第429話 この装備は2つだけ、ゼッタイ!

 ゲイントに平静シリーズを渡しているあいだにケイラさんや弟子たちが集まってきたので、そのままみんなに配った。

 ちなみに木こりのオッサンもいる。

 また、その流れでスライムダンジョン11階以降についても語って聞かせた。

 そしてギドは、朝食を食べ終わった段階で領都へ移動。


「なるほどなぁ……俺も念のため11階以降のことを調べていたから、多少は分かっているつもりだったが……やはり難易度がかなり上がりそうだな……」

「魔法を使われたんじゃ、こっちのスリングショットっていう遠距離武器の利点もなくなっちまうもんなぁ」

「う~む、ケイラちゃんのいうとおりだな……やっぱり、9階までを中心に狩りをしておいたほうがいいんじゃないか?」

「確かになぁ……」

「そんな! 俺たちだってやれるよ!!」

「それに、アレッサンっだって、そのために装備をくれたんだろォ!?」

「フゥ……僕としては、そのスライムマジシャン(風)っていうのが気になるねぇ……もしかしたら分かり合えるかもしれないし」

「えぇっ! それはどうなんだろう……相手は言葉の通じないスライムなんだよ?」

「フゥ……風を感じる者同士に言葉は不要なのさ」

「そ、そっかぁ……はは……」


 この風使い君……もしかしたらソレバ村の泥遊びが大好きなカッツ君と似たタイプなのかな?

 それともやっぱあれかな……ほら、前世でも中二病とかってあったでしょ?

 そういう系かなぁって……いや、俺も人のこといえないんだけどね……

 というかこの世界なら、前世で中二っぽいと思われがちなことでも割と許容されるだろうから気にすることもないか!

 うん、そうだな、そういうことにしておこう!!


「オラ、母ちゃんに楽さしてやりてぇけど、でも無理して心配かけさすのもやだなぁ……」

「ああ、派手なことさえしなければ9階まででもじゅうぶん生活していくだけの稼ぎにはなるんだ、無駄なリスクを取ることはないだろう」

「そもそもとして、今の俺たち初心者の実力じゃ10階のビッグスライムを倒せないんだ、11階以降のことを考えるのはまだ早いんじゃないか?」

「……いわれてみればそうか! まずはゲイント師匠に実力を認めてもらうのが先だったな!!」

「ま! 今は我慢のときかなぁ?」

「むぅ……仕方ないか……」


 こうして若きスライムハンターたちは、まずは実力養成に励むことで意見がまとまったようだ。


「よし、オメェら! 最初は危なかったが、よく自分たちだけで自重するって結論に達することができたな、エラいぞっ!!」

「無謀なことをした俺がいうのもなんだが……焦らずやっていこう」

「つーか、ダンジョンの階を進むことだけ考えるより、合間合間にダンジョンの外で獣でもモンスターでも狩りゃいいじゃんか、うちらの本業はそっちなんだし」

「おう、確かにそうだったな!」

「ふむ……動きの遅いスライムばかり狙うより、いろんなタイプの獲物を狙うほうが実力をより伸ばせるかもな……」


 面倒見のいいオッサンもいることだし、ゲイントの弟子たちはこれから立派なハンターとして成長していくことだろう。

 そしてそろそろこの街を離れることになりそうだし、最後の思い出作りにみんなで魔力操作なんてどうだろう?

 というわけで近々街を離れることを話すとともに、魔力操作に誘ってみた。


「そうか、そういえばダンジョンの攻略も終わったんだもんな……そういうことなら俺たちも魔力操作を一緒にやらせてもらおう!」

「知り合ったばかりだっていうのに、寂しくなるねぇ……」

「まあ、一生の別れってわけじゃねぇんだ! いつでもこの街に来てくれよなっ!!」

「ああ、そのつもりさ」


 なんて少々湿っぽくなりつつ、場所を街の広場に移した。

 この際、俺たちソエラルタウト組以外は平静シリーズを使わず、まずは普通に魔力操作をしばらくやってみる。

 とはいえ平民クラスの保有魔力量では、そもそも魔力を感じること自体が難しいので、今のところ瞑想とか座禅……といえばカッコいいが、呼吸に意識を集中して座ってるだけって感じになっている。

