第865話 あなたも現場の指揮をしてみる気はないかしら?

 ケインが発した「ワイズの功績」という言葉を耳にして、弟君が絶句した。

 まあ、今回のことがワイズの功績として認められれば、メイルダント家の後継者レースで大きくリードすることになるだろうからね。

 そのため、後継者を争うライバルである弟君としては、心穏やかではいられないだろう。

 とはいったものの、今はまだ弟君の知らないことだろうとは思うが、ワイズはワイズでミカルっていう貴族ではない娘に想いを寄せている状況だからね……

 やはり婚姻相手の家柄というのも貴族としては重要な要素となるので、ワイズが本気でミカルを婚姻相手に選べば、後継者の地位が盤石ではなくなるのだ。

 それを踏まえると、まだまだ弟君が逆転するチャンスもあるわけだから、腐らず頑張るといいと思う。

 だからほら、そのあどけない顔に似合わない渋い表情はやめるんだ。


「他領でも同じようなことが起きていないとも限らないし……このことは急いで陛下にご報告する必要があるわね……」

「なるほど、ベイフドゥム商会単独の犯行ではない可能性があるというわけですね……」

「でもよ、俺らが学園都市からメイルダント領に来るまでのあいだに立ち寄った領にある街で食べた料理には、なんの問題もなかっただろ? こんな問題があっちこっちで起こってたら、最悪だぜ……」

「……私が街で耳にした話によると、どうやらベイフドゥム商会には格安で調味料を仕入れるルートが存在していたようですから、そのルートこそが一番の問題かと思われます」


 まあ、そのルートっていうのは……マヌケ族で確定だと思うけどさ!

 ソニア夫人も同じ答えに至っているのか、沈痛な面持ちがさらに深くなってしまっている。


「ふぅ……さて、全体の指揮は私が担うつもりだけれど……ワイズ、小隊を1つか2つほど預けるから、あなたも現場の指揮をしてみる気はないかしら?」

「私が現場の指揮を……よろしいのですか?」

「ええ、何事も経験だもの……とはいえ、もちろん万全を期すためにベテランの騎士や魔法士をサポート役に付けさせてもらうわ。それでも、基本的にはあなたの思うとおりに指揮をとってみるといいわね」

「まっ! 俺やアレスコーチもバッチリ協力すっから、心配すんなって! ねっ、アレスコーチ!?」

「ああ、ワイズが担当する区域に存在するベイフドゥム商会の人間は、1人たりとも逃がしはしないさ」


 まあ、そこにマヌケ族もチョロついていたら、ついでに始末……してしまうとマズいから、拘束してやろう。

 そういえば、この前のソリブク村で捕まえようとしたマヌケ族……あの男の自滅魔法の解除には失敗してしまったからな……

 うん、あの日のリベンジだ!

 だから今回の企てに関わっているマヌケ族よ……遠慮せず、俺の前に出てくるといいぞ!!


「ケイン、アレス殿……私のために、かたじけない……」

「ハハッ! 親友に協力するのは当然のことだろ?」

「うむ、そのとおりだな」

「ふふっ、ワイズはステキなお友達に恵まれたわね」

「ええ、母上のおっしゃるとおり、私は友に恵まれました」

「まっ! いつか俺に困ったことが起こったときは、よろしくな!!」

「フッ……そういうことだ」

「もちろんです! そのときは私が力になりますとも!!」

「……我が子が……あのリリアン様のご子息と固い友情で結ばれている……嗚呼、こんなに嬉しいことはないわ……」


 ソニア夫人が今日一番と言っても過言ではないほど、嬉しそうな笑みを浮かべている。

 そんな笑顔を目にすることができて、私も感無量でございます。

 そうしてソニア夫人と俺たち3人が盛り上がっていたところ……


「母上! 僕にも……僕にも小隊を預けてください! 必ずや立派に指揮して見せます!!」

「……タム、その意気込みは素晴らしいものだと思うけれど、あなたにはまだ早いわ」

「そんなことありません! 僕だってもう10歳になりました! 兄上だって、今の僕ぐらいの頃には父上について領内視察に出ていたではありませんか!? ですから、僕にだってできるはずです!!」

「通常の視察であれば同行を許可したでしょうけれど……今回は全くの別物、しかも指揮までしたいだなんて、許すわけにはいかないわ」

「どうして……どうして! 兄上だって、まだ学園を卒業していないじゃないか!? 僕には早いって言うなら、兄上にだって早いはずだよ!! いつも……いつもそうだ! 兄上ばっかり! 僕には何もさせてもらえない!!」


 弟君の魂の叫び……といったところかな?

 まあねぇ、そりゃワイズのほうが先に生まれているぶん、何かと先を行くのは仕方ないんじゃないかと思うんだよねぇ……

 といいつつ、俺も前世で……特に小さい頃は兄に張り合おうとしていたような気もするからねぇ……

 ついでにいうと、弟も俺に対抗意識を燃やしてきたような気もするし? まあ、ムカついたらゲンコツの一発でも喰らわせて黙らせてたけどさ。

 もちろん、そのあと両親に言いつけられて、俺もゲンコツを頂戴したけどね……くぅ~っ、なんだかあのときの痛みが蘇ってきた気がするぜ……

 とまあ、俺の思い出はおいておくとして……ここはひとつ、アレスさんが動くとしますかね?

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