第232話 今くだらんことを考えてただろう?

「そ、そんな……本当ですか? なんというか……信じられないのですが……」

「ああ、間違いないだろう」


 軟弱ソイルに、俺の見解を説明してやった。

 だが、半信半疑といった反応。

 まぁ、無意識のこととなれば、そんなもんかもしれない。

 それに、魔法を発動させる際、余計な雑念が生じてしまうことは、誰にもあることだろう。

 そのため、俺の話にあまり納得がいかないのも仕方ないことかもしれない。

 だがコイツは、俺ほどじゃないにしてもその辺の貴族子女と比べれば保有魔力量が多いからな……それが悪いほうに影響してしまっているのだろう。

 まぁ、原作アレス君もそうだったわけだし、ほかの保有魔力量の多い連中も大なり小なり魔力の扱いには苦労していたみたいだしな。

 あとは、コイツが魔法の阻害といったデバフ系に才能があるって可能性も考えられる。

 とはいえ、それで自分や仲間の魔法まで阻害していては意味もないが……

 とりあえず、才能うんぬんに関してはいったん置いておくとして、まずはキッチリと魔法を発動できるようにしなければならんだろう。

 そのためには……やはり魔力操作からだな。


「なんにせよ、まともに魔法が使えないんじゃ話にならんからな、基礎を固める意味も込めて、魔力操作からやり直すぞ!」

「……やっぱり……魔力操作狂いだもんなぁ……」

「何かいったか? ご希望とあらば、いつでもぶん殴ってやるぞ?」

「な、なんでもありません!」

「なら、ゴチャゴチャいってないでさっさと魔力操作を始めろ!」

「ひ、ひゃい!」


 そんなこんなで、戦闘態勢のまま魔力操作をやらせる。

 まったく……コイツを相手にしていると、なぜかスパルタでいきたくなってしまう。

 リッド君を筆頭に、いろんな人に魔法を教えてきたが……こんなことは初めてな気がするよ。

 そして少しすると、やはりというべきか、軟弱ソイルから陰気な魔力が漏れ出し始める。


「お前、早速くだらんことを考え始めているな?」

「え? いや、それは……」

「さっきもいったが、お前は失敗等のネガティブなイメージが魔力に乗りやすいんだ、余計なことは考えるな!」

「そ、そんなぁ……自然と思い浮かぶんですから、仕方ないじゃないですかぁ~!」

「ふむ……」


 まぁ、自然と思い浮かんでしまうといわれると、そうなのかもしれないが……

 でも、俺がこの世界に来てから魔力操作に取り組み始めたときって、そこまでイメージに苦戦したっけか?

 どっちかっていうと、途中で寝ちゃうほうに苦労していたような気がするけど……

 いや、そうじゃなくて、この場合はどうするべきか……前世の漫画内師匠たちの教えに何か参考になりそうなものがあったかな?

 う~ん、あ、そういえば、瞑想をするときは花をイメージすることで雑念を減らせるっていってた気がするぞ……よし、それでいこう!


「ならば、花をイメージしろ! 呼吸に合わせて、息を吐くときに花が開き、息を吸うときに花が閉じる、ひたすらこれをイメージして魔力操作をしてみるんだ!!」

「……花……ですか?」

「そうだ、なんで花なのかとか、花の種類は何にすべきかとか、そんなくだらんことは聞くなよ? それじゃあ、やってみろ!」

「……はい、分かりました」


 若干しぶしぶといった感じではあったが、おとなしく花をイメージした魔力操作に取り組み始めたようだ。

 こうして様子を見ていると、最初よりはマシになったが……やはりまだ、ネガティブなイメージが湧いてくるようで、しばらくすると陰気な魔力が放出され始める。

 なんというかコイツ、メチャクチャ分かりやすいな。

 ……おっと、そんなことをいっている場合ではなかった。

 しかし、この分かりやすさは使える。

 前世で、座禅修行中に集中力が切れたり寝たりした人を棒で叩くみたいな場面をテレビかなんかで見た記憶があるけど、あれをマネしてみよう。

 ただし、俺はあんなふうに厳かで慈悲深くはない。

 そんなわけで、俺流でいかせてもらおう。


「お前が陰気な魔力を放ち始めた瞬間、ケツを蹴飛ばしてやるからな! ありがたく思うがいい!!」

「えぇっ!? そんなぁ~!!」

「しっかりと花にイメージを集中していれば大丈夫だ!」

「……横暴だぁ」

「ほう、早速ひと蹴りいこうか?」

「い、いいえ! 結構ですぅ~!!」

「ふむ、結構とな? ソイルはなかなかの欲しがりさんだなぁ」

「ち、違います! そっちの結構ではありません! 拒否の意味の結構ですよぅ~!!」

「なんだ、つまらん……まぁ、それはいいから、魔力操作に集中しろ!」

「……うぅ」


 改めて思うが、コイツに対しては妙にSっ気が湧き出てくるな。

 そう考えれば、コイツの元パーティーメンバーの態度にもなんとなく理解ができそうな気がしてくるよ。

 いやまぁ、アイツらの場合は実際に魔法の発動を阻害されていたのだから、もっと深刻だったかもしれんがな。

 とかいってるそばから……


「いッ! たぁ~!!」

「ほれ、今くだらんことを考えてただろう?」

「……は、はいぃ」


 このようにして夕食までの時間を、軟弱ソイルの魔力操作の監視に費やしたのだった。

 当然というべきか、そのあいだ軟弱ソイルは俺に何発もケツを蹴り飛ばされていたわけだが……それはまぁ、仕方ないよね。

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