第427話 確かに俺は心配していた
しばらく魔力操作の練習を続けたところで、風呂に入るため大浴場へ移動。
ちなみに、今回はあのまま平静シリーズを3つ装備しただけに留めた。
まあ、まだ初日だからね、徐々に慣らしていこうと思う。
といったところで、ギドとのんびりお風呂タイムを過ごす。
そして話題は、スライムダンジョンについてだ。
「今回出てきたボスについて、セーツェル殿はああいっていたが……ギドはどう考える?」
「そうですね……おそらくアレス様の魔力に反応したのではないかと」
「魔力に反応だと?」
「ええ、ダンジョンについてはまだまだ不明なことも多いですが、一説によると『神の試練』ともいわれています。そこでダンジョンが、アレス様の魔力を感じ取って、ちょっとした試練のつもりで通常よりも強いボスを出現させたのだとしてもおかしくはないでしょう」
「ほう、神の試練か……」
転生神のお姉さん……そうなのですか?
そう心の中で問いかけてみたものの、優しい微笑みが返ってくるだけ。
う~ん、あの微笑みはどうとでも取れるな……
「ですから……アレス様が心配しているようなことは、よほどのことがない限り起こらないと思います」
「……そうか」
ギドめ、また俺の心を読みよった。
だが、確かに俺は心配していた。
というのが、ダンジョンのボス部屋っていうのは、ユニオンスライムやトランスフォームスライムが撤退を許されなかったのと同じように、挑戦者側も一度入ったらボスを倒すまで出ることができなくなるからだ。
そこで今回のように、特別に強い奴が出てきたら全滅待ったなしとなってしまうだろう。
そしてアレス付きの使用人の中で、ギドを除けば3人娘が実力上位者となるだろう。
だが、その3人娘の実力でも、ユニオンスライムはなんとかなったかもしれないが、正直トランスフォームスライムは厳しかったような気がする。
そのような状態で、平静シリーズを回収に使用人たちを派遣しても大丈夫なのかって気はしていたのだ。
まあ、ギドならトランスフォームスライムに勝てただろうから、ギドを引率者として徐々に経験を積ませていくという方法もあるといえばある。
そう考えれば、ソエラルタウトの者は心配ないかもしれない。
ところが、ゲイントやその弟子たちは生活もかかっているわけだから、そういうわけにもいくまい。
一応9階までを狩場にしたらいいとはいったつもりだが、やっぱりその先があるのなら挑戦したくなるっていうのが人情というものだろうしな。
まあ、冒険者は自己責任ともいうが……それでも俺が勧めた部分もあるし、せっかく知り合った人が不幸になるのも嫌だ。
とまあ、そういう心配がないではなかった。
「……その優しさはアレス様の美点でもありますが、あまり気に病まれませんように」
「う、うむ……」
「それに、先ほど神の試練といいましたように、ダンジョンというものは己の実力をきちんと見極めて油断なく挑戦すれば、踏破可能な場所なのです。そしてボスについても、絶対に勝てない相手を出してくることはまずないと考えて差し支えないでしょう……まあ、そのダンジョンの水準に達していない者についてはその限りではありませんがね……」
「……それが魔族内での認識というわけか」
「ええ、比較的そう考える者が多いですね」
俺たちの会話は魔法で周囲に漏れ聞こえないように遮断してある。
そして、原作ゲームでは特にそういった設定はなかったと思うが、おそらく超常的なことについて人間族よりも詳しいであろう魔族がそういうのなら、そうなんじゃないかなって思えてきた。
そんなわけで、ゲイントたちについては明日にでも11階以降のことを話してやり、併せて平静シリーズも効果をしっかりと説明した上でプレゼントしてやろう。
ま、平静シリーズも2つまでなら優秀な防具として使えるし、3つ目からは己の実力を慎重に判断して使い分けていってもらえばよかろう。
そんなふうに考えると、心配が薄れてだいぶ気分が晴れてきた。
もしかするとギドのこういったところに、原作アレス君も心を開いていったのかもしれないなぁ。
「そして話は変わりますが、私は明日、こちらの領都へ行ってきます」
「……ノーグデンド家の屋敷へ面会希望の打診か?」
「はい」
まあ、こっちのほうが爵位的に格上とはいえ、直接行ってそのまま対応しろっていうのはよほど緊急時でもない限り、マナー的によろしくないだろう。
ただ、セーツェル殿のほうから俺が挨拶に行くっていう情報自体は既に送られてはいるだろうけどね。
伝達係っぽい領兵が1人走ってたし。
「ならばそのあいだ俺は、平静シリーズの4つ目に挑戦するかな?」
「それもよろしいかと存じます。また、ここから領都へはそう離れておりませんので、遅くとも夜までには帰ってきます」
「そうか、ギドのことだから大丈夫だとは思うが、気を付けて行ってこい」
「温かいお言葉に感謝いたします」
「……風呂に浸かって、身も心もあったかだ~」
「フフッ、あったかだ~」
テレもあって唐突にいってみたくなったのだが……ギドも合わせてきた。
これにより、余計にテレが増してしまったね。
まあ、こういうノリも悪くあるまい。
そして風呂上りにアイスミルクコーヒーをいただく。
そのあとは平静シリーズを3つほど着用した上で、寝る寸前まで精密魔力操作に挑戦。
高揚した心の騒めきによるものか、魔力の声がいつもより遠く感じる。
でも、どんなに遠く感じたって、俺たちはいつも一緒だ! そうだろ? 魔力君!!
こうして、いつもとは違う感覚に戸惑いながらも、精密魔力操作に打ち込んだのであった。
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