第866話 俺がこれから課す試験を受けてみる気はないかい?

「タム、わがままを言うのはそれぐらいにしておきなさい」

「う、うぅっ……」

「タム……」


 ソニア夫人にたしなめられ、弟君の勢いは鎮まっていく。

 そして、その代わりというべきか、目に涙が溜まり始めている。

 そんな弟君に対し、ワイズはいたたまれない表情を浮かべている。

 といったところで、そろそろ俺の出番とさせていただくとしようかね。

 しかしながら、それは他家の教育に口出しすることになってしまうのかもしれない。

 そこはまあ、世間の評判にあるとおりアレス・ソエラルタウトという男は傍若無人な奴だから……ということで、ひとつよろしく。


「えぇと、タム君といったか……確かに家族の中で自分だけ屋敷でお留守番というのも歯痒いものがあるだろう……そこで、それほどまでに強い意気込みがあるというのならどうだろう、俺がこれから課す試験を受けてみる気はないかい? その試験を見事突破することができたら、今回の作戦行動に参加できるよう、俺が君に加勢しようじゃないか」

「えっ……!! ほ、本当!?」

「ア……アレス殿? タムに加勢するだなんて、急に何をおっしゃられるのですか……」

「まあまあ、ワイズ……俺も多少はタムの気持ちが分からんでもないしさ、ここはアレスコーチに任せてみようぜ? きっと、何かいい考えがあるんだと思うしな! そうでしょ、アレスコーチ!?」

「ああ、一応な」

「う、うぅむ……ケインの言うとおり、ここはアレス殿にお任せしたほうがいいか……」

「ソニア夫人、勝手な口出しをしてしまい申し訳ありませんでしたが、私がタム君に試験を課すことをお許しいただけますでしょうか?」

「……ふぅ~っ……分かったわ、試験を許可します」

「やったぁっ!!」

「その代わり、タム……アレス殿の試験を突破できなければ潔く諦めるのよ、いいわね?」

「うん、分かってるよ! それより、約束を忘れないでよ! 絶対に僕も行くんだからね!!」

「おやおや、もう俺の試験を突破できたつもりになっているのかい? それはちょっと気が早いというものだよ……でもまあ、安心するといい、君が本当に試験を突破できたら、必ず連れて行ってあげよう」

「うん! 絶対に僕も行くんだっ!!」

「まあ、アレスコーチが課す試験だからなぁ……まっ! タムも舐めてかからないほうがいいぞってことだけは忠告しといてやるよ!!」

「ああ、きっと甘くないはずだ……心してかかるといい」

「そうやって脅したって無駄だよ! 僕は絶対に突破するんだからね!!」


 フッ、無邪気なものだな……

 だが、それもいつまでもつか……見せてもらうじゃないか。


「さて、あまり時間もないことだし、さっそく試験を始めるとしようか……」

「よぉ~し! やってやるっ!!」

「それで、見たところ君の保有魔力量は子爵家として申し分ないレベルにはあるようだが……きちんと魔力操作の練習はできているかな?」

「うん、もちろんだよ! なんたって、毎日1時間以上やってるんだからね!!」

「ほう、1時間以上……」


 俺の反応を称賛の意味での感嘆と受け取ったのだろう、タム君の「どんなもんだい!!」って自信満々の顔が眩しい……

 でもまあ、学園内で聞こえてきた会話の中で、毎日30分程度の魔力操作でドヤ顔をしていた奴もいたぐらいだからねぇ……タム君はまだ入学前だってことも加味すれば、じゅうぶん頑張っているほうだと思う。

 ただ、ロイターやファティマなどの世代トップ層なら、もっともっとやってただろうからなぁ……

 それに、ソレバ村のリッド君たちなんて今頃、わざわざ時間で区切る必要がないレベルで魔力と戯れまくってるだろうし……

 とまあ、そんな感じで言葉を交わしつつ、俺はベイフドゥム商会で購入した調味料をマジックバッグから取り出し、テーブルを挟んで向こう側に座るタム君の目の前に置いた。


「それは……」

「ベイフドゥム商会が扱っている調味料……だよな?」

「なるほど、そういうことね……」

「えっと……?」

「昨日ワイズとケインにも似たようなことをやってもらったが、この中に含まれている吸命の首飾りの粉末を選り分けてもらおうと思う……それが今回タム君に課す試験というわけだ」

「選り分ける……」


 指揮する側として、何が原因でベイフドゥム商会の連中を逮捕することになるのか分かっていなかったら、現場にいる意味がないだろうからね。


「まあ、『はい、どーぞ』っていうのもなんだから、手本を見せるとしようか……ついでだから、ワイズとケインも見せてやるといい」

「ええ、承知しました」

「オッケーっす!」


 そして俺たちは、それぞれタム君に手本を見せてやった。


「とまあ、こんな感じだ……簡単だろう?」

「いえ、決して簡単ではありませんが……」

「ああ、むしろ難易度がかなり高いと思うんだが……」

「……タム、お手本を見せてもらったことでじゅうぶん要領はつかめたわね? それじゃあ、やって見せてちょうだい。見事やり遂げることができたら、約束どおりあなたの同行も許可してあげるわ」

「う、うん……! やってやる! 大丈夫、僕ならできるっ!!」


 さて、タム君のお手並み拝見といったところかね……

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