第428話 俺は純然たるヒヨッコだった

「わたくしが障壁魔法の強度を弱められるよう魔力の吸収に努めますから、お2人は突破に全力をお出しくださいな」

「狙うはここ……この一点にひたすら密度を高めるべき」

「おっけ~! 私たちも日々上達してるんだってところを見せなきゃだもんねっ!!」

「皆さん、気持ちをひとつにして頑張ってください」

「「「いわれなくても!!」」」


 ギドの言葉により、ちょうど3人娘の息が合ったところで、俺の展開する障壁魔法に干渉を受けた。

 もちろん、ヨリが魔力の吸収を試みているからだ。

 そしてさらに、ノムルとサナによって一点に集中した攻撃が加えられている。

 ふむ……3人とも、昨日のダンジョン攻略と平静シリーズによる訓練でいくらかレベルアップしたかな?

 そう思いつつ、なかなかいい感じで障壁魔法の一点に圧力を感じる。


「……はぁ……はぁ……アレス様の魔力……分かっていたことではありますが……やはり、かなりの重みがありますわね……」

「う~ん、もうちょっとでいけそうだなっていう手応えみたいなものはあったんだけどねぇ……」

「もう少しのはず……この壁を越えれば、ワンランク上がれる」

「確かにあともう一歩といったところでした、皆さん惜しかったですねぇ。ですが、このあと一歩というのが一番注意するところでもあります。このゴールが見えた瞬間というのはどうしても気が緩みがちになってしまいますので、これからも気を引き締めて努力なさってください」

「……ふぅっ……分かって、おりますわ!」

「ここはまだゴールじゃない……それはもっともっと遠いところにある」

「そうそう! この手加減された障壁魔法が私たちの目標なんかじゃないもんねっ!!」

「フフッ、素晴らしい意気込みです。では今日のところはここまでとして、また明日頑張ってください」


 さて、そろそろ起床時間かな?

 そしてこのレベルの障壁魔法は、そう時間もかからないうちに突破されそうな気がする。

 早ければ明日か……そのときは心から祝福の言葉を送ろうじゃないか。

 だが、それで終わりというわけではない……むしろ、新しい始まりだ!

 さらに強度の高い障壁魔法を用意してやるからな! 期待しててくれよな!!

 というわけで、ベッドから起き上がる。

 昨日は平静シリーズの靴下は脱いでインナーとジャージを着て寝たので、今朝はそれに靴下とランニングシューズを履くだけのお手軽着替えだ。

 ……うぉっ! なんだこりゃ「ズンッ!」ってきたぞ!!

 普段、人は無意識に魔力も使って体を動かしているって話は聞いて知っていたつもりだが……それを改めて実感した。

 そうか、平静シリーズの4つ目でここまで影響が出るのか……こりゃスゲェぞ!

 これでフル装備までいったら、どこまで魔力操作能力が高められちゃうんだろう! ヤベェ、ワクワクが止まらないっ!!

 そして俺は今まで魔力操作のことをいくらか分かったつもりになっていたが……全然だった!!

 フフッ……フフフフフ……これまでの俺は純然たるヒヨッコだった、認めよう!!

 だが、いつか全て制覇してやる! 待ってろ平静!!

 前世では一度平成とお別れしてしまったが、俺は再びHeiSeiの世を生きるぞォ!!


「アレス君……今日は一段と燃えてるみたいだねっ!」

「熱気がこちらまで伝わってくるようですわ!」

「私たちも負けてられない……もっと燃えていくべき!」

「おやおや、皆さんもっと平静さを保ちませんと」


 そんなギドのやれやれといった言葉も聞こえないではなかったが、そのまま元気ハツラツで朝練のため中庭に向かった。

 まあ、魔力による身体アシストが低下したぶん、動きがゆっくりめになってしまったけどね。

 それでも、1時間ほどシッカリとランニングをした。


「……ハハッ! 身体が重くて、太ってた頃を思い出してしまったよ!!」

「私も、これを着て運動能力ガタ落ちだったなぁ……」

「わたくしも、昨日は魔力操作のとき座っていただけなのでそこまで感じませんでしたが……」

「重力というものをこれほど感じたことはなかった……」

「ちまたでは『魔力を使い切った』という言葉を頻繁に耳にしますが、実際のところ無意識のうちにリミッターが働いて魔力を使い切るということはよほどのことがない限りありませんからねぇ……今皆さんは本当に魔力を使い切った状態というものを疑似的に体験しているといえるでしょう。まったくもって素晴らしい経験をしていますね!」


 そして部屋に戻り、シャワーを浴びて朝食へ。

 また、今日は魔力操作三昧を予定していたので、そのまま平静シリーズに浄化の魔法をかけて再度着用した。

 それはもちろん3人娘も同じだ。

 ただ、ギドだけは朝食後にノーグデンド領の領都へ向かうので、キッチリとしたいわゆる執事服に着替えている。

 そうして食事をしているときに、ゲイントがやってきた。


「アレスさん、おはよう! 聞いたよ、大繁殖を終わらせたんだって!?」

「おお、ゲイント! そのとおり、昨日で攻略完了さ」

「さっすが、アレスサンだなぁ!」

「フッ、それほどでもないさ……ああ、ちょうどよかった、ゲイントとその弟子たちにプレゼントしたいものがあるんだ」

「えっ! そんな、既に山ほどもらっているのに!?」

「まあ、スライムダンジョンのドロップ品だから、そのうち手に入るだろう物でもあるんだけどな」

「へぇ、そうなのか」

「とりあえず、これからの狩りをより安全にできるようにはなると思うから、渡しておくよ。そして11階以降の話もしておこう」

「お、おう、なかなか盛りだくさんだね」

「フフッ、まあな」


 こうしてゲイントに平静シリーズをプレゼントするとともに、スライムダンジョン11階以降の話をするのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る