第457話 つかみは上々といったところかな?

「この、じんわりと……膝の痛みが、治まっていく感じ……」

「……村長! もしや!?」

「ああ、これだ! 今、儂の膝に魔力が……集まってきたのを感じた!!」

「なんと! やりましたね!!」

「ほう、少しは魔力の感じをつかめてきたみたいだな?」

「儂はやりましたぞ! ワハハハハ!!」

「よし、私も村長に続くぞ!」


 まあ、もともと俺の魔力って濃いめだからね、割と分かりやすいと思う。

 加えて、分かりやすいように調整しながら送っているみたいなところもあるし。

 とはいえ、自分の体の中を巡る魔力を認識できたのなら、幸先がいいといえるだろう。

 こんな感じで、徐々に進歩を感じながら走っているわけだ。

 また、ソリブク村に向けて進むにつれ、だんだん周囲に生えている木がまばらになっていくのを感じる。

 それがある程度のところまでくると、ほとんど森がなくなる。

 そして、今はカッサカサに枯れた植物ばかりに見えるが、ここら辺も作物を育てていたのだろうなって感じの畑らしき土地が広がっている。

 なるほど……食べ物に困っている村などはモンスターを狩らないのかと思っていたが、これでは無理かもしれない。

 というのが、この世界ではどうやら、森のほうがモンスターが湧いてきやすいみたいなんだ。

 いや、森のほうが空気中の魔素が濃いめで魔力溜まりができやすいといったほうがいいのかもしれないが……

 とにかくそんな感じで、こういったひらけた場所っていうのは人間族のテリトリーといえるのか、モンスターが湧きづらい傾向にあるわけだ。

 この様子からもしかすると、クラッドガイン領は農作物の栽培に舵を切りつつあるんじゃないかなって思う。

 そもそもカイラスエント王国はここしばらく大きな戦争を経験していないみたいだし、ここクラッドガイン領は立地的にも王国中央部といえる。

 そのため戦闘に重きを置く必要性が下がり、武系から文系に移行しつつあっても驚くことではないだろう。

 まあ、この王国の現状として割とそういうトレンドらしいからね、特に中央部では。

 ……それが王国中枢部に紛れ込んでるマヌケ族の策略によるものだったとすれば、なんとも涙ぐましい努力だなぁと思わずにはいられんけどね。

 そんなことを思いつつ周囲を眺めていると、ある程度離れたところにこの土地の村人らしき人々が集っているのが見える。

 その中心に見知った顔があった、ソレバ村の若者である。

 おそらく、技術指導員として派遣されてきたんだろうなって感じだ。

 そう考えると、たまたま通りかかっただけだが、この村はもう大丈夫だろうなって思えてくる。

 というわけで、あの若者には技術指導をしっかり頑張ってもらいたいところだ。

 ま、その点については他人事ではなく、俺も頑張らなきゃいけないんだけどね。

 とまあ、こうしてひたすら走り続け、夕方過ぎ頃になってようやくソリブク村に到着した。


「お2人とも、お疲れさまでしたね」

「どうだ、いい汗をかけただろう?」

「は、はは……本当に、ソレバ村からここまで……1日で走り切ってしまった……」

「アレスさんの、魔法のおかげ……それは分かっていますが……それでもやっぱり、信じられませんね……」


 ギドと俺のねぎらいの言葉に対し、完走を果たしたソリブク村の2人が息も絶え絶えに感想を述べている。


「へぇ、ここがソリブク村かぁ……」

「初めて来たが……」

「その……なんといいますか……」


 ……まあ、3人娘のいいたいことは分かる。

 なんと表現するべきか、雰囲気的にどんよりと沈んだ感じがするのだ。

 とはいえ、作物が育たないという危機的な村の状況を考えれば、それも仕方のないことかもしれない。

 だが、それも今日までだ!

 ソリブク村の人々の頑張りにもよるが、これから畑の土の魔力状態が改善され、村の状況も上向きになっていくのだからな!!


「……!? おい、村長たちが帰ってきたぞ!!」

「お、おおっ……やっとだ!」

「これで……助かるッ!!」


 フーナンガ村長とズートミンの帰還に気付いた村人たちが続々と集まってくる。

 そして一瞬前まで沈んでいた顔に、期待の色が浮かんでいる。


「みんなには……先に私から謝らなければならないことがある……」


 ここで、ズートミンが己の過ちを告白した。

 正直、村人たちからキレられても仕方のないことをしたわけだが……


「確かに、アンタはやっちゃなんねぇことをしようとしたのかもしれないが……かといって、俺には責められねぇよ」

「ああ、俺も同じ状況になったとき、冷静でいられたか分からねぇもんな……」

「クソマジメなお前は、今まで無理し過ぎてたんだよ……」

「ま、やっちまったもんはしゃーねーべ」

「……もうソレバ村とは話が付いているのでしょう? それなら、私たちからそれ以上いう必要はないわ」

「そうだな! こんなときだからこそ、みんなで力を合わせてこの難局を乗り切ろう!!」

「そんんわけだからさ、ズートミンさん……そろそろ顔を上げなよ」

「みんな……本当にすまない……」


 もちろん、中には「このバカ! 何てことやりやがったんだ!!」って顔をした村人もいるが、割と同情的な反応が多い。

 このことからも、ズートミンがそれなりの慕われポジションに就いているのだろうことが察せられる。


「とりあえず、畑の面積自体はソレバ村よりもこちらのほうが広いのだし、まともに収穫さえできれば借り入れたぶんもすぐ返せるだろうよ」

「そうとも! それで、あなた方が助っ人に来てくれたとのことだが……この村の未来を託すことになる、よろしく頼んだ!!」


 そういって村人たちが一斉に俺たちに頭を下げてきた。

 これは責任重大だね……だが、自信はある。

 というわけで、デモンストレーションがてら村の空き地に魔法でプレハブ的な小屋を2つ生成したった。

 一応野営研修のとき既に経験しているからね、まあまあイケてるやつがササッとできちゃった。

 まあ、ソリブク村は主要な街道と接していないのもあって、宿泊施設が充実していないみたいだからね。

 いや、村の外から来た人が使えるようになっている空き家とかもないわけではなかったが、実力を見せるにはちょうどいいかなって思ったからさ。


「これは……凄い……」

「この村にあるどの家よりも……ずっと堅固だ」

「シンプルにいうと、住んでみたいです」


 フフッ、つかみは上々といったところかな?

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