦が始まる。
「行くぞサンズ!」
そういって俺がサンズの注意を引き付けているあいだに、ほかの4人で囲もうとする。
「その手には乗りません!」
しかしサンズは打ち合いに応じることなく、機動力を活かして囲まれないようなポジション取りをする。
そんな追いかけっこがしばし続いたが……
「……ッ!?」
サンズの足が鈍り始めた。
どうやら、ソイルのネガティブパワーとも呼ぶべき、魔法の阻害が効いてきたようだな。
もちろん、それはこちら側も同じ条件ではある。
ただ、サンズの場合は1人で複数人を相手に立ち回っているため、それだけ体力の消耗が激しくなってしまう。
「やはりな!」
体力の回復に手間取るサンズに対し、ここぞとばかりに一気呵成に攻め立てる。
「くッ! マズい!!」
そうして、俺たちの攻撃を捌ききれなくなったサンズに何発か入れたところで、一時中断。
まぁ、やり過ぎはよくないからね。
「……はぁ……はぁ……今のは……?」
「……ソイルだな?」
「さすがロイター、正解だ」
奇襲や突発的な状況への対処という意味も込めて、あえてみんなにはソイルの特性について今まで黙っていた。
というわけで、ネタばらしをここでする。
「なるほど……体力の回復に苦労すると思ったら、そういうことでしたか……」
「まぁ、もっと余裕のあるときなら、サンズも気付けただろうけどな」
「それはそうかもしれませんが……初見で対応しきれなかったのは悔しいですね」
「ま、いい勉強になっただろ?」
「はい、それは凄く」
そもそも、サンズは魔法より物理寄りだったからな、仕方ない部分もあっただろう。
「でも、この模擬戦って一応、魔法の使用は回復のみって決めてたよね?」
「そうね……ただ、さっきのは体外に放出された魔力に偶然魔法の発動を阻害する効果が含まれていただけ、なんていうこともできるわ」
「う~ん、微妙なところだねぇ」
パルフェナとファティマの問答にあるように、正直なところ俺もグレーだったと思う。
「すまんが、コイツは漏れ出す魔力のコントロールが今のところ上手くできんようでな……」
「えっと……その……すみません……」
「まぁ、いいんじゃないか? 魔法の発動に負荷をかけた鍛錬だとでも考えれば」
「そうですね、次からはもっと上手く対処できるようにしたいと思いますし」
「私も構わないわ」
「うん、これから少しずつ上達していけばいいよ!」
こうして改めてみんなの了解を得て、ソイルの模擬戦参加が継続されることとなった。
「それじゃあ、続きといきましょう! もう先ほどのようにはやられません!!」
そんなサンズの宣言の下、1対5の模擬戦が再開された。
そして何度か仕切り直すことはあったものの、サンズも時間いっぱいまでなんとか模擬戦を1人で戦い抜いたのだった。
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