第426話 自信はあるのに苦戦するっていう状況

 スライムダンジョンからホテルに戻ってきた。

 時刻としては午後の4時といったところ。

 そこでいったんシャワーを浴びてから、タピオカドリンクをいただく。

 ちなみに、今回も抹茶ミルクだ。

 そういえば最近、風呂上がりにポーションを飲んでいない気がするなぁ。

 ソエラルタウトの屋敷ではアイスミルクコーヒーばっかりだったと思うし。

 といいつつ、ダンジョン特製のタピオカドリンクには回復効果があるから、ポーションを飲んでるのとあんまり変わらないけどね。

 そうした、とりとめのないことを考えながらくつろぎ、食堂へ移動。

 適当な席に着き、さっそく夕食をいただく。


「さっき聞いたんだが、スライムダンジョンの大繁殖がもう終わったらしいぞ?」

「えっ、まだ領軍は来てなかったよな?」

「いや、今回は冒険者の力で大繁殖を解決できたらしい」

「へぇ、あの根性ナシどもがねぇ?」

「おっと、冒険者とはいったが、この街の奴じゃないらしい」

「なぁ~んだ、やっぱりなぁ……アイツらは威勢のいいことをいっているが、いつも口ばっかり」

「それはまあ、うん……」

「そして自分たち自身の手柄でもないのに、今回はやったったって思ってるんだろうが……どうせこの次はまた、領軍のお世話になるんだろうなぁ」

「ま、まあ、その可能性は高いかもしれないな……」


 近くのテーブルからオッサンたちの会話が聞こえてくる。

 そして何やら次回の大繁殖を危惧しているようだが、おそらくもうあのダンジョンで大繁殖は起こらないだろう。

 なぜなら、俺たちソエラルタウトの人間が定期的に狩りに来るからだ。

 加えて、しばらくすればゲイントやその弟子たちも魔力操作の技術を高めて自力でダンジョンを攻略できるようになるハズ!

 さらに、俺が平静シリーズを宣伝するからな、これからはきっと大人気ダンジョンに生まれ変わるに違いない!!

 そうして君らはそのうち「あれ、そういえば最近、大繁殖が起こらなくなったな……?」ってのんきに世間話をするようになるだろうさ。

 そんな期待にハートをワクワクさせながら食事を終え、部屋に戻った。


「さて、先ほどセーツェル殿に教えてもらった平静シリーズの効果を試してみようか……」

「確か、テンションアゲアゲになる代わりに魔力操作ができなくなるんだったよね?」

「ノムルさん独自の表現になってはいますが、そんな感じでしたわね」

「とはいえ、まさか本当にシリーズ装備だったとは……」

「あまり気にしていませんでしたが、意外とあるものなのですねぇ」


 まあ、シリーズ装備は原作ゲームでもオマケのネタというか、やり込み用の隠し要素みたいなもんだったからね。

 あまり一般的でないのは仕方ないと思う。

 それに、セーツェル殿の口ぶり的にノーグデンド家の中でも変な装備ってぐらいの認識で、シリーズ装備とは考えていないかもしれない。

 いや、仮にシリーズ装備だと考えていたとしても、あまり有用な装備とはみなされていないのだろう。

 やっぱり、シリーズ装備かどうかってことよりも、役に立つかどうかってことのほうが重要だろうからね。

 それはともかくとして、さっそく装備してみようじゃないか。

 そこで、3つ目ぐらいから気分が高揚してくるらしいので、まずはインナーウェアとジャージ上下、そして靴下だけ装備してみた。

 ちなみに、インナーやジャージのような上下セットのものは、どっちかだけでもセットでも1つとカウントされるっぽい。

 また、手袋や靴下のような左右で1組のような物はもちろん、1つとしてカウントされるようだ。


「なるほどね……気分の高揚とはこういうことか……」

「いうなれば、これが第一段階といったところでしょうかねぇ」

「ふふっ……なんか、こう……私はスゴイ! って感じがしてくるよねっ!!」

「そうですわね……なんだか、自信がみなぎってくるようですわ!」

「鎮まれ……今はそのときではない」


 言葉のチョイス的にサナが一番ノッてるかもしれないね。

 そしてふと思ったが、平静シリーズをもっと早く手に入れていれば……具体的にいえば、ソイルと知り合ったときに持っていれば、もっと手軽だったかもしれん。

 でもまあ、物に頼らず、自分の力で乗り越えたっていう経験はソイルの将来にとって大きな財産になったとはいえるだろう!

 そう思えば、やはりあれでよかったのかもしれんな!!


「そして肝心の魔力操作のほうは……ふむ」

「まあ、最初はこんなものですかね?」

「え? こんなものって……私ですら、こんなに苦労してるのに!?」

「いいえ! きっと、ギドさんは痩せ我慢をしているに違いありませんわっ!!」

「この程度……私なら、大丈夫……」


 たぶん、ギドはホントに余裕なんだと思う。

 さすが魔族といったところだろう。

 そこで俺はといえば「魔力が重く感じるかな?」ってぐらい。

 それがなんとなく、転生してきた初期の頃を思い出させた。

 なんだか懐かしいねぇ。

 それから、3人娘のほうはこの時点でまあまあキツイみたいだ。

 なるほどね、3人娘の魔力操作能力が本職の騎士や魔法士並にあるだろうことを考えると、ノーグデンド家でも3つ以上はあまり装備されていなかったというのも頷ける。

 しっかし、自信はあるのに苦戦するっていう状況……こっちのほうが地味にツライものがありそうだ。

 だが、これで魔力操作を余裕でこなせるようになれば、ワンランクもツーランクも……いや、それよりもっと実力をアップさせることができるだろう。

 よっしゃ! 楽しくなってきたぞォ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る