第20話 距離感が縮まる

 魔力探知を覚えてから毎日ゴブリンテーリングを飽きることなく楽しみ続け、気付けば光の日……前世で言うところの金曜日になった。

 日によっていろんな属性の魔法を試しながら戦闘をこなしてきたんだけど、今日は接近戦重視で行ってみようかなって思ってる。

 あ、そうそう、俺の相棒のトレントの木刀だけどさ、いつまでもそんな呼び方じゃ他人行儀過ぎるかなっていう気もしてきたからさ、名前を付けることにしたんだ。

 武器の種類としては日本刀っぽい響きを意識してトレン刀って呼ぶことにした。

 まぁ、他人に「俺の使用武器はトレン刀だ」とか言っても通用しないだろうけど、そこはまぁ自分がわかってれば良いことだし、言い続けてたらそのうち定着する可能性だってなくはないと思うんだ。

 んで、名前はミキオ。

 なんかね、俺のトレントのイメージってデッカイ木の幹に顔があるやつって感じだからさ、そう思うともう「幹」って部分は外せなくなっちゃった。

 そこにちょっと親しみみたいなものもプラスしてミキオって名付けた。

 いや、もっとイカツイ名前を付けようかとも最初は思ったんだけどさ、なんかそれは違うって直感みたいなものが囁くんだよね。

 あと、どうせなら女の子の名前にしたらいいじゃんって声もあると思うけどさ、ここってファンタジー感バリバリの世界でしょ? ふと人間の姿に化ける可能性が頭をよぎったんだよね。

 先輩転生者さんのヒロインとして美少女に変身する武器とかってたまにいるじゃない? あんな感じでさ。

 一応俺としても、エリナ先生に後ろめたい気持ちになるようなことはしたくないからさ、そうなると男の子の名前の方が安心だなって思ったわけ。

 とはいえ、ゲームでは人化する武器ってなかったような気がするから、そんなに心配することではないとも思うけどね。

 ま、いろいろ長々と語ったけどさ、呼び名がトレントの木刀からトレン刀のミキオに変わったってだけの話だね。

 みんなもさ、気軽にミキオ君って呼んであげてよ、今より距離感が縮まると思うからさ。


「お、いたねゴブリン、そ~れっ!」


 ミキオ君を勢いよく振りぬき、一撃で仕留める。

 ミキオ君と組んで間がない頃はさ、俺もミキオ君も加減ってものを知らなかったから、インパクト時に爆散させてしまって大変だった。

 だけど今はだいぶ加減ってものがわかってきたからね、きちんとギルドに買い取ってもらえる程度の損傷で討伐出来てる。

 コツはね、ミキオ君が帯びる魔力が外に広がらないようにグッと抑えて、それを切れ味に転化させるイメージ。

 戦闘を重ねていくうちに気付いたんだけど、トレン刀ってね、特にコレっていうイメージを持たずに魔力を込めると、表面に暴力的な魔力を帯びるみたいで、ヒットした部分を木っ端微塵にしちゃうみたいなんだ。

 単純に蹂躙したいだけならそれでもいいんだろうけど、素材をある程度綺麗に残したい場合はそれだとマズいからね。


「とかなんとか言ってたら、ゴブリンのおかわりが来ましたよっと! 更にもう一振りよいしょっ! 君も一緒にせいっ!」


 団体さんいらっしゃい、たぶん50体以上いるね。


「いいよいいよ、どんどんおいで!」


 次々と襲い掛かって来るゴブリンを躊躇なく屠っていく。

 ゴブリン一体一体が俺の糧になってくれるのだと思うと、喜ばしくもありがたい気持ちでいっぱいになる。

 だから俺は、一撃一撃に感謝の念を込める。

 ありがとう! ありがとう!!

