第459話 いろいろ雑なんだろうさ
目が覚めた……ソリブク村に来て、最初の朝である。
「おはようございます、アレス様」
「うむ、おはよう」
ギドと軽く挨拶を交わしながら、朝練の準備をする。
といっても平静シリーズを身に付ける数を増やして5つにするだけなんだけどね。
ちなみに小屋の戸締りはきちんとしているので、3人娘が入ってくることはない。
つまり、朝の障壁魔法チャレンジはしていないってことになる。
というわけで小屋の外に出ると、3人娘が既にスタンバイしていたようだ。
「う~ん、大丈夫だと思ったんだけどな~」
「ノムルの障壁魔法にはムラがあって、まだまだ雑」
「ええ、サナさんのおっしゃるとおりですわね、強度の低い部分を見つけられましたもの」
「くやしぃ~っ!」
どうやら、3人娘同士で自主的に訓練をしていたようだね、感心感心。
その少しあとに村長やズートミンなど、朝練に参加する村人たちも現れた。
「お待たせしてしまいましたかな?」
「おはよう、ございます……」
「俺たちも今起きて来たところだから気にせず……それよりズートミン、もしかして寝てないんじゃないか?」
「え? ええ、まあ……寝る前に少し魔力操作を練習しようと思ったら、そのまま朝までという感じで……」
「へぇ……やるじゃないか! だが、無理はいかんな。とりあえずこれでも飲んどけ」
そういって、最下級ポーションをひょいっと渡したった。
まあ、俺レベルの魔力操作マンなら一晩やそこら徹夜で魔力操作に打ち込んでもさほど問題はない。
魔力経の流れに乗って魔力が全身を巡ることで、体力もサポートしてくれるだろうしさ。
とはいえ、それで調子に乗って数週間も数カ月も一睡もしないとかやっちゃうと、あとで変な影響が出そうだからやんないけど……身長が伸びなくなったら嫌だし。
そして、今のズートミンの練度では、魔力操作だけで体力を補うみたいなことは難しいといわざるを得ない。
まあ、前世でも瞑想をするだけで睡眠の必要がないという超人もいたみたいだし、ズートミンにもそういう才能があったかもしれないが……あの疲れた顔では、今のところ能力に目覚めたってこともなさそう。
「また、迷惑をかけてしまいましたね……」
「いや、敬遠されがちな魔力操作を一晩中やり切ったというズートミンの集中力に対して、俺なりに敬意を表したまでだ」
「はは……そんなふうにいってもらえるほどのことじゃありません……」
まあ、実際そうなんだろうな。
おそらく昨日、自分がやらかしたことについて村のみんながあまり責めてこなかったとか、そういうところに申し訳なさもあって頑張っちゃったんじゃないかなって思う。
……生真面目というか、なんというかって感じだ。
「ま、あまり抱え込み過ぎないようにな!」
といいつつ、魔力操作をやっていくうちに自然と心もリラックスしていくようになるだろうから、そんなに心配する必要もなかろう。
なんてやりとりもありつつ、朝練開始。
そして今回の朝練であるが、村の外周をぐるっと走りながら畑を見せてもらう。
まあ、見るまでもないかもしれないが、悲惨なまでにカッサカサ……
また、ここ数カ月のあいだに村に訪れた奴がいないか村人たちに聞いてみた。
「ここ数カ月ですか……ここら辺はどこも、畑しかない村ですからなぁ……」
「たまぁ~に、行商人とかが来るぐらいか?」
「うん……あとは徴税とかで領都から偉そうな人が来るぐらいじゃない?」
ああ、マヌケ族が領の中枢に潜り込んでる可能性もあるよな……その場合はいろいろ面倒そうだし、エリナ先生のツテで宮廷魔法士とかに任せることになるかもしれん。
とりあえず、今回は行商人のほうを聞いてみるか。
「ふむ……その行商人とはどんな話を?」
「そうだなぁ……やっぱ、今年の夏はヤベェとかそういう話が多かったな」
「ああでも、南のほうは意外と大丈夫だったって話してた奴もいたっけ?」
「いたな……それを聞いた瞬間『なんでこっちのほうが暑いんだよ!』って八つ当たりみたいなことを思っちまったなぁ」
「あのときはまだ、イラつく元気もあったよねぇ……」
「それより俺は、こっちの足元を見て吹っ掛けて来る奴にムカついてたけどな!」
「まあ、向こうも商売なんだってことは分かるけどさぁ……もうちょっと、こう、ねぇ?」
「そういや……良心的な値段で売ってくれる奴もいたよな?」
「ああ、あれには助けられたなぁ」
ほう、良心的な値段とな?
「そういえば……あの行商人から『奇跡の子』の話を聞いたんだった……」
村人たちから行商人の話を聞いていたところ、ズートミンが思い出したように呟きだした。
奇跡の子っていうのはもちろん、ソレバ村のカッツ君のことだね。
そして、まだ確定というには早いかもしれないが……ソイツがマヌケ族なんじゃないかと思う。
これはちょっと雑な判断に聞こえるかもしれないが、ギドの話では魔力操作の練度も低いみたいだし、犯人であろうマヌケ族はいろいろ雑なんだろうさ! きっと!!
ま、とりあえずソイツを第一候補としつつ、今週いっぱいは様子を見させてもらうとしましょうかね。
こんな感じで朝練を終え、朝食のため解散。
ちなみに朝練に参加した村人たちは、基本的に早起きだったという人もいるが、わざわざ朝練に参加してくるぐらいの意欲ある人たちだったので、魔力操作もそれなりに練習してきてくれたみたいだ。
そのため、朝練中もスムーズに魔力を送ることができた。
この調子でほかの村人たちも頑張ってきてくれたらありがたいのだが……果たしてどうかな?
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