第425話 今回はどうなってるんだよ……
「冒険者ギルドから当家に『今回の大繁殖は冒険者の力で乗り越えられそうだ』との話がきまして、そこでいったん領軍の出動を保留にして、私が様子を確認してくることになったのですよ」
話の区切りが一つ着いたところで、セーツェル殿が今回スライムダンジョンに来た理由を話し始めた。
それに伴って、ギルドのオッサンも話に加わってきた。
「ま、冒険者ギルドにもメンツってもんがそれなりにあるからな、特に上の連中にとっては……そこで、いつも領軍頼みだったスライムダンジョンの大繁殖を冒険者だけで乗り切れそうだってなったんだから、ギルドマスターもすこぶる上機嫌だったぜ」
領地を治めているのは領主だが、ダンジョンの管理については冒険者ギルドが担当しているみたいだからね……
でも、冒険者ギルドのメンツがどうのこうのというのなら、ほかの街や領地の冒険者ギルドを頼れなかったのだろうか?
いや、それはそれで違うメンツが関わってくるのかな?
その辺、俺にはよく分からん(分かりたくない)めんどくさいアレコレがあるのだろうなって感じだ。
「我々としましても、あまり出しゃばるようなことをしたくありませんからね、冒険者だけで上手くやっていけるのなら、それに越したことはないでしょう」
セーツェル殿の言葉の中に「めんどうだから、できればノータッチで済ませたい」という本音が聞こえた気がした。
なんということだ、俺の感覚としては素晴らしいダンジョンなのに……この誰からも喜ばれていない感じが切ない。
でも、大丈夫だ!
これからは俺たちが……魔力操作に目覚めた者たちが、このダンジョンを盛り上げていく!!
まあ、それはこれからに期待ということで、そろそろ「攻略したよ!」って報告をしましょうかね。
「それでダンジョンについてだが、攻略を完了させた」
「そうか、完了させたか……って、完了ッ!! 20階のボスまで倒したのか!?」
「ああ、もちろん」
「確か、昨日からという話でしたよね?」
「ええ、ですがゲイント救出のため10階までは一度入っているので、そのときにある程度は間引いたと思います」
「おお、そうだった、11階から再開したのか……いや、それでも早過ぎだろ!!」
「いや、一度スライムたちの経験をゼロに戻そうと思って、改めて1階から全滅させながら攻略することにした……ああ、その前の日に4階まではゲイントたちと狩って大繁殖の影響がなくなってそうだったから、実際にスライムを狩り始めたのは5階からだったな」
「ハ、ハハッ……さすがはアレス殿ですね……」
「セーツェルさん、さすがの一言じゃ済まないよ……」
1泊2日で大繁殖中のスライムダンジョンを完全攻略っていうのは、普通に考えたら早過ぎだったらしい。
「まあ、証拠になるかは分からんが、これが20階のボスを倒したときに出現した魔石だ」
「……ん? ………………はぁッ!? いやいやいや、待ってくれよ……」
「これは……スライムキングのものではありませんね……私もまだ見たことがありませんでしたが、ひょっとしてこれがスライムエンペラーの魔石ですか?」
「セーツェルさん、これはエンペラーじゃない、もちろんキングなんかでもない……なぁ、そうだろう? アレスさん」
「おそらくそうだろう、彼はとても変幻自在で学習意欲旺盛なスライムだった……」
「その特徴……はぁ、やっぱりか……いや、俺もギルドの資料でしか知らなかったが……トランスフォームスライムと考えて間違いないだろう……10階のユニオンスライムといい……まったく、今回はどうなってるんだよ……」
「私の経験でも10階はビッグスライム、20階はスライムキングしか出たことがありませんでしたから、確かに異常ともいえるのでしょうが……もしかしたらこれは、アレス殿がダンジョンに愛されているが故のことだったのかもしれませんね?」
「愛されているからって、そんなのんきな……いや、まあ、既に起ってしまったことはどうしょうもないか……仕方ない、ありのまま上に報告するとして、冒険者たちにはしっかりと注意喚起して対応していくしかないな……」
そういいながら、ギルドのオッサンが項垂れている。
しかしまあ、ダンジョンに愛されているっていうのは……あるかもしれんね。
何よりレミリネ師匠に逢わせてくれたからね。
でも、それは俺だけじゃなく、ゲイントに上級ポーションを授けてくれたことなんかも考えると、意外とダンジョンさんはこちらの希望を叶えてくれる気がする。
だから「弱いボスにしてください!」って願いながらボス部屋の扉を開ければ、比較的弱い奴を出してくれるんじゃない?
なんて思ってみたりした。
「まあ、ボスの話はそれぐらいにして、ボス以外の魔石も出そう……魔石の数を見れば、攻略の具合もだいたい見当がつくだろう?」
「お、おう、それじゃあ出してくれ」
そして今回の攻略により入手した魔石を全て換金に出した。
それから、お菓子や平静シリーズのドロップ品は換金していない……ま、当然だね。
ただ、ちゃんと攻略しましたよっていうアピールのため、ドロップ品をポーションセットも含めてひととおり見せるだけ見せておいた。
「もともと疑ってはいなかったが、これだけそろっていれば、ダンジョンを攻略したと判断していいだろう! おめでとう!!」
ギルドのオッサンの言葉により、これまで徐々に集まってきていたオーディエンスが沸いた。
ゲイントの救出劇以降、屋台が増えてきていたこともあり、ダンジョン前には割と人がいたのだ。
そしてセーツェル殿は役目上、自分の目でダンジョン内を確認しなければならないので、これからダンジョンに入るとのこと。
「セーツェル殿、お気を付けて」
「はい、大繁殖が終わったとはいえダンジョンなのですからね、気を引き締めて行ってきます。それでは、またお会いしましょう」
「ええ、そのときを楽しみにしております」
こうしてセーツェル殿は部下を引き連れ、ダンジョンへ向かって行った。
「さて、それじゃあ俺たちはホテルに帰るとするか」
腹内アレス君も夕食を期待し始めていることだしさ。
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