第233話 そんな確信が俺にはある

「……うぅ、お尻が痛いです」

「そうか、それが青春の痛みだ、よかったな!」

「……よくないですよぅ」

「仕方のない奴だな……回復魔法をかけてやるから、その感覚を覚えろ」

「……回復魔法の習得もですか……僕なんかにできるようになるのかな……」

「おい! その『僕なんか』というのもやめろ!!」

「えぇ……でも……」

「まったく、お前という奴は……よっぽど俺にケツを蹴飛ばされるのが趣味と見えるな」

「はいっ! 金輪際『僕なんか』といいません! いいませんとも!!」

「……うむ、それでいい」


 魔法練習場から食堂への移動中に繰り広げられた、ハートウォーミングな語らいであった。

 しかしながらコイツは、どうしようもないぐらい自分に自信を持てない奴のようだな。

 まぁ、失敗を恐れる気持ちは誰にもあることだろうし、自信を持つのが難しいというのも理解できるところではある。

 というか、前世の俺だってそんなに自信に満ち溢れていたわけでもないしな。

 もっといえば、アレス君の体に備わっているチートじみた保有魔力量があったからこそ、今こうしてイキリ虫でいられるわけだし。

 ただ、そう思うからこそ、コイツの保有魔力量なら結構なイキリ虫になれる気がするのだ。

 上手いこと魔力を使いこなせれば化ける、そんな確信が俺にはある。

 というわけで、コイツの後ろ向きな性格をどうにかできればいいんだけどなぁ。

 なんてことを思いつつ食堂に到着し、適当な席に座る。


「……あれって、ヴィーンとこを追い出されたソイルって奴だよな?」

「確か、そうだったはずです……その彼が、なんであの方と一緒にいるのでしょう?」

「もしかして……ヴィーンに捨てられた分際で、魔力操作狂いに拾われたってことぉ?」

「……それってつまり、アイツがファティマちゃんとパルフェナちゃんと同じパーティーになるってことだろ!? そんなん信じられねぇよ!!」

「それは正直、うらやましいと思ってしまいますね」

「ってか、ちょいムカついちゃうよねぇ」


 早速といえばいいのか……周囲の小僧どもがざわめきだす。

 それは当然のごとく、軟弱ソイルのメンタルを削ってしまう。


「や、やっぱり、アレスさん……僕なんかに構わないほうが……」

「また『僕なんか』といったな?」

「ひぃっ!? そ、その! ぼ、僕は何回かご飯をおかわりしますっていっただけです!!」

「……なんだ、俺の聞き間違いだったか……まぁ、次は問答無用でいくから気を付けろよ?」

「は、はひぃっ!!」


 う~ん、前途多難……かもしれんね。

 とかなんとかやってるうちに、ロイターとサンズが来た。


「……この学園で、アレスが私たち意外と食事をともにするなど、珍しいこともあるものだな」

「確か、ソイルさんでしたね?」

「は、はいっ! ソイル・マグナグリンドと申します! よろしくお願いします!!」

「知っているだろうが、ロイター・エンハンザルトだ」

「僕はサンズ・デラッドレンスです、よろしくお願いしますね」


 軟弱ソイルの家名を今初めて知った。

 ついでにいうと、ロイターとサンズの家名も、どっかで聞いたことがあったかもしれないが、今まで忘れていた……というか、あんまり気にしてなかった。

 いやまぁ、正直どうでもよかったからさ……

 でもま、とりあえず自己紹介も済んだみたいだし、適当に雰囲気を合わせておこう。

 それにしても、ロイターにも魔法練習場の受付のお姉さんと同じことをいわれてしまったな。

 まぁ、それだけ「アレスとは孤高の男である」という共通認識がみんなのなかにあるということなのだろう、よきかなよきかな。


「それで、ソイルはこのあとの模擬戦にも参加するのか?」

「そうだなぁ、魔力操作や的当てだけじゃなく実戦形式の練習もしとくべきだろうし……ソイルの場合は、敵の魔法を封じて物理戦闘に持ち込むのもありだろうしなぁ……うん、やっとくべきだな!」

「……えっと……模擬戦というのはもしかして……夕食後にみなさんがいつもなさっている、アレのことでしょうか……?」

「そうだが?」

「ですね」

「まったく、お前という奴は……分かり切ったことを聞くやつだな」

「ひ、ひぇぇぇ! そんなん、無理ですよぉ! 死んじゃいますぅ!!」

「致命傷にならないようキッチリ手加減をしているからな、そこは安心していい」

「そうですね……加えていうなら、怪我なんかをしてもパーティーメンバー全員が回復魔法を使えますし、ポーションも用意してありますからね、なんの心配もありません」

「というわけだ、ソイルよ、よかったな!」

「……よくないですよぉ」

「だがアレス、ソイルは初めてになるわけだから、今日ぐらいは見学でもいいのではないか?」

「ロイター様、僕はソイルさんも含めた1対5でも構いませんよ?」

「ほう、いったな? ロイターよ、今日は徹底的にサンズをしごいてやらねばならんようだ!」

「ああ、そのようだな!」

「え? えっと……僕は……」

「ソイル、お前はまだ、魔法に苦手意識があるかもしれんが、物理戦闘ならどうだ?」

「……たぶん、魔法よりは大丈夫な気がします」

「よし、ならば決まった! お前も参加だ! ともにサンズをボコボコにするぞ!!」

「えぇ……ボコボコっていっちゃってるよぉ」

「いえいえ、僕もそう簡単にやられるつもりはありません!」

「サンズさんの自信……どこからくるんだろう……」


 こうして、軟弱ソイルも加わって模擬戦をすることになったのであった。

 まぁ、もしかしたらソイルから無意識による魔法の阻害を受けて、回復系の魔法のかかりが悪くなるかもしれんが、それもまた修行のうちだな!

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