閑話11 エリナはもっと磨かないといけないと思う
「うむ、皆そろっているようだね、それでは始めようか。事前に通知してあるように、今日はクラス編成会議をおこなう。生徒たちそれぞれが最も適したクラスに所属できるよう、先生方もしっかりと見極めてくれたまえ」
この学園は、各期においてクラス替えがおこなわれる。
1年生の前期は主として家の爵位を基準にクラスの振り分けをするが、後期からは生徒たち本人の成績や生活態度など様々な点を考慮してクラスを上下させることになる。
「それではまず……残念なことではあるが、担任の目から見て現在のクラスでついていけないと思われる生徒をあげてもらいたい。エリナ先生、Aクラスはどうか?」
「はい、全員問題ありません」
「うむ、皆成績優秀なようだし、大丈夫そうだな……では、Bクラス」
これは、いわゆるクラス落ちと呼ばれているものだ。
このクラス落ちであるが、生徒たちが不名誉なことだと思って避けたい気持ちはもちろん分かる。
しかしながら、上のクラスになってくると、できることを前提に授業が進められることとなる。
その場合、できないまま取り残されてしまう可能性が出てくるのだ。
それでは学園で学ぶ意味がなくなってしまうため、生徒それぞれの実力に合ったクラスに変更するのである。
ただし、たとえ成績が振るわなくても担任の判断でクラスを残留させることもある。
個別補習によって追いつくことができると考えたり、伸びしろを感じて自分で育ててみたいと思ったりすることがあるのだ。
とはいえそれは、学園長をはじめとしたほかの先生の了解を得る必要があるため、そう頻繁にあることではないとも思う。
「後期のクラスを下げる必要がある生徒についてはこれでよかろう。ここからは上げる生徒についてだ」
Aクラスは基本的に上位貴族を集めていた関係上、もともと人数がほかのクラスに比べて少ない。
そのためもあって、1年生の後期にAクラスに上がる生徒が比較的多い傾向にある。
そうはいっても、数合わせ的に簡単に上がれるというわけでもない。
Aクラスの授業についていけるであろうという教師の判断が必要となるのだ。
「前期試験の結果から考えても、ファティマ、パルフェナ、サンズ、シュウの4名はAクラスに上げてもまず問題ないでしょう」
「ふむ、エリナ先生はどう思うかね?」
「はい、じゅうぶんやっていけると思います」
「よろしい、ではその4名を上げることとしよう」
「あのぅ……うちのクラスのソイルも、実力的にはAクラスでやっていけると思うのですが……」
「おいおい、お前のところはDクラスだろ? 一気に3クラスも上げるのはどうなんだ?」
「そうよね……1年の後期で男爵家の子がAクラスに入るっていうのは、ほかの家が黙っていないかもしれないわ」
「というかむしろ、寄り親のヴィーンを飛び越えていくことこそマズいんじゃないか? しかも、少し前に揉めたばかりだろう?」
「それについてなら、ヴィーン君を一緒にAクラスに上げればいいのでは?」
「ヴィーンか……う~ん、成績的にはギリギリAクラスでもついていけそうではあるな……」
家の爵位……2年生、3年生と学年が上がるにつれだんだん混ざり合っていくのだけれど、特に1年生のうちはこれの影響が強いものとなる……実にくだらないことではあるけれど。
「Aクラスの担任としましては、2人のAクラス入りになんら問題はないと考えます」
「いや、エリナ先生はいいかもしれないけどさ……そこは、ね、分かるでしょ?」
そんな話し合いをしているところに、事務職員が会議室にやってきた。
「お話し中に失礼します……学園長、王都から使者がお越しです」
「王都からとな? 相分かった……先生方には申し訳ないが、会議はいったん休憩とし、戻り次第再開させてもらおう」
何か問題が発生したのだろうか……何事もなければいいけれど……
そうして待つことしばし……学園長が戻ってきた。
「……王国東部で大規模なモンスターの氾濫が発生したとのことだ」
「……ッ!!」
「お、王国東部って……確か、王女殿下御一行が向かわれていたのでは……?」
「学園長! 王女殿下はご無事なのですか!?」
「……王女殿下とその御一行はモンスターの氾濫に遭遇したものの、無事これを鎮圧したそうだ」
「なんと!」
「それはお見事!!」
「さすが王女殿下だ!!」
「しかし……護衛は何をしていたんだ?」
「まったくもってそのとおりね……周囲の索敵をしっかりこなしていれば、遭遇すること自体も避けられたでしょうに……」
「いや、話によると……なんの前兆もなく発生したらしい」
「えぇっ!?」
自然発生でないとするのなら……もしかして、魔族の仕業?
混乱に乗じて王女殿下や同行していた生徒を攫おうとした……というのは飛躍した考えだろうか?
「それにしても……王女殿下に多くの生徒たちが同行していたはずだし、みんな無事でよかったわ……」
「ああ、そうだな」
「その生徒たちも、王女殿下の指揮の下で皆よく奮戦したそうだが……特にラクルス君の活躍が目覚ましいものだったそうだ」
「そ、それって俺の……Fクラスのラクルス・ヴェルサレッドのこと……じゃないですよね?」
「いや、君のクラスのラクルス君のことだ」
「えぇっ!! いや、確かに剣の腕はなかなかのものではありましたけど、それにしたって……」
「確かに、実力的にそこまで極端に目立っていたわけではないからな、君の気持ちも分かる……だが、護衛の者たちですら、その凄まじい戦いぶりに思わず手を止めてしまうほどだったそうだ」
「そ、そこまでとは……」
ラクルス君といえば……アレス君がときどき意識を向けていたわね。
そして、王女殿下が最初に気を許した相手でもある。
もしかすると2人は、こうしたラクルス君の秘められた力を感じ取っていたのかもしれない……なんてことも思ってしまう。
見る目……私ももっと磨かないといけないわね。
「……さて、なかなか驚かされる情報だったが、これも踏まえてクラス編成会議に戻るとしようじゃないか」
こうして、クラス編成会議が再開されたのだった。
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