第430話 親愛の証
「アレスさん、いろいろありがとうな!」
「私たち家族が、大変お世話になりました」
「アレスさん、お父さんを助けてくれて、本当にありがとうございます!!」
「またいつでも遊びに来いよなっ!」
「道中、気を付けるんだぜ!」
………………
…………
……
日付変わって無の日、領都へ向けて出発する際、ゲイントたちを中心に街で知り合った人たちが見送りに来てくれた。
「また来るよ、そのときまでみんな元気で!!」
こうして別れの挨拶を済ませ、ウインドボードによって空へと舞い上がる。
そして実際のところ数日ってぐらいなのに、ずいぶんフウジュ君ともご無沙汰な気がしてくる。
まあ、それだけスライムダンジョンの印象が強かったということかもしれないね。
「なんか、とっても体が軽く感じるよねっ!」
「ええ、それにウインドボードの操作も前より楽に感じますわ!」
「……これも平静シリーズのおかげ?」
3人娘の反応も当然というべきか、現在平静シリーズを3つ以上装備していない。
まあ、装備しているとしたらインナーとか中敷きぐらいじゃないかな?
それはそれとして、まだ平静シリーズを使い始めたばかり。
本格的に魔力操作能力が向上するのはこれからだろうことを考えると、期待が膨らむばかりだ。
そんなことを思いつつ、2時間ほど大空をかっ飛ばした。
「アレス様、領都が見えてきましたよ」
「おお、あそこか!」
さすがにソエラルタウト領の領都ほどではないが、それでもなかなか活発な感じだ。
そこでギドが手配したホテルの一室で貴族服に着替えを済ませ、昼食をいただく。
まあ、昨日のうちにこっちに来ることも可能だったんだけどね。
でも、名残惜しさもあって、今朝移動することにしたのさ。
そんな感じでしばしのんびりしていたところで、ノーグデンド家から迎えの馬車が来た。
実際のところ大した距離でもないのに、わざわざありがとねって感じ。
そうして極々短い時間馬車に揺られながら、やって来ましたノーグデンド家の屋敷。
ここでいったん控室に通され、ギドたち使用人はそこに待機。
そして俺はノーグデンド子爵夫人のいる部屋のバルコニーに案内された。
「いらっしゃい、お茶会ぶりね。それからノーグデンド子爵である夫は知ってのことと思うけれど、王都にいるから私が代わりに話をさせてもらうわ」
「私のために時間をいただき、お礼申し上げます」
「ふふっ、私ももっと話したいと思っていたし、気にしなくていいわ」
「そういっていただき、ありがたく思います」
そして促されるままに席に着く。
そこで侍女がお茶とお菓子を運んできて、用意を終えると静かに下がった。
また、お茶とお菓子の香りに腹内アレス君もゴキゲンである。
「この屋敷では、ここからの眺めが一番いいのよ」
「なるほど、この見事な庭園を眺めながら飲むお茶は格別なことでしょう」
夫人のいうとおり、確かにここは眺めがいい。
それから……周囲に護衛どころか使用人すら配置していないようだ。
これは信用されているというべきかな?
「さて……まずは領民救出に動いてくれたようで礼をいうわ、ありがとう」
「いえ、あれは単なる偶然の成り行きでした」
これはまあ、挨拶みたいなものだね。
正直なところ支配者層からしたら、領民の1人ぐらいそこまで頓着ないだろうし。
「それで聞くところによると、スライムダンジョンのドロップ品に興味があるとか?」
「はい、そこで私の部下を定期的に派遣したく思いまして、そのご挨拶にと……」
「ふふっ、律儀ねぇ……でも、猜疑心の強い領主なら変な勘繰りをしてくるでしょうから、それで正解かもしれないわね。まあ、なるべくならそういうのとは関わらないほうがいいのでしょうけれど、それに敵対している派閥の領主ならなおさらね……ああ、それでダンジョンのことだったわね、もともと制限もしていなかったし、いつでも来てくれて構わないわ。あと、どうせだから許可証もあげるわね」
「なんと! そこまでしていただけるとは……」
「とはいうものの、基本的にダンジョンの管理は冒険者ギルドの管轄だから、その許可証は『ノーグデンド家は文句をいいません』というだけのものでしかないわ。あと、私の名前で発行したものだから、効果があるのは私が生きているあいだだけということに注意しておいてね……もっとも、あのダンジョンで揉めるようなことはそうないでしょうから、それは私からアレス殿への親愛の証とでも受け取ってくれればいいわ」
「ノーグデンド子爵夫人のお心遣いに感謝申し上げます」
これは許可証自体に効果があるというより、まさしく夫人の気持ちを示したものであろう。
それに例えば、この先あのスライムダンジョンになんらかの制限が課されたとき、この許可証を盾にとってスライムダンジョンに行くことは可能だったとしても、その後の心証悪化は免れないだろうから無暗に使えるものではない。
ただ、だからといって全く役に立たないのかというとそうではなく、どこにでも一定数いるであろう愚かな領兵とかが絡んできたときなんかに黙らせるのには使えるだろう……いや、そんなつまらんことには使わんけどね。
まあ、夫人をガッカリさせないためにも、節度を持った行動を心がけるべきだし、使用人のみんなにもそれを徹底させておいたほうがよかろう。
といったところで当初の目的は達成したし、あとは夫人とのおしゃべりに全身全霊を込めて楽しむだけ!
さあ、たくさんおしゃべりしましょう!!
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