第864話 ひとまず、これをご覧ください
「そこのソファーにかけてちょうだい」
「承知しました」
「はい」
「失礼します」
執務室にやって来て、ソニア夫人と対面する形でワイズとケイン、そして俺はソファーに並んで座る。
ちなみに、ソニア夫人の思い出語りが一段落したタイミングを見計らって部屋に戻ろうかという様子を見せていたワイズの弟君だったが、彼なりにただならぬ雰囲気を察したようで、そのままついてきてソニア夫人の隣に座っている。
まあ、学園入学前の子供とはいえ、弟君もメイルダント家の一員なわけだし、話に参加してもおかしくはあるまい。
といいつつ、俺たち3人だってまだ成人を迎えていないのだから、身分としては子供に属するのだろうけどね。
そうして全員が話を始める態勢が整ったところで……
「……それで、報告したいことというのは何かしら?」
ソニア夫人がキリリとした表情で言葉を発した。
「はい……ひとまず、これをご覧ください」
そう言ってワイズが、吸命の首飾りの粉末を集めた小瓶をマジックバッグから取り出し、ソニア夫人へ渡す。
「この小瓶がどう……ッ!! ワイズ! これをどこで手に入れたの!?」
さすがソニア夫人というべきか、小瓶の中のモノが何かすぐに理解できたようだ。
「……メイルダント領内の比較的大きな街なら、どこでも手に入れることができるでしょう」
「ど、どこでも……ですって!?」
「……?」
ソニア夫人の焦った様子に対し、ワイドが努めて落ち着いた態度を維持しているのを交互に見比べ、弟君は「いったい何が起こったのだろう……?」といった疑問符が顔に浮かべている。
「では、順を追って説明したいと思います……」
「ええ、そうしてちょうだい……」
「……」
冷静に話を進められるよう、あえてワイズはゆっくり噛み締めるように言葉を紡ぐことにしたみたいだ。
そうしたワイズの意図を察し、ソニア夫人も内心の焦りをどうにか抑えようとしているようだ。
そんな中で弟君の視線は、ワイズとソニア夫人の顔を行ったり来たりといった感じである。
まあ、だいたい10歳になったぐらいであろう弟君には、少し早い話かもしれないもんねぇ……
「まず、我々3人が昨日の夕方頃メイルダント領に到着し、最寄りの街で一晩宿を取ることにしました……そして夕食時に宿の食堂で出された料理を口にしたとき、違和感を感じました」
「そう、違和感を……」
「……えっ……料理?」
「そう料理だ……そこでアレス殿には心当たりがあったようで、急遽その料理をテイクアウトして部屋に戻りました。そして我々の違和感の正体をアレス殿に教えていただき、原因である物質を小瓶に集め、そうして母上にお渡ししているというわけです」
軽く弟君に返事をしつつ、そのままワイズは小瓶についての説明をした。
「なるほど、料理に混入されていたと……そしてこれは、我がメイルダント領内の比較的大きな街なら、どこでも手に入れることができるということは……その宿屋だけの問題ではないと……はぁ……困ったわね……」
「そ、そんなワケ分かんない物……どう対応したらいいんだよ……」
メイルダント領内で起こっていることの重大さに、大きく肩を落としているソニア夫人……
そして弟君も、とにかくヤバい状況だということは理解したようで、狼狽を隠せずにいる。
「安心してください……とまでは言えませんが、我々3人が本日調査をおこない、それの出どころは判明しております」
「まあっ! それは本当なの!?」
「えっ、判明している? そんなバカな……」
「どうやらベイフドゥム商会が、その粉末が混ざった調味料を販売していたようです」
「ベイフドゥム商会……えぇと確か……最近勢いを増しつつある商会……だったかしら?」
「う、うぅ~ん……そういえば、そんなような名前の商会もあった……ような?」
「新興であり、そもそも当家と付き合いもない商会ゆえ、あまり耳馴染みがなかったかもしれませんが……間違いなく、ベイフドゥム商会が扱っている調味料が問題でした……念のため、ほかの商会が扱っている調味料も調べてみましたが、基本的にそれらは問題ありませんでした」
「そう……先ほどの食事からも明らかなとおり、確かに当家と付き合いのある商会から得た調味料では、そんな問題が起きていないものね……それにしても、今まで気付かなかっただなんて……不覚だったわ……」
まだ吸命の首飾りの粉末による被害が表面化していないし、実際に問題の料理を食べる機会もなかったのだから、それを気付くのは難しかったんじゃないだろうか……
「そこで早速ですが、明日からにでもメイルダント領全域で一斉摘発をおこなうべきかと……」
「ええ、急いだほうがよさそうね……ワイズ、よくやったわ……そしてアレス殿とケイン殿にも大変助けられました、メイルダント家を代表して感謝致します」
「いえ、私などは……おそらくアレス殿がいなければ、違和感を持ちつつも、そのまま流していたかもしれませんし……」
「いやいや、ワイズはそんなことしないさ……きっと1人でも、きちんと調べていたはずだよ」
「そうそう! 今回のことは、ワイズの功績ってやつっすよ!!」
「……ッ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます