第456話 少しは魔力と親しめたか?

 ソリブク村に向けて走り出し、少ししたところで3人娘が会話を始めた。


「ソレバ村、いいところだったねぇ?」

「あら、ノムルさん……そんなに気に入ってらしたのなら、あのまましばらく残っていてもよろしかったのでは? ソリブク村のことが解決したあとにでも迎えに行きましたわよ?」

「確かに、あれだけかわいがっていたリッドと別れるのは辛かったはず」

「もう~そんな勝手なことできるわけないでしょ? 分かってるクセにぃ! それに、ヨリやサナだってソレバ村の子たちと仲良くなってたじゃ~ん! ヨリは子供たちに囲まれてニッコニコだったし、サナはモンスターの襲撃があたっときカッツ君と一緒にいたんでしょ~?」

「ええ、故郷での暮らしを思い出していたのもあってソレバ村の子たちとも仲良くしておりました。ですが、わたくしはあなた方と違って、1人の子と特別に仲良くなったわけではありませんわよ?」


 そういえば、ヨリって辺境の士爵家出身で、比較的平民たちと距離感の近い生活を送っていたみたいなことを話をしていた気がするな。

 そして、確かにヨリはソレバ村で子供たちと平等に仲良く接していたと思う。


「えぇ~! だって、リッド君だよ!? もちろんほかの子たちもみんないい子だったけど、でもやっぱ、リッド君かわいいじゃん!!」

「まあ、カッツが将来大物になりそうな予感がしたのは認める」

「うぅ、そんなにアッサリ認められてしまうと、もう何もいえませんわね……」


 慌てて否定とかしてくれないと、なんというか、イジリがいがないって感じがしちゃうよね。

 そんなことを思いつつ、3人娘の会話をBGMにして走っているわけだ。

 また、そのあいだ俺はソリブク村の2人に魔力を送ることも忘れていない。

 ああ、そういえばさっきの朝練で、ソレバ村の子たちにも魔力交流でアシストをしてあげたよなぁ……なんて思ってみたりもしつつね。

 とまあ、こんなふうに単純に体内の魔力経に魔力を循環させてやるだけでも、自動的に体が魔力を使って疲れを抑制するように働いてくれるようだ……実に便利だね。

 そして、俺たちソエラルタウト組からすれば今のペースはそこまで大変な速さではないのだが、ソリブク村の2人にとってはほとんど全力疾走ってレベルに達しているみたい。

 いや、それどころか身体強化の魔法をかけているぶん、限界を超えているかもしれんね……

 そんなわけで、いくら魔力経に魔力を循環させているといっても疲労のほうが上回るようなので、様子を見ながらある程度のところで回復魔法をかけてやっている。

 そして、身体強化もしばらくしたら解けてしまうので、その都度かけ直してやる必要がある。


「……ハァ……ハァ……どこまでも、走るとはいったが……」

「これは、キツイ……ですね……」

「ああ……まったくだ……」

「本当に、休憩は……ないみたい、ですね……」

「ああ……さっき、休憩所を……素通りしたばかり……だものな……」

「馬車で……移動する際は……いつもあそこで……休んでました、ものね……」

「ほう、2人ともおしゃべりをする余裕があるのなら、もっとペースを上げようか?」

「はひぃっ!? い、いや……今のままで! お頼み申す!!」

「そうですとも! とっくに……私たちの限界速度は……超えていますッ!!」

「ふぅん、そうか? ま、2人の体に魔力を流しているから、しっかりそれを感じ取れるように頑張ってくれ」

「も、もちろん!!」

「はい! し、信じられないぐらいの、力が! 体を巡っているのを……感じています!!」

「よし、その感覚に集中するといい」


 こんな感じで、ソリブク村の2人が精神的に参りそうになったところで声掛けも欠かさないようにしている。

 まあ、この調子で行けば、今日中にソリブク村に着くことも可能であろう。

 そう思いつつギドに視線を送れば、同意の頷きを返してくる。

 こうして、昼までノンストップで走り抜いた。

 正直、俺だけの感覚では昼を抜いて走ってもよかったのだが、それだと腹内アレス君が納得しないからね。

 仕方なく食事休憩を挟むことにする。

 さて、ここでソリブク村の2人に、魔力についての感想を聞いてみるかな?


「どうだ、少しは魔力と親しめたか?」

「え、ええ、それなりには……」

「いまだかつてないほど、全身がカッカと熱くなったのを感じました」

「ふむ、今は俺の魔力を流し込んで普段とは感覚が違うから分かりやすくなっているのだろうが……早いところ魔力との触れ合いを会得してもらいたいものだな。そして目標は畑の土の魔力状態を感じ取ることなのだが……そこで午後からは少し内容を深めて、自分の体を畑の土であると考えながら走るといいんじゃないかと思う。疲労を感じる部位こそ魔力が枯渇気味であることの表れなのだろうし、畑でもそういう部分に魔力を送ってやることで安定感がうまれてくるわけだからな」

「な、なるほど……自分の体を畑に見立てるのですな?」

「魔力の足りない部分を補えるように……」

「そうだ、それができれば畑が復活するはず!」

「おおっ! 再び作物が育つようになるのですな!?」

「うぅっ……早く、そんな姿を見たい!」

「そうだろう、そうだろう……そのためにも、しっかり魔力との親和性を高めることだ!」

「分かり申した!」

「よし、やってやる!」


 昼食をいただきつつ、ソリブク村の2人を叱咤激励した。

 これにより、午後からはより密度の濃い時間となることが期待できる。

 さて、休憩も済んだことだし、ここからはソリブク村までノンストップで行くとしますかね。

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