第458話 あとからまた台無しにされてしまう

 ソリブク村に到着し、魔法で生成した石の壁によるプレハブ的な小屋が完成したところで夕食をいただく。

 その際、村人たちとの親睦も兼ねて焼肉をすることにした。

 これについて当然というべきか、食材は俺たちから提供……まあ、ソリブク村には余裕がないしさ。

 それに、こんなこともあろうかと……というわけでもないが、俺のマジックバッグには大量の食材が入っている。

 そんなふうに大量のストックを用意していないと、腹内アレス君が落ち着いてくれないからさ。

 ちなみに、その腹内アレス君であるが、こんな感じで人に食材を提供するときは意外と文句をいわない。

 そういうところは、気前がいいといえるのかもしれない。

 いや、そういう気質だからこそ原作ゲームでは、たかり屋的な取り巻きが周りにウロついていたというべきだろうか……

 ま、その取り巻き連中が誰だったのかってことについては、未だによく分からんのだがね。


「このオーク肉、本当に美味いな……」

「ああ、野菜はもちろん、肉もなかなか手に入らんからな……」

「う~ん、領主様の指示とはいえ……周りの森を切り開き過ぎだったんじゃない?」

「まあ、おかげでモンスターによる被害をあまり心配しなくてよくなったのはありがたいけど、今みたいな状況に陥ったらどうしょうもなくなっちまうもんな……」

「だねぇ、最近じゃオークどころかゴブリンすらこの辺じゃほとんど見ないし……」

「おい、お前ら! めったなことをいうもんじゃねぇ、領主様の耳に入ったらどうすんだ!!」

「……つーか、今年はこんなことになっちまったけど、去年まではたくさん収穫できてたんだし、それなりに快適に暮らせてただろ?」

「そうさなぁ、今年が上手くいかなかったからといって、それで全てが失敗だったというのも違うやもしれんのう」

「いや、それで冬が越せなくなって全滅したら終わりだろ……」

「ふぅむ……来年からは、もっと備蓄を増やすべきか……」

「まあまあ、アレスさんたちのおかげで久しぶりに腹いっぱいメシを食えたんだからさ、その喜びを噛みしめながら食おうぜ?」

「そうだな! 難しい話はあとにして、今は食べることに集中しよう!!」


 村人たちの話を聞いていると、去年までは農作物の栽培に特化して成功してたんだろうなぁって感じだ。

 また、その成功に慣れ過ぎて当たり前になっていたため、今年みたいな状況への対策が自然と疎かになってしまっていたのかもしれないな。

 ……やっぱ、領地経営って神経を使いそうだ。

 ミスったときの責任が重すぎるし……

 そう考えると、優秀な兄上がいてくれてよかった!

 俺だったら、精神的に潰れていたかもしれんからな……

 こうして兄上の存在に改めて感謝しつつ、焼肉を美味しくいただいていたのであった。

 そして夕食を食べ終わって解散するとき、昨日のフーナンガ村長やズートミンのように、村人たちにも寝るまでの時間を利用して魔力操作を練習しておいてもらうよういっておいた。

 明日から本格的に村の畑に手を加えることになるからね。

 しかも最初は、今日の2人みたいに俺たちソエラルタウト組が村人たちに魔力を送りながらって感じになるだろうから、各自魔力経の調子を整えておいてもらいたいところだ。

 ま、この辺は個人の判断に委ねることになってしまうが、意識ある人は頑張ってくれるだろう。

 そうして、俺たちも2つ作った小屋に男子チームと女子チームに別れて入った。

 といったところで、魔力操作をしながらギドと内緒話。


「ソリブク村に到着したわけだが……どうだ?」

「そうですね……以前私は今年の異常気象を魔王復活の予兆のようなものではないかと申しましたが……」

「ああ、力の均衡に影響が出てるって話か……」

「はい、そのことについては大きく外れていないと思っておりますが、どうやらこの村……いえ、この辺一帯の村の畑には魔族が手を加えた可能性が高いです」

「ほう?」

「本日移動中に通りかかった村の畑については、ソレバ村の方によってだいぶ改善されていたこともあって極々微かにしか感じ取れませんでしたが、こちらのソリブク村の畑には我々魔族のものらしき魔力の痕跡がありました」

「ということは、今年の不作騒ぎは魔王復活による予兆というより、魔族による直接的な仕業と見るべきということか?」

「おそらく魔族が手を加えなくても作物の生育不良にはつながったと思いますが、今の状態よりは軽微だったでしょう」

「ふむ……ならば、その犯人を始末せねばならんな」

「そうですね……そうしませんと、せっかく我々やソレバ村の方たちが指導して畑の状態を整えても、あとからまた台無しにされてしまうでしょう」

「う~ん、俺たちがいるうちにソリブク村をチョロついてくれればいいんだがな……いや、もし発見してもお前は姿を見せんほうがいいだろうな」

「おそらくそう遠くないうちに、畑の魔力状態を荒らしに現れると思います。そして今日感じ取った限りでは、私より練度の低い魔族でしょうから、心配には及びません」

「へぇ、そうなのか……とりあえず明日にでも、村長かズートミンにここ最近村に訪れた奴がいないか聞いてみるか」

「ええ、行商人や旅人に成りすまして来ている可能性は大いにありますね」

「よし、それじゃあ戦闘になることも視野に入れつつ明日から動くとするか……とはいえ、戦闘自体は俺にやらせてもらうつもりだがな」

「そんなに気を遣っていただかなくてもいいんですけどね」

「……ま、俺が戦いたいだけってことさ」

「ええ、そういうことにさせていただきましょう」


 まあね、ギドが読んだように同族と戦うことに気が引けるんじゃないかっていう気がしていたのも事実だ。

 そして、来週から学園の後期が始まるので、タイムリミットは今週いっぱいといったところ。

 それまでにマヌケ族が姿を現さなければ、学園に戻ったあとエリナ先生に相談するって感じかな。

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