第460話 それが遥か彼方ってわけでもない

 朝ご飯を食べ終わったあと、村人たちが集合して来るまでのあいだに、先ほど見せてもらった畑の状態を改めて魔力的に確認してみることにした。

 というわけで畑……というには渇いた印象の大地に手を当て、土の魔力状態を探ってみる。

 ………………ふむ、これは酷い。

 なんというか、見た目以上に枯渇している。

 農作業について素人の俺ですら、こんなんじゃ絶対に作物が育たないと自信を持っていえるぐらいだ。


「……アレス様、奥深いところに魔力の塊のようなものを感じませんか?」


 ギドがそっと耳打ちしてきた。

 奥深く? どれどれ………………むむっ!?

 反射的にギドのほうに顔を向けると、頷いている。

 なるほど、かなり深いところに……そして闇属性の魔法で隠蔽されていて見逃してしまいそうだったが、確かに魔力の塊らしきものがあった。

 しかしこれ……ギドに存在を示されなかったら見落としてたな。

 加えて、以前エリナ先生に魔力の隠蔽を教えてもらっていたからこそ、魔法によって隠蔽されてるって気付けたレベルだ。

 やはりマヌケ族とはいえ、魔族というべきか……魔法を使う者としての基礎スペックが違うっていうのは認めざるを得んのだろう。

 ……かといって、それが遥か彼方ってわけでもない。

 俺個人のことをいえば、保有魔力量のゴリ押し戦法があるので、そもそも実力的に負けてるつもりもなかった。

 そして見落としかけたとはいえ、隠蔽に気付くことはできたわけだからな。

 ようやく技術的な面でも、練度が低い魔族レベルなら背中が見えてきたってところだろうか。

 これなら、平静シリーズとともに魔力操作を頑張っていけば、そのうち追い付けそうな距離感だろう。

 ……あ、そういえば今! 平静シリーズを装備中だったんだ!!

 平静シリーズを身に付けていないときに調べていたら、一発目で見抜けていたかも!?

 そう考えると、さらに自信が持てそうだね。

 といいつつ、平静シリーズのことを忘れていたのはアホといわれても仕方がないけどさ……たははっ。

 まあ、このことを好意的に解釈すると、それだけ違和感がないぐらい平静シリーズに慣れてきたってことでもある。

 ……てことは、そろそろ6つ目いっちゃってもいいかな!?

 なんてことを考えているあいだ、3人娘も畑の土の魔力状態を確かめていたようだ。


「当たり前のことでしょうけれど、ソレバ村とは全然違いますわね……」

「う~ん、土に含まれているはずの魔力がスッカスカだもんね~?」

「異常気象というだけで、ここまでなるもの……?」

「……まあ、どっちかっていうと南側のソエラルタウト領は大丈夫かもしれないが、帰ったら兄上か義母上にこのことを報告しておいてくれ。ああ、一応俺も手紙に書いておくか、それも預けるから一緒に渡してくれ」

「かしこまりました」

「私たちが出発するときはなんともなかったみたいだし、そのまま大丈夫だといいよねぇ?」

「ええ、そうですわね……」

「もし領地に異常があったとしても……ソレバ村みたいに、誰かが気付いて対応していたはず」


 まあ、これまでの移動中に聞いてきたウワサ話なんかも含めると、マヌケ族が王国全土で一斉にやったって感じでもなさそうだけどね。

 それにサナのいうとおり、ソエラルタウト家には実力派のお姉さんたちがいてくれるのだから、きっと問題ナシに決まってるさ!

 こうして、ソリブク村の畑を確認し終えた。

 ちなみに、感知した魔力の塊を潰すなり、撤去するなりしようかとも思ったが、今はやめておいた。

 というのが、せっかくほとんど魔力がカラの状態の畑があるので、それを利用しない手はないと思ったのだ。

 たぶん、そのほうが村人たちにとっても、大地に魔力を込める感じが分かりやすいだろうしさ。

 といったところで、集合場所へ。

 そして村人たちが全員集合したところで、本日やることを説明……まあ、一応昨日も軽く説明してはあるんだけどね。

 また、村長やズートミンからの説得もあってみんなが納得しているためか、あからさまに文句をいってくる奴もいない。

 いや、魔力操作と聞いて嫌そうな顔をしている奴も一部いるけどさ、でも逆にいうとその程度。


「さて、まずはウォーミングアップとして魔力操作をしようか……それじゃあ、開始!」


 俺の号令の下、村人たちが各自魔力操作を始める。

 また、これは村人たちを5つのグループに振り分けるためのテストも兼ねている。

 この5つのグループというのは、俺たちソエラルタウト組の5人が分担することを意味する。

 まあ、ぶっちゃけ村人たちの魔力操作レベルにさほど差はないかもしれないが、少しでも早く実力を開花させられそうな人がいればと思ってね。

 そんな感じで、現段階で魔力操作の上手な人から順番にギド、サナ、ヨリ、ノムル、俺のグループに振り分けていく。

 また、ギドや3人娘が担当するグループは少数精鋭にするつもり。

 ここでドヤ顔先生の異名を持つギドのグループには、特に期待したいところだ。

 そしてサナ、ヨリ、ノムルは魔力操作の滑らかさ順って感じかな。

 そんで選抜漏れの大多数の村人は俺が受け持つことになるわけだ。

 まあね、保有魔力的に俺が受け持つ人数が多くなるのは必然といえるだろう。

 ただ……たぶん、俺のグループは優しさとか丁寧さは一切無視になると思うね……フフッ。

 とまあ、そんな感じでグループ分けを済ませたところで、本格的に訓練開始である。

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