 だが、最初はそんなもんでよかろう、やっていればそのうち魔力を体感できる日が来るはず。

 とはいうものの、その段階に到達する前に飽きてやめる奴が続出するらしいけどね……

 それはともかくとして、通常時の魔力操作を改めて実感したところで、平静シリーズを試してもらおう。

 というわけで、余りのない手袋と靴下以外を1セットに袋詰めした平静シリーズをゲイントたちが袋から取り出す。


「今日のアレスさんたちはその……少し変わった服装だなって思っていたが、これだったんだな……」

「まあ、デザインのクセは強いがいいものだ、気にせずとは言い難いが使ってくれると嬉しい」

「俺は見た目とかは気になんねぇから構わねぇけど、それより狩りをやらない俺までもらっちまって悪いな!」

「いや、木こりだって森に入るんだ、そこでモンスターと遭遇することもあるだろう?」

「まあ、そんなに奥まで行かねぇし、今まで会ったことがあるのはゴブリンぐれぇだが……まれにはぐれの危険な奴と出くわさないとも限らんだろうからなぁ……」

「ああ、そういうときに命を拾う可能性を少しでも高められるよう、着といてくれ」

「おう、ありがたく使わせてもらうぜ!」

「それで……これの3つ目からがヤバいんだって?」

「はい、そうですケイラさん! そのため、よほど魔力操作に習熟するまでは2つだけ装備するようにしてください!!」

「あいよ」


 それで今回はお試しということで着脱の容易なヘアバンドかニット帽、サングラス、そしてアームウォーマーの3つをゲイントたちは装備してみたのだが……


「これは……凄いな!」

「なんじゃぁこりゃぁ!!」

「ははっ、なるほどねぇ」


 ゲイントや木こりのオッサン、そしてケイラさんはある程度耐えることができたみたいだが……


「ぐっ……おぉ……!!」

「か、身体が重いぃ!!」

「そんな! 風の声が……聞こえない!?」

「はふん……」

「あ、おいっ! 大丈夫かっ!?」

「母ちゃん……オラなんだか……眠くなってきただ……おや……すみ……ぃ……」


 驚愕する若者たち……中には失神する者さえいる。

 いやいや平静シリーズ、ヤバすぎでしょ……

 でもそうか、装備者が平民レベルだとシリーズ装備の効果が発動するとここまでの影響が出るのか……

 これは広める際に、しっかりと説明しておかなければならんな。

 というわけで、すぐ若者たちのヘアバンドやニット帽を外してやった。


「はぁ……はぁ……これはヤバいっス!」

「自分なら大丈夫って、なんとなく思ってましたけど……キッチリ目が覚めましたッ!」

「この装備は2つだけ、ゼッタイ!」


 こうして平静シリーズのヤバさを実感したので、たぶん若者たちはこの先調子に乗って装備しまくるということはないだろう。

 ひとまず安心かな?

 ま、君らが平静シリーズを3つ装備して平静を保てる頃には、おそらく一流のハンターとなっていることだろう、期待しているぞ!

 とかなんとかやっているうちに、ハナさんがヒナちゃんと一緒にお弁当を作って広場に持って来てくれた!

 しかもチーズケーキも焼いてきてくれた!!

 これには腹内アレス君もにっこり!!

 そして昼食後は、改めて俺たちソエラルタウト組以外は平静シリーズを外して魔力操作をする。

 ま、若者たちも平静シリーズを3つ装備するのはいい刺激となったみたいで、最初にやった頃より熱心に魔力操作に励んでいる、よきかなよきかな。

 そんな感じで午後2時を過ぎたあたりでギドが戻ってきた。


「ただいま戻りました」

「お帰り、そしてどうだった?」

「はい、明日の昼、ノーグデンド子爵夫人がお会いくださるそうです」

「そうか、ご苦労だった」


 というわけで、明日は領都だな。

 そしてこの街で過ごすのも今日で最後か、寂しさはあるがまた来る日を楽しみにするとしよう。

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