第27話 限界を超えた力

「目の前で大事な者の命を奪われた……その悲しみが、深い怒りが眠っていた勇者の力を目覚めさせた……ってな感じかな?」


 俺の目の前にはキラッキラのオーラ強めの鎧に身を包み、神聖な気を放っているかのような剣を携えた1体のゴブリンがいた。

 どうやらモンスターの場合、進化の際に装備品も標準で付与されるみたいでお得だね。

 俺たち人間の場合は、自分で武器とか調達しなきゃいけないのに……まぁ、俺の場合は侯爵家から支給された資金で揃えた装備なので、あんまり条件が変わんないかもしれないけどさ。

 それはそれとして驚いた、こんなところでゴブリンヒーローに出会えるなんて。

 めっちゃラッキーだね!!

 ゴブリンヒーロー……まぁ、つまりはゴブリンの勇者。

 ゲームの設定では超低確率で出現するユニークモンスターで、スケルトンヒーローとかオークヒーローみたいな感じで、各モンスター種族ごとに勇者と称される強個体がいる。

 このヒーローシリーズ、めちゃ強い代わりに貰える経験値がすんごいの。

 更に、やり込み要素として、各ヒーローを討伐することで称号が貰えるので、同好の士の中にはその収集をメインの楽しみとする方も多かった。

 かくいう俺も全種コンプリートに挑戦しようかなっていうか、まぁ、その途中で転生してしまったからね……

 この世界はメニューシステムとかないみたいだから討伐しても、ピロリン「称号『ゴブリンヒーローの討伐者』を得ました」みたいなアナウンスは出ないんだろうな。

 でもさ、そうは言っても個人的にヒーロー狩りを楽しむのはアリでしょ? よっしゃ、この世界でやることが増えた、それを思い出させてくれたゴブリンヒーローには感謝だね。


「さて、結構な時間をあげたと思うけど、進化した体は馴染んだかい? こっちとしてはいつでもいいよ?」

「ガアァ!!」

「いっちょ前に威嚇か? こちとらゲームで勇者の力に目覚めた主人公相手に最後まで一歩も引かなかったアレスさんだぞ? ゴブリン界の勇者ごときが悪役転生者舐めんな!」


 こちらの言葉がわかるのかどうかは知らないが、こちらへ向けられる殺意がガンガン高まってきていることだけは感じられる。

 いいよ、初のヒーロー狩り燃えてきたよ!