 ゴブリンアーチャーとか言う矢を放ってくる奴もいるけど、俺の魔纏はそんなもんじゃ突破できない。

 最近は体の表面に薄いが密度の濃い魔纏を常時展開する練習をしているので、防御面もかなり充実してきた。


「もう矢は尽きたのかい? じゃあ、さよならだ」


 表情に若干の怯えも見えた気がするが、そう思った瞬間にはもう、彼の命の灯は消えている。


「ふぅ、これだけの集団が相手だとさすがに疲れたね」


 全て討伐し終わり、一息つく。

 だがまだ終わりじゃない、回収が待っている。

 先輩転生者の中にたまにいるじゃん? スキル的なもので手も触れず念じただけで空間収納に保存されるみたいなやつ、あれ良いよね。

 俺も一応試してみたんだけど、今の俺だとイメージ力が追いつかないのか無理っぽい。

 前世でもっとSFとか宇宙的な科学理論に興味を持つべきだったかな……

 まぁ、放り込む作業が面倒ではあるが、マジックバッグが使えるだけ恵まれてはいるんだけどね。

 そう言えば、コレも謎原理だよね、作ったやつのイメージ力は凄いなって素直に称賛しちゃう。

 そんなことをつらつらと思いながら、回収作業を続ける。


 さて、回収も終わってそろそろ時間も良い頃だし、ギルドへ換金しに行こう。

 新鮮なゴブリンのお届けって感じ。


 もうね、毎回数が多いからいっつも裏手の解体兼保管所からギルドに入ってる。

 たぶん、表の入口からギルドに入ったのって初日ぐらいじゃない?

 まぁ、そんなことどうでもよかったね。


「おうアレス! 今日も大量か?」

「ああ、たぶん200は超えてるだろう」

「よっしゃ、いつも通りここに出してくれ」

「ああ」


 次々とゴブリンの死体を出していくと、全部で228体だった。

 接近戦メインだったからね、遠距離から魔法で一撃ってよりは時間がかかったかもしれない。

 でもま、こんなもんだね。


「相変わらずスゲェもんだな」

「まぁ、相手はゴブリンだからな」

「いやいや、いくらゴブリンでもこの数は驚異的だ。それによ、お前さんがたくさんゴブリンの死体を回収してきてくれるおかげで、うちの下っ端解体士どもの腕がグングン上がってありがたいのなんのって」

「へぇ、そうなのか。でも、ゴブリンの解体だけでそんなに技術が上がるものなのか?」

「モンスターそれぞれに特性ってもんがあるのは確かだ。だが、根っこの部分の基礎は一緒だからな。たとえゴブリンの解体だけでも学ぶことは多いのさ」

「なるほどな」

「それにやっぱ、数をこなすってのが技術向上には大事な要素ってもんだ。そこでこのゴブリンの数だ、いやでも上達しちまうよ。そんで最近な、うちのやつらもだいぶ育ったからってんで近隣の支部の新人教育を引き受けてんだ」

「ほう、そいつは凄い」

「だろ? そのおかげで他の支部におっきな顔が出来るってギルマスなんかご機嫌なのさ。ま、そんなわけで、うちとしてはお前さんに感謝感謝なわけよ」

「お役に立てたなら光栄なことだ」

「おう、立ちまくりだ。おっと、つい長話しちまったな、これが今日の引取証明書だ、確認してくれ」

「……自分で言うのもなんだが、今日は死体の損傷が激しめだと思うんだが、いつもと一体当たりの評価額があまり変わらないのはどうしてだ?」

「ああ、それはな、必要部位がだいたい揃ってるからっていうのもあるが、やっぱゴブリンだからな、高ランクモンスターほど損傷具合を厳しく見てないんだ。使うときはだいたい細切れだったりするしな」

「そういうことか、じゃあ、高ランクを相手にするときは気をつける必要があるな」

「まぁな、こっちとしてはそうしてくれると嬉しいが……かと言って、それを気にするあまり返り討ちにあいましたってのも困るからな、余裕を持って確実に勝てる場合だけにしといてくれ」

「全くその通りだな」

「ま、お前さんならその辺も上手くやるだろうから、そんなに心配はしてないがな」

「その信頼を裏切るわけにはいかないな。さて、そろそろ換金してくるか」

「おう、それじゃあ、この次も頼んだぞ!」

「ああ、ではまたな」


 ……ふむ、俺のゴブリンテーリングは料理人だけではなく、解体士の技術向上にまで寄与していたとはな、誇らしい限りだ。

 そんなことを思いながら、受付へ換金に向かう。

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