第21話 信じてるからね
「お帰りなさい、アレスさん。換金ですね」
「ただいまです、ロアンナさん。そうです、これがギルドカードと引取証明書です」
「お預かりします……はい、ゴブリンの討伐ですね。今回もギルドの口座に振り込みますか?」
「はい、お願いします」
「かしこまりました……それとですね、アレスさんの活躍を見込んで、お願いしたい依頼があるのですが、話だけでも聞いていただけますか?」
「ええ、もちろんです」
「ありがとうございます。では説明させていただきます。ここから西に馬車で1日ほどの場所にソレバという村があります。その村近くにゴブリンが集落を形成しており、村から討伐隊を出しましたが、複数の死傷者を出して失敗したとのことです。そのため、村だけで対処が不可能との判断からこちらに討伐の依頼が出されました」
「集落ごときで……」
「はい、村でも最初はそう思ったそうですが……どうやら上位種がいるようなんです」
「ああ、なるほど。統率の出来る個体なんかがいると脅威度は上がるでしょうね」
「そうなんです。それから、討伐隊を出した時点ではまだ100体程度だったようですが、それから数日が経っているので、その倍……いえ、500体を超えている可能性も考えられます」
「彼らの増殖具合から考えて、なくはないですね」
「はい、こればっかりは現地を見てみないとわかりませんが……依頼内容としては以上となります。公開前に一度アレスさんに声をかけてからと思いまして、これは優先依頼扱いです」
「優先依頼、そこまで評価していただけているとは……」
優先依頼っていうのは、ギルド側(受付嬢の独断の場合あり)が重要そうな依頼をこいつに任せたら確実だろうなと思う場合、公開前に個別に打診することをいう。
依頼遂行にあたってギルドからいろいろと便宜を図ってもらえたりする上、優先依頼を回してもらえる冒険者っていうのはそれだけ名誉なことなので、喜んで受ける冒険者が多いらしい。
ま、俺も悪い気はしないね。
ただ、極稀にクソみたいな受付嬢が自分の点数稼ぎのために、ゴミみたいな依頼を優先依頼ですって言ってチョロそうな冒険者に振ることがあるみたいなので注意が必要なんだって。
そういった受付嬢を見分ける目も冒険者には必要だって、さっき話してた解体士のオッサンからこの前聞いた。
冒険者側からすればそんな受付嬢クビにしろよって言いたいけど、いろいろあるんだろうね……
じゃあロアンナさんはどうなのよってトコだけど、一応ゲームプレイ時での対応はまともで変にトラブったりもなかったし、俺が実際に接している感じでも誠実そうに見えるから信用しても良いんじゃないかなって思ってる。
ま、ロアンナさんになら無茶振りされても余裕で許しちゃうけどね。
……なんだ、俺もチョロ助じゃねぇか。
「それから、馬車や宿についてはこちらで手配しますので、普段通りの討伐準備で問題ありません。日程としては移動日を含めて1週間程度を見込んでおります」
「ふむ……ちなみに、他のパーティーには打診されてますか?」
「いえ、まだです。というよりもアレスさんはソロを基本とされているようなので、まずはアレスさんの意向を聞いてからと思いまして」
「なるほど、お気遣いいただきありがとうございます。わかりました、私のソロで受注が可能なのであれば、お受けします」
「普段なら複数パーティーの合同にするところですが、アレスさんの実績を考えてソロでの受注で問題なしと判断します。お受けいただき、ありがとうございます。それと、馬車の御者が連絡員を兼ねますので、極端に状況が悪化していた場合は応援要請も受け付けておりますので、遠慮なくお申し付けください。また、そうした場合は調査依頼の達成という扱いになり、依頼失敗にはならないのでご安心ください。それ以後の討伐にも参加された場合、増援されてきた冒険者と合同依頼を改めて受注したという扱いになります」
「状況が悪化……キングやエンペラークラスがいた場合などでしょうかね」
「そうですね、通常この手の依頼で想定されているのがナイトやマジシャンクラスまでが基本です。稀ではありますが……ジェネラルがいる場合もあるので、そのときはアレスさんの判断でお願いします。」
「わかりました。それと、出発はいつになりますか?」
「明日の早朝には馬車が出られるように手配出来ますが、アレスさんのご都合はいかがでしょうか?」
「では、明日の早朝……6時でお願いします」
「かしこまりました、そのように手配します」
「それでは、明日に向けて諸々の準備をしますので、今日はこれで失礼します」
「はい、宜しくお願い致します」
さて、異世界初の遠征依頼がやって来ましたよって感じ。
村とはいえ、何気にこの学園都市以外の土地に行くのも初めてになるんだよね。
遠足気分でちょっと楽しみになってきた。
あ、最短で終わらすつもりだけど、授業に出られない日があるだろうから事前にエリナ先生に報告しとこう。
規則によると、ギルドの依頼とかで授業に出られない場合は公欠扱いに出来るんだってさ。
まあね、ギルドの証明書を持ってけば事後報告でじゅうぶんらしいけどさ、これはエリナ先生に会いに行くちょうどいい理由に使えそうでしょ?
そして、依頼を終えて帰って来たときは「ただいま戻りました」って報告に行く機会も当然の如く見逃さない。
やっぱさ、こういうチャンスをきっちりとモノにする男が将来的に知恵者って呼ばれるようになると思うんだよね。
とか思いながら学園までの道のりを歩いていると、左側に見える喫茶店で主人公君と王女殿下が楽しそうに談笑しているのが目に入った。
そう言えば、この前メシを奢るとかって言ってたもんね。
結構時間が空き過ぎているようにも思うけど、よく考えれば今日が初めてってわけじゃないかもしれない。
うんうん、君は王女殿下ルートを進むと良いよ。
一応ゲームのシナリオ的にも王女殿下エンドがベストエンド扱いだったと思うし。
……間違ってもエリナ先生ルートに紛れ込もうなんて考えるんじゃねぇぞ。
その場合、こっちも覚悟を決めるしかなくなるからな。
……信じてるからね、主人公君。
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