「よっしゃ、お前になら手加減は要らなそうだ……ミキオ君蹂躙モード全開で行くのでヨロシクぅぅぅぅ!!」


 そう叫びながら、大上段に構えてヒーローに突っ込んで行く。

 そして、暴力的な魔力が刀身から溢れだすミキオ君をヒーローに向けて全力で振り下ろす。


「グガァ!!」

「……へぇ、お前も魔纏を使えたんだ、やるじゃないの!」

「グ、グガアァ!!」

「でも残念、ミキオ君はお前の魔纏ごとき、削り砕く!」

「グゥ!」


 ヒーローはミキオ君を受け止めた剣に展開していた魔纏がガリガリと削られていくのに危険を感じたのか、後方に飛んで緊急離脱を図る。


「距離を取っても無駄さ」


 ヒーローの予想着地点に地属性のサンドランスを生成。

 しかし、足元に魔纏を集中展開させることで防御を固めるヒーロー。


「足元ばっか見てちゃ危ないよ!?」


 距離を詰めてミキオ君を袈裟懸けに振り抜き、追い打ちをかける。


「グ……ゥ!」

「どしたどしたぁ! お前の仇は目の前にいるんだぞ!? お前の怒りはそんなものか? お前の悲しみはその程度で終わっちまうものなのかぁ!?」

「ガ! ガアァァァ!!」


 雄叫びを上げるヒーローの全身からまばゆい光が発せられる。

 己の中に眠る全ての力を引き出しているのだろう、爆発的な魔力の高まりが感じられる。


「よっしゃ、そうこなくっちゃ! いいぞ、どんどん来い!! お前のすべてを俺が受け止めてやるよぉ!!」


 ヒーローによる全力の猛攻が俺に襲いかかる。

 剣術とかそんな綺麗事一切なしの、ただただ力の限り、想いの全てを注ぎ込んだ斬撃が何度も俺に打ち込まれる。

 ……だが、しっかりと魔力を込めた俺の魔纏を突破するにはまだ足りない、それじゃあ俺には届かない。


「燃やせ、もっと命を燃やせぇ!! お前の命の輝きを見せてみろぉ!!」

「ガアァァァァァァァァァ!!」


 進化直後のピッカピカだった鎧はあっちこっちひしゃげてボロボロ。

 剣も刃こぼれだらけでいつ折れてもおかしくない。

 大きな力に体が耐え切れなくなっているのだろう、体中至る所から血が噴き出ている。

 もうとっくに限界を超えている。

 大きく振りかぶるヒーロー。

 おそらくこれが最後の一撃だろう。

 受けて立つ。


「……届いたじゃないか」

「……グ…………ガ………………ァ」


 全力で振り下ろされた剣をミキオ君で受けたところ、耐久力を超えたヒーローの剣は根元から折れ、柄だけを残して砕け散った。

 だが、ヒーローの剣圧はかき消されることなく俺に襲いかかって来た。

 もちろん魔纏で完全防御……したつもりだったが、衝撃全てを防ぎきれなかったようで肩にダメージを負った。

 そうして、命を燃やし尽くしたのだろうヒーローはそのまま静かに息絶えた。

 その表情には、悔しさとやり切った男の顔が同居していたように見えたが、実際のところはどうだったのかはわからない。


「……初のヒーロー戦にめちゃくちゃテンション上がって、はしゃいじゃったよ」


 そんな高揚した気分を鎮める意味も込めて、回復ポーションと魔力ポーションを1本ずつゴクリ。

 正直、このヒーロー戦は客観的に見て、慎重さが足りない戦い方だったと思う。

 ……今だから言うが、調子に乗ってた。

 ただ、ゲームの強制力が働いて主人公君と戦う可能性を考慮して、勇者の秘められた力っていうのを今のうちに試しておきたかったというのもある。

 ゲーム知識から、アレス君の実力なら確実に勝てるという勝算があったし、ヒーローシリーズ最弱と噂されるゴブリンヒーローは勇者の底力を測るのに丁度良い相手だと思ったのだ。

 そして実験の結果、やはり勇者は侮れないと再認識できた。

 特に最後の一撃なんて、完全に本来の実力……限界を超えた力だったと思う。

 本音を言えば、いくら勇者でもゴブリンのポテンシャルでは、かなり魔力を練り込んだ俺の魔纏を突破するのは不可能だろうと高を括っていたのだが、届いてしまった……

 勇者には単なるポテンシャルだけでは測れない特別な力があるのだと、深く深く学んだ。

 そのような気付きを与えてくれたゴブリンヒーローには感謝の念を捧げる。

 また、これでようやく集落のゴブリンの殲滅は完了したので、引き続き回収作業に移ろう。

 ……ただ、このヒーローとプリーストについては魔石だけを回収して丁重に葬ろうと思う。

 ヒーローとはタイマン張った仲だ、ヤンキー漫画だったらきっとマブダチになってたはずだからね。

 そんな相手の亡骸をギルドに売り払うなんて真似、俺には出来ない。

 討伐報酬よりも大事なものをヒーローにはたくさん貰ったんだ、それでいいのさ。

 ちなみに、ヒーローとの戦闘後、魔臓がちょっと大きくというか広がった感がある。

 もしかしたらこの辺がゲームだとレベルアップという扱いになるのかもしれない。

 ヒーローだからこその特典なのか、単純につぇー奴を倒したら魔臓の容量がアップするのかは現時点では何とも言えないが、この辺については戦闘を重ねれば追々とわかってくることだろう。

 そんなことを考えながら、地属性魔法で5メートルほど穴を掘り、魔石を取り出したヒーローとプリーストの亡骸を底に並べて寝かせ、埋め戻した。

 念のため、誰かに掘り起こされないよう、穴周辺を魔力をふんだんに込めてガッチガチに固めておいた。

 どっちかって言うと封印したみたいになってるね……

 ま、モンスターから魔石を取り出しておけばアンデッド化とか復活はしないらしいから、これでヨシ。

 あ、ついでだからさっきの戦いで折れたヒーローの剣の柄部分をここに伝説の剣が刺さってます風にくっ付けておこう。

 一応柄自体は本物の勇者の剣だし、いい感じじゃない?

 もしかしたらそのうち、噂を聞きつけた腕に自信アリの若者とかが抜きに来るようになって、観光資源化するかもしれんし。

 まぁ、その人らが頑張って抜けるというか取れたとしても柄だけなんだけどね。

 さてと、あとは残ったゴブリンの死体の回収作業を始めよう。

 もしかして実際の戦闘時間よりも長くなるかもしれないけどね。

 この集落結構広いし。


 ……数時間かかったが、終わった。

 予想してたことだけど、やっぱり時間がかかった。

 それと、集落には宝物庫みたいな場所もあって、そこに人間の装備品など様々な物が置いてあったので、一通り回収しておいた。

 この中には討伐隊の戦死者の遺品などもあるだろうから、村に戻ったら遺族に返してあげよう。


「よし、ゴブリン集落の殲滅はこれにて終了、村に戻ろう」


 あ、その前に……汗とかすごいからね、近くの川で水浴びをしてからにしよう。

 村に戻った頃にはお昼かな、腹内アレス君もそろそろ騒ぎ出しそうな気配もあるからね、のんびりはしてられない。